第16話 敵
コツンコツンコツン
コツンコツンコツン
暗闇に響く謎の音。
一瞬、シャーペンが移動する時に鳴る音だとアドは思っていた。
しかし彼が止まっても音は鳴る。反響ではない、別の何かの足音に聞こえた。
その別の何かが出す足音がシャーペンの足音に似ているという事は、シャーペンと同じような存在という事だろう。
「魔物ではなくアイテムがいるかもしれません」
アドが呟くとアルも頷いた。シャーペンは光る石を置いて警戒する。
コツンコツンコツンと響く恐怖が大きく聞こえてきた。
3人は曲がり角に隠れて足音の正体の様子を見る。
小さな体を駆使し、2人のさらに後ろへ隠れようと後退りするシャーペン。
彼の背中に何か柔らかいものが触れた。驚いて振り向くと、柔らかいものは白い壁でった。
いやいや、なぜ地下通路の壁が柔らかいのだ。それにこの廊下の壁の色は茶色いレンガであって、白ではない。
不思議な壁を前に、シャーペンは嫌な予感がして見上げてみると、なんとその白く柔らかい壁はアドのパンツだった。
彼女は屈んでいたからだ。
「げっ……⁉︎」
「おい…」
静かに怒鳴るアド。シャーペンは彼女の前に平伏した。
そして唱えた。
「アリガトウゴザイマスアリガトウゴザイマスアリガトウゴザイマスアリガトウゴザイマス」
「チッ」
「うわァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…」
シャーペンが叫んだために、足音の主が彼らの存在に気づく。
「なんだ…この声は」
音の間隔が短くなった。こちらへ走ってきている。
「やべ、ちょ、こうなりゃ…応用技だ!」
シャーペンはいつも通り、光る石を生成した。
「そんなんで、どうやって逃げるんですか⁉︎」
「俺に良い考えがあります」
光る石を出す度に石の大きさが大きくなっていき、そして終いには壁のように平べったく大きくなって、3人の前に立った。
これで向こう側からシャーペン側は見えなくなる。
おまけにこの壁は光るので、目印にもなる。
石の大きさを変えるだけで防御技として活用できるのだ!
「なるほど、小さな石でも大きくすればシールドになると。
特訓すれば、すぐに大きな石を出せるようになりそうだ」
アルに褒められて、シャーペンは嬉しくなった。
だが壁の向こうには足音の主。この石を外せばすぐに見つかる状態。今気づいた事だが、この石が放つ青い光は魔物だけでなく敵対している対象にも見えないらしい。
心臓の音だけが聞こえる。足音の主は、どこかへ行ったようだ。
壁を外し、3人は廊下の様子を恐る恐る覗く。
何もいない。しかし床が変だ。先ほどアドが踏んだネバネバだらけであった。
そしてネバネバの付き具合と足音からして、シャーペンは考える。
「おそらく敵はスティックのり…ですね」
考えて言った後、彼は恥ずかしくなってきた。
ここまで真剣に、〝おそらく敵はスティックのり…ですね〟と呟いた事が無かったからだ。
まずスティックのりが敵だなんて、人生で一度も思った事が無い。もう少しドラゴンや悪魔、魔王軍の敵幹部などの怖そうな名前の奴らと戦いたかったシャーペンは、ショックを受けた。
「スティックのり?なんだそれは…」
「色鉛筆の時は、なんとなく名前の意味はわかりましたが…スティックのりは全くわかりませんね。
いや、スティック状のノリなのかな?」
アルとアドは真剣に考える。シャーペンは言った。
「アドさんの言う通りスティック状のノリで、俺が元いた世界では重宝されていました。
学校にはあるのに家には無いのが弱点ですが、正直テープよりも使いやすくて人気です」
「なるほど。となるとテープはこの街にいないのか?」
「それは…わかりませんね」
テープとスティックのりが共謀しているのか?
それともスティックのりだけなのか?
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