助けられるスノーホワイト
そこにいたのはカッコイイ男の……じゃなくてカッコイイ女の人だった。えーと、確かこの人は……。
「派遣の
ちょっと低めの声のアルトボイス。落ち着いた人だ。身長は高く、かなり美人。でも塩対応のため、他の人から敬遠されていたはず。でも仕事はしっかりしているし、できる人だよねって女子社員で噂にもなっていた。
「そんなことないです。森川さん知ってます!」
『これお願いします』『これってなんですか?しっかりと内容の指示お願いします。その方が円滑に仕事もまわりますから』『午後の会議のコピーです。すいません至急してください』『はい。了解しました』そういうやりとりを見たことがある。まるでロボットのように仕事をこなし、スピードも速い。
「雪、見てたの?」
「あ、はっ、はいっ!今日の天気予報雪でしたっけ!?」
「午後20時から雪になっていた。23時から本格的に降ると天気予報ではなっていたから、それまでに仕事終わらせないと電車止まるかも。手伝う。どれする?」
「は!?えっ!?」
大きくて長い指をした手を私に差しだす。顔は無表情で本当にロボットみたい。
「はやく」
「いいんですか!?忘年会は!?」
「派遣にそんな高いお金払えるわけない。それに行きたいわけでもない。はやく指示!」
「はいっ!」
印刷した用紙をページ順に閉じていく作業を頼む。机に淡々と紙を並べて指サックをはめた。シャキーンと装備音が聞こえたのは空耳?
ババババババとすごい速さで紙をまくっていき、一つの冊子にしてしまう。
手元が早すぎる!!思わず見とれたが、手伝ってもらっている私がぼんやりしてどうするの!と私も仕事をする。
二人ですると……いや、森川さんとだからあっという間に終わってしまった。パソコンのデータ入力の打ち方、正確性もすごかった。なぜ、こんな人が派遣なの!?
「ジャスト21時。駅まで21時半には行ける」
「あのっ!ありがとうございました!」
私がお礼を言っても無表情だった。帰ろうと言われただけだった。
外に出ると白い雪がびゅうぅと風と共に吹き付けてきて、目の前が見えにくい。
「まったく。天気予報じゃ23時だった。しかたない。駅まで送る」
「森川さんは電車じゃないんですか?」
「うん。そう。でも白雪さんが心配だから送る」
「悪いです!」
「一人で、こんな視界が悪くて暗いなか帰せない」
森川さんは頼れる姐御的な空気がある。男の人が言うようなセリフでも似合う。カッコイイ人だ。もし男の人なら好きになっちゃうかも。寄り添うようにして駅まで歩いていく。
雪が降るなか、やっと駅についた。森川さんが私を見て、初めて顔の表情をフッと崩した。その少し笑ったような顔にドキドキした。
「いくら吹雪いているからって、傘かぶるの下手すぎ」
パタパタと私の頭を撫でるようにし、雪を落としてくれた。そしてじっと顔をみつめられた。
「白雪姫みたいだね。白い肌にほっぺが赤くなってて、可愛い」
私の心臓が跳ねた。おかしい。女の人に言われているのに!?あきらかに動揺した私の心。
森川さんはそんな私に気づかないようで、じゃあねと手をあげて、タクシー乗り場の方向へ歩いていった。
ドキドキドキドキしている私は雪が溶けるくらい頬が熱くなるのを感じた。おかしいでしょう?相手は森川さんなのよ!
あんなふうに職場で伏見さんに可愛いから気に入っているとか言われてもまったく嬉しくなかった。でも今、森川さんに言われると嬉しかった。
駅の白い明りが落ちてくる雪を照らす。細かい白い羽根が落ちてきているように綺麗に見えた。私の中で雪の質感がいつの間にか変わっていた。冷たい無機質な雪が包み込むような暖かな羽根にいつの間にか変わっていたのだった。
これはきっと森川さんのせい。
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