第21話 匠真 危険な男
匠真は得意のすり足で音もなく声のした現場に近づいていく。そして岩の後ろに隠れて様子を伺う。
そこから現場までの距離は50メートルほどはあっただろう。
しかしレベル8の匠真は視力までもが格段に上がっていて、そこからでもハッキリと彼らの姿形や表情を目視できた。
声からして男と女のようだ。もしかして
よく見ると、赤髪で派手な格好の探索者の男は岩山の高台から女を見下ろして睨みつけている。
さらに男の後ろには仲間と思われる人間が二人。同じく女に睨みを効かせている。共通するのは三人共不遜な態度だということだ。
……ここで匠真は一つ気にかかったのだが、奴らの頭上にはホネが一台も飛んでいないのだ。
――探索者一人につき一台必ずくっついているハズなのにな……。
まあ“平定の剣”があるから争いはまず起こらないだろう。そう思いとりあえず静観を決めた匠真。
すると赤髪の男が情報板を出して女に向けた。
「ほう。貴様やはりデルヴの探索者か。おい、今からこの一帯は練馬ダンジョン“エンペラー”の九条が管理する。ゆえに勝手に侵入した貴様は罰さねばならない!」
よく通る声でそんな傍若無人なことを言い放つ九条という男。
その威圧的な態度は、ただのおら付きや脅しと言うにはあまりにも堂々としていて、本気で警告しているのだと思わせるに十分な迫力があった。
というか、“九条”?……どこかで聞いたことがあったような気もするな……まあいい、どれ程のレベルか見てみよう。
匠真は早速、岩陰から九条達に向かって情報板を展開させた。すると――。
『佐藤 極次:レベル6』
『室木 荘次郎:レベル12』
『
なんだこれは!?九条の後ろの二人しか分からないじゃないか。
肝心の九条のレベルが分からず匠真は少し憤ったが、ここで奴らの会話を思い出した。
それによれば女の方はデルヴの探索者だという話だ。見たのも会ったのも初めてだが、一応“仲間”なハズだ……そう思い、匠真はあの女にも情報板を向けてみた。
『
――おお、あの女中々レベル高いな!
すると真白という女は九条達に反発した。
「九条!アンタは猿山の大将みたいな事やってないで練馬エデンで大人しくしてなよ。っていうか私、偉そうな奴って基本大嫌いだから!!」
聞いてて分かったがこの真白という女、かなり気が強そうに見える。
匠真は基本的にうるさい奴が苦手だ。デルヴのメンバーでなければまず好んで関わろうとはしないだろう。
「ああん!?てめえ九条さんになんて口聞いてんだコラァ!」
九条の部下らしい輩っぽい男が真白に言い返す。
「何?ここは渋谷エデンからも練馬エデンからも離れてる緩衝地帯でしょ!?ケンカ打ってんのはそっちだから!」
男を指差してまた真白も言い返す。
ここで九条が真白を挑発した。
「おいお前。随分威勢がいいようだが、それは“平定の剣”があるがゆえの余裕だな?自分が攻撃を受けることはないと高を括っているわけだ」
「は、はあ!?バカにすんな!私そんなのに頼ってねーし」
「俺に無礼を働いた貴様が、俺に殺されない理由はもはやそれしかない。ただお前は守られているだけだ。平定の剣という
「……」
匠真は感心した。確かに平定の剣というのは治安維持にしっかり機能しているな、と。
そして再び奴らの動向を見守ることにした。
図星を付かれたらしい真白は、自分の胸に手を当てて九条を煽った。
「……まあね。でも悪い?外の日本だって皆警察は頼りにするでしょ!?ダンジョン内も一緒。第一世代の人達はアンタみたいな悪党がのさぼらないようにちゃんと考えてたのよ!ざまあないね」
しかし九条は冷静だ。
「だが抜け道はあるぞ。貴様は剣が落ちてくる条件を考えたことはないのか?」
「は?な、何それ……!?」
匠真も真白と同じく頭に疑問符が浮かぶ。
すると九条は部下の二人にチラリと目をやり確認するように言った。
「おい、ここら辺に俺達が畑を作るために野菜の種を蒔いたよな?」
「は、はい!そうっす!」
「だから俺達の土地っす!!」
「あの女はそこに無断で侵入し、警告したにも関わらず出ていかなかった……そうだな?」
「はい、畑を荒らされました!だから罰としてブッ潰しまーす!!」
「は、はあああ!?ナニソレ!バッカじゃないの!?」
九条は再び真白を振り向き不適に笑う。
「馬鹿かどうかを決めるのはお前じゃない。“剣”だ。捕らえろ!」
「ひゃっはーー!!」
九条の号令で、まるで犬笛を吹かれた犬のようにレベル6の部下が真白に向かっていく。
匠真は数個持ち歩いていた硬めの石を右手に持って岩陰から構えた。
しかしおそらく大丈夫だろうという気がしていた。なぜなら単純に真白の方がレベルが高いからだ。
真白本人もしっかりと相手を見据え、持っていた大きめの剣を振った。
――ガッ!!
