目覚める力

祠の中で光が渦を巻き、水晶の箱から溢れ出た銀色の輝きが空間を満たしていく。ソラの帳面が呼応するように青い光を放ち、二つの光が織りなす模様が壁に映し出される。


「これは」ソラが魔力の流れを確認する。「想定以上の反応だ」


「私の血が」ヒノメが目を細める。「少し困っているみたいです」


祭壇の上で、水晶の箱が強く明滅し始めた。魔術とドラゴンの印が次々と輝きを放ち、その度に空間が揺らぐような感覚が襲う。


「力の流れが不安定になってる」ソラは帳面を掲げながら分析する。「このままでは暴走の可能性も」


「大丈夫です」


「待て、ヒノメ」


彼女は既に祭壇の前に立っていた。その手が水晶の箱に触れる瞬間、銀色の光が彼女の指先を包み込んだ。


「これは」ヒノメの声が響く。「夢を紡ぐ力」


光の渦の中で、彼女の言葉が新しい色を帯び始める。


「ドラゴンは夢を見て、世界の可能性を広げてきた」彼女は静かに語り出す。「人間は魔術で、その可能性を形にしてきた」


帳面の中で、青い光が新たな模様を描き始める。


「でも」ヒノメは続ける。「私たちはその力を隔てて使ってきた。魔術は魔術として、夢は夢として」


「だから、この祭壇に」ソラが理解を示す。「両方の力を、育む場所として」


「はい。そして今」


水晶の箱から溢れ出る光が、新たな動きを見せ始めた。それは暴走するのではなく、まるで生命を持つかのように、ゆっくりとした律動を刻んでいる。


「見えますか?」ヒノメが微笑む。「夢の中に魔術が、魔術の中に夢が」


ソラは帳面に現れる反応を注意深く観察する。確かに、青い魔術の光の中に銀色の輝きが混ざり始めていた。それは決して不安定な反応ではなく、むしろ自然な調和を感じさせる。


「魔術の記録に」彼は気づきを口にする。「夢の記憶が溶け込んでいく」


「ええ。これからは」ヒノメは嬉しそうに続ける。「魔術は夢を運び、夢は魔術を導く」


光の渦が、徐々に帳面へと収束していく。その過程で、紙面には新しい模様が浮かび上がっていた。魔術の術式の中に、ドラゴンの印が自然に組み込まれている。


「これが」ソラは帳面を確認する。「新しい記録方式か」


「私たちの記録」ヒノメが補足する。「魔術と夢の、両方の記憶を残せる」


祠の中で、光が最後の輝きを放つ。水晶の箱は空になり、代わりに帳面が深い光を湛えていた。


「本当に」ソラは呆れたように言う。「これも計画通りだったのか」


「もちろんです」


「嘘つけ」


「いいえ」ヒノメは楽しそうに首を振る。「今回は本当です。ただし」


「ただし?」


「計画の内容は、実行するまで私にも分からなかっただけです」


帳面の中で、青と銀の光が静かに交わっていく。それは確かに、新しい可能性の始まりを告げているようだった。


「これから」ヒノメが言う。「どんな夢を記録しましょうか」


「お前に選べるものなのか」


「もちろんです」彼女は誇らしげに胸を張る。「私は高貴なドラゴンですから」


「それと夢に関係あるのか」


「ありますよ」ヒノメは真剣な表情で答えた。「だって夢を見るのは、未来を創るための第一歩なんです」


朝日が祠の窓から差し込み、新しい光の風景を作り出していた。

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