虚構世界の待雪草

錦野

第1話 死後労働

     死後の世界ってどんなだろう。

     どんな人達がいるんだろう。

   私は、それを知りたくて仕方がない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ―コツコツと靴の音が響く ―


 ここはチェスボードのような床の部屋。


 辺りは薄暗く電気も無いのに、私の所だけ少し明るい。

私は不思議なこの空間で何故か座らされている。


 どんどん靴音が近づいてくると、眼鏡をかけたスーツ姿の男性がこちらに歩いてきているのが分かった。


 男性は私の目の前で止まった。

「この度はご愁傷様でした」


 私はぎこちなく答えたが当然の反応だと思う。  

「恐れ入ります? ………あれ、私の家族は亡く 

 なっていませんが」


 男性は私の前でしゃがんだ。

「亡くなられたのは貴方ですよ。坂口愛望さかぐちあもさん」



 坂口さかぐち 愛望あも(16)



「え……?」


「昨日午後23時頃、月野市のデパートで女子高 

 生が倒れているのを店員が見つけ、搬送される

 も死亡が確認されました。

 この女子生徒が………なんです」 


 愛望は固まり、沈黙が少しの間続いた。


「この先、貴方には2つの選択肢があります。

 一つは来世の為に仏道修行ぶつどうしゅぎょうを行うこと。

 もう一つは現世の為にここで働くことです」


理解が追いつかない三つ編み少女とお構い無しに話進める眼鏡の男性。


「死者は皆、仏に成ると聞いたことはあります       

 か? ここではその為の修行が行われます。

 仏に成られた後、再び人生を歩むのです」


 私はやっと口を開けれた。

「えっと貴方は……」


 男性は眼鏡を取った。

「申し遅れました。私はここで働いています、

 三雫みしずと申します」



 ✕ ✕ 三雫みしず(27)



「貴方も我々と共にここで働きませんか? 」


「え?」


三雫さんは力強く言った。

「貴方の願いが叶います!

 貴方を襲う苦しみももう何も無いんですよ」


 私は三雫さんを見た。

「………月に行きたいっ!」

「無理です」

「世界旅行したい!」

「無理です」

「金持ちになりたい」

「無理です」

 三雫は即答した。


叶うって言ったじゃないですか……?」

「すみません、財力ないんですよ。

 全て断っている上で申し訳ないんですけど、一

 つお願いがあります。 

 少しの間私にお付き合いください」

 そう言うと三雫さんは私の手を引き、後ろの扉を開けた。


 開けた先はガヤガヤと騒がしく、キラキラと明るい光が見えた。

 そこはとても広い建物で、内側にドアがいくつも見えている。下を覗くと機関車が停まっていて、それに続々と乗る人々がいた。そして上を見上げるとドーム型の明るい窓が見えている。


 私が見渡すのに夢中になっていると、三雫さんが話始めた。

「ここは亡くなられた方が仏道修行に行く際の駅であり、旅館でもあります」


「では、ここでの仕事って駅員とかですか?」


「残念不正解。我々の仕事というのは現世で生き 

 る人々の外因死を防ぐことです」


 私は頭を傾けた。

「外因死って何ですか?」


 三雫が眼鏡をかけた。

「外因死とは、自殺や他殺、自然災害などの病気

 以外の原因で亡くなったことです。

 現世に行き、外因死それを防ぐことが我々のが 

 我々の仕事です」


「現世に行くんですか? この姿で?」


「もちろんです。 実際には外因死のとなる災いと戦います」


 驚く間も無く、背後から女性の声が聞こえた。

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