「ぐぎゃあああ!!」
一撃で岩壁まで飛ばされる男。
「ふん!鞘越しだから死なないでしょ……ってか剣は……!?」
平定の剣発動の合図である笛がならないか、真白は気が気でない様子。
しかし次にいよいよ奴が動く。
「部下をやられたら俺としても動かねばならんなァ。ククク」
不敵な笑みを浮かべながら九条は真白を睨んだ。
そうか!今のこれぐらいのやり取りでは剣は降らないことが証明されてしまった。だとしたらマズい!
「ちょっ……アンタ本気!?島さんが黙ってないよ!!」
そう言いながら、今度はしっかり鞘から剣を抜いて九条へと向ける真白。
「お前は
――フッ……ガシッ!!
それは一瞬だった。目にも止まらぬその一瞬で、気がつけば九条は真白を制圧していた!
「ぐっ!……は、放せっ!!ああああっ……!!」
九条は後ろから真白の首に腕を回して吊り上げ、完全に動きを封じている。
彼女の剣はいつの間にか叩き落とされていた。
「笛は鳴らんようだな、ククク。つまり今のこの状態は大した争いではない……と“剣”は判断したわけだ」
――まずい……やるなら今しかない!剣のことは多分大丈夫だろう、というか気にしてる場合じゃない。
幸いにも距離が離れていることもあり、九条は匠真の存在に気付いていない。
今のレベル8の状態は体幹も異常なほど強く、命中精度も抜群だ。
途中で何度も投石の練習をしたが、まず狙いを外すことはなかった。真白に当たることは無い。
ここへ来るまでに拾った投げやすくて硬い石を右手に持ち、岩影から出る。
そして匠真は全力で、全力で九条めがけて石を投げた!!
――ゴウッッッ!
それは、人が球を投げるというレベルを遥かに超えていて、もはや兵器といっても差し支えないレベルだった。
九条達と匠真との距離は50メートルほどあったが、九条の頭部に石が到達するまでに要した時間はわずか0.1〜2秒!
――カァァァン!!
岩にでも当たったかのような衝撃音が辺りに響く。
確実に当たった!九条に……しかし――!
匠真は驚愕する。
九条はそのまま平然と匠真の方を振り向いたからだ。
いや。
平然としていたというのは語弊があった。
眉間に刻み込まれた凹凸、右半分だけ開いた口の中から覗く食いしばった歯……間違いない。人がキレている顔だ。確実に激怒している……!
今まで散々人をキレさせてきた匠真だからこそ、確信を持って言える。
すると、九条はまるで真白に興味がなくなったかのように拘束する腕をほどいた。
「がはっ……はあっ、はあっ……!!」
そして真白が息を整え九条から逃げようとしたその時――。
右腕を天高く掲げた九条は、その手から赤い色の何かを伸ばしていく。まるで西洋風の槍(ランス)のように!
「飛田っ!逃げろ、こいつキレてる!!」
真白は恐怖からかその場を動かずに叫んだ。あれ?
「ん?なぜ俺の名を?」
自分でも驚くほど呑気に聞いてしまう匠真。
一方、天に向かって九条の右腕から伸びた槍は、ゆっくりとその角度を水平方向に変えていく。
そしてその切っ先が匠真を捕らえ――――。
「!!マズい」
――ボウッ。
赤い何かが匠真に向かって伸びてきたと思った瞬間、ギリギリで何かを横に躱す。
そして匠真は驚愕した……。
匠真のすぐ横にはクレーターの跡のように、九条のいた地点から真っ直ぐ直線状のくぼみが出来上がっていたからだ!
地面はえぐられ、岩は砕け、森に生えていた木々が木っ端微塵になってそこら中に散らばっている。
匠真は九条の強さを目の当たりにして戦慄した。
――とんでもない攻撃だ…………ふっ。
「……っははっ」
なぜか……本当になぜかは分からないが、こんな状況にも関わらず吹っ切れたような笑いが湧き上がってきた。
九条からはどうせ逃げられない。
だったら潔く戦って散った方がいい。死に方は自分で選ぶ。
匠真はゆっくりと背中から木刀を取り出し、手斧との二刀流の構えを取って九条を睨んだ。
不思議と恐怖心はない。走馬灯なども見えない。おそらく死ぬのは一瞬だろう。
「くはははは!バカめ。逃げ回っていればまだ見込みがあったものを……いいだろう。望み通り“死”をくれてやる」
突然。それは全く予想していなかった。
――ヒュララーララー♪
どこからかも、誰が鳴らしているかも分からないがその笛の音は確かに耳に届いた。
「チイィッ!!」
――ドウッ!!
九条がとんでもない速さでその場を離脱していく。
「飛田!逃げろ。剣が来る!!」
次に物凄い速さで真白が走ってきた。
さっきまでいた場所の真上にだけ、どす黒い雲が出現している。
そうだ、逃げなければ!
匠真と真白はとにかく全力で走った。
ソレは光の剣。
途中でちらっと上空の黒い雲を見上げると、その黒い色を照らすように光の剣がその顔を覗かせる!
あれが……平定の剣!?
――ゴオオォォーーッッ!!
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