時間がループするラブホテルに泊まってしまった話
シンタクヤ
第1話 jk、ラブホテル、タイムループ。
柔らかなシーツの感触、周りをピンク色に照らす照明。……ラブホテル?
脳をくすぐられるような、どこか甘ったるい良い香り。その正体は、隣ですやすやと穏やかに呼吸しながら横になっている、jkからのものだった。
「うそ……だよな……?」
頭の中に鳴り響く警鐘。ラブホテル、女子高生、犯罪。犯罪。犯罪。
頭が働かない。記憶が、ない。どうしてこんなことになっているのか。まず、この子は誰だ。というか俺は……なんだ?分からない。なにもかも。
「ん……」
かすかな吐息が聞こえ、身体に緊張が走る。隣のjkが目覚めたようだった。
「え、なに……これ……」
jkは体を起こし、こちらを見据える。そして、
パァンッ
「最低……」
そう言うと、彼女は部屋から立ち去っていった。
「わけわかんねえよ……」
右頬がひりひりと痛む。どうすりゃいいんだよ、これから……。
――――
外に出たが、周りの風景に見覚えはない。スマホで現在地を確認し、ここの地名を知ったところで、記憶には残っていなかった。
今は、2024年、12月28日、午後2時29分。
薄着なため、風で肌がひりつく。盛大にくしゃみを出す。
この気温の中、自分の家がどこにあるのか、それすらも分からない絶望的な状況。
「はっ……これ死んだかもな……」
本当に笑えない。ラブホテルに女子高生と泊まり、記憶をなくし、平手打ちされ、ふらふらと街をさまよい……挙句の果てに野垂れ死ぬ。ここまできたらギャグだな。
しばらく呆然としながら歩いていると、いつの間にか公園にたどり着いていた。遊具は少ないが、ベンチを一つ見つけることができた。
目覚めてからというもの、頭が痛む。歩きっぱなしで足も限界だ。少し休憩を取りたい。
そう思い、ベンチの上で横になる。
全て夢であってくれと強く願いながら。
―――
「完っ全に、寝すぎた」
時刻は午後9時58分。身体の震えが止まらない。スマホを見ると、気温は1℃。考える限り最悪の目覚めだった。
身体を無理やり起こし、ポケットを探る。財布は有ったが、身分証明書などが一切見当たらない。入っていたのは、千円札だけ。頭を掻きむしり、俯く。詰んだろ……これ。
とりあえず、交番に行くしかない。身分の確認ができない男がやってきて、どんな対応を取られるのか知らないが、ついぞ思い出せなかったんだ。警察のお世話になるのが一番だろう。
身体をさすりながら公園を後にしようとすると、
「飛日 (あすひ) くん……?」
いきなり呼びかけられた。
「えっ……?!俺の名前、飛日なの?!まじ?!」
凄まじい勢いで、呼びかけてきた女性に近づき、畳みかける。
「え、うん」
めちゃくちゃ戸惑っている女性。しかし、構わず質問をする。こんな奇跡は一生起こらない。記憶をなくして公園で寝ていたら、たまたま自分の名前を知っている人が通りかかったんだ。
現実は小説より奇なり、だ。
「よかっっっったああああああああ……実は、自分の家がどこにあるか忘れ――――え?」
まばたきを終えた瞬間だった。
柔らかなシーツの感触、周りをピンク色に照らす照明。
隣には、甘い良い香りのするjkが目を丸くして、俺を見ている。
2024年、12月28日、午後2時13分。
俺は、なぜかラブホテルに舞い戻っていた。
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