驚くスノーホワイト

 着替えて来るから15分後に会社の玄関ホール前で!と森川さんは言って消えた。


 15分で着替えて来れる?でもなんでもてきちゃう森川さんだから15分で美人でカッコいい女性に変身してくる気がした。


 私も用意をして、玄関ホールへ降りて行った。仕事納めのどこかホッとしたような和やかな雰囲気が帰る人達から感じられる。


 私も休みに入ると思うと、ホッとした。やっと休める。……問題は片付いていないけど。


 玄関ホールの窓の外には雪が降っていた。なんだか積もりそうな雪だった。地面に染み込まずに白く染めていっている。帰りの電車動くよね?


「あれ?白雪さん?」


 後ろからの声に思わず身をすくめた。嫌だ。振り向きたくない。この声って……。


「聞こえなかった?白雪さんっ!」


 無視したと思われるのも……と思い、振り返るとそこには会いたくない人がいた。伏見さんだった。同僚といたようだったが、帰れ帰れと手で追い払って、一人になる。私と伏見さんが向かい合って話す形になってしまった。


「今、帰るとこ?」


「はい。そうです」


「俺もなんだ。明日から休みだろ?一緒に飲みに行こう。奢るよ」


「私、この後、約束あるんです」


 森川さんと……という名前を言おうとする私を遮る。


「いやいや、嘘だろ?彼氏とかいないこと知ってるよ。ずーっと残業してたもんね。かわいそうにな。山本先輩怖かったでしょ?」


 あははと元カノである山本先輩を笑いながらそんなふうに言う伏見さん。残業してたこと知ってたんだ。私はどこか冷めた目で目の前の人を見てしまった。


「いいから!行こう。こないだ忘年会もきてなかっただろ?仕事納めの日くらい飲みに行こう」


 手首を力強く掴まれた。私は思わず後ずさりした。


「離してください。私っ、本当にこの後約束があるんですっ!」


 本気で嫌なんですってことを示しているのになんで伝わらないの!?掴まれた腕に指が食い込んできて痛い。


「嘘つくなよ。いいから行こう」


 無理やり引っ張られる。


 おい。やめろ……と低い声がした。


「白雪さんの先約はこっちだ」  


 伏見さんと私が声の方を見ると、綺麗な顔立ちの青年が立っていた。スーツを着て、姿勢良く立っている。この人ってもしかして!?森川さんっ!?女顔ではあるけれど、雰囲気は人を圧倒させるものがあった。


「は!?し、白雪さんの……」


 伏見さんも流石に戸惑う。自然と私から手を離した。


「森……じゃなくて……えーと…」


「白雪さんはこの後、オレと予定がある。行こう」


 相手に言い返す隙が無いくらい。淡々と告げて、私についてくるように促す。私はさよなら!お疲れ様ですっ!とどこか呆然としている伏見さんに挨拶し、森川さんについていく。


「森川さん、男の姿でもカッコいいですね!」


「……礼を言うべきか言わないべきかわからない。それより手首大丈夫か?」


「あ、はい」  


 少し赤くなっている。森川さんがなぜかムッとして怒っているような気がした。


「森川さん?」


「行こう」

  

 玄関ホールから出ると雪が降っていて、車のフロントガラスにもくっついていた。黒の大きい高そうな車。私、車には詳しくないけど、高級車だとわかる。


「どうぞ」

  

 ピッと鍵が開く。えっ?は!?


「これ森川さんのっ!?えええっ!?」

 

「なんで驚く?雪、また頭に積もるぞ。早く乗れ」

 

「は、はいっ!」


 驚いていると森川さんが助手席に私を押し込むように乗せた。


「森川さんって派遣なのにどうして?」


 ワイパーを゙動かしてフロントガラスの雪をどけた。スーッと白い膜は落ちて、透明なガラスが現れ、雪降る夜の街並みを見せる。


「それを今から話す」   


 淡々と無表情なのは男になっても変わらない。森川さんは森川さんのようだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る