エロゲ世界に転生した俺は、死ぬほど愛してくる自◯系ヤンデレヒロインを幸せにするため今日もやり直す

ななよ廻る

ゴムを付けるとバッドエンドを迎える地雷系ヤンデレ隠しヒロイン

「ごめんごめんごめん――」

 眠りから目覚める時のような、もやが晴れて意識がハッキリしていく感覚。フィルターのかかった世界がクリアになって、最初に目にしたのは裸で泣いて謝る女の子だった。


 ……え。なにこれ。

 まったく状況が理解できない。クール系で、胸の大きな女の子が裸でいるのに、男の部分は反応せず、ただただ困惑だけが胸の中にあった。


 え、え、ヤッた……の? でも、記憶が。酒を飲んだわけでもないし、未成年だし。驚いている間も彼女は体を隠そうともせず、泣いて謝っているだけ。

 とにかく事情を聞くべきだろう。

 痛い頭。働かない脳でどうにかそれだけを絞り出して口を開こうとした。

 けれど、


「私は必要なかったんだ……!」


 ――は?

 そう言って、手に握っていたカッターで手首を切った。

 躊躇ちゅうちょなく。

 一気に。

 血しぶきが散る。ぺちゃっと頬に張り付く。なにが起こったのかわからないまま、彼女は気を失ったのか、ベッドに倒れて動かなくなる。

「え、あれ」

 広がる血。

 頭の中でリストカットという単語が浮かぶが、それが現実のことと受け入れられない。ただ血の匂いだけリアルで、鉄の味が舌を犯す。


「なに、が――?」

 動揺が頭を襲おうとした時、ぐらっと意識が揺らぐ。なんだと思った時には視界が空転する。倒れたんだと気付いたのは、薄れゆく意識の中でのことだった。

 夢なのか現実なのか。

 わからいまま、意識を手放して――



「―ク、サク」

 ざーっと吹き抜ける冬の風が耳を撫でる。急に色が戻ったように、住宅街の景色が網膜に映される。

 ここ、は……。

 現状に追いつかず、呆然としているともう一度「サク」と俺を呼ぶ声に引き寄せられる。


「どうかした、サク。気分悪い? 顔色よくないけど?」

「え、あ、……」

 隣で心配そうに見上げてくるウミを見て、記憶を思い出す。

「なんでもない。ごめん。なんかぼーっとしてたみたいだ」

「それならいいけど」

 笑って謝るけど、不安は払拭できなかったみたいで、なおも大きな黒い瞳で見上げてくる。そんな優しい彼女を不安にさせてしまったことを反省しつつ、もう1度「大丈夫」と伝える。


「この前まで暑かったのに、急に寒くなったからかも」

「無理はしないで。もし体調が悪いなら言って。付きっきりで看病する」

 むんっと大きな胸の前で両拳を握って気合を入れる。その様子が可愛くて、頬をほころばせていると、「それに……」と恥ずかしそうに頬を赤らめる。


「私とサクは、付き合って、……るから」

「そう、だね」

 ウミが照れるものだから、俺まで羞恥を刺激される。伸ばしてきた手を握り返す。それが無性に恥ずかしいけれど、心が満たされる。


 暑すぎる夏が終わり、11月に入った。

 俺とウミは長くも短い夏を一緒に過ごして、晴れて恋人関係になった。その間に紆余曲折はあったけれど、こうして彼女の手を取れていることを今の俺は嬉しく思う。


「……?」

「どうしたの?」

 首の付け根を静電気が走ったような、そんな痛みがあった。たいしたことじゃないので、「なんでもない」と伝えるが、ウミはやっぱり心配そうだった。

「本当? 無理してない? その、……」

 もにゅっと口ごもり、真っ赤になって俯く。

「これから初めて、サクの部屋に上がらせてもらう、のに」

 俺が意識しているせいか、初めての部分がやけに意識させるような声音だった気がした。そのせいで、こっちまで赤くなる。


 付き合って2ヶ月程度。

 ウミを部屋に上げるのは初めてだった。それだけでも緊張するけど、今日は、その……つまりウミと初夜、……を迎える予定、でもある。考えただけで顔から火が出る。


 もちろん今日は両親は不在。妹も友達の家にお泊りだ。そういう日を選んだ。お互いにそのつもりでいるからか、羞恥心を交換し合うように話す度に熱が上がる。ぼーっとしていたのも、寒暖差のせいじゃなくてそれが原因かもしれない。


 つい意識して、黒いブラウスを押し上げる胸に視線が行ってしまう。こちらに顔を向け、ウミが視線に気付いた様子だけど、頬を朱に染めるだけでなにも言わなかった。

「大丈夫、だから、うん」

「それなら、いいけど」

 言い聞かせるように口にして、恋人の手をぎゅっと握る。


  ■■


 部屋で恋人の時間を一時過ごす。それは満ち足りた時間だったけど、後のことばかり考えてしまい、どこか2人とも上の空だった。

「あ、」

 狙ってか、偶然か。

 どちらからともかく手に触れる。熱っぽい視線を向けてくるウミに応えるように、俺は口づけをする。

 告白した時も、それからも。

 何度かしたけど、まるで初めての時みたいに心臓が鳴り止まない。


「好きだよ」

「……私も」

 応えて、またキスをする。

 そのまま流れに身を任せるようにして、ウミをベッドに押し倒す。小さくもれたか細い吐息が、劣情を駆り立てる。


「いい、かな?」

「……訊かないでよ」

 顔を逸らして、胸を庇っていた両手をどける。それを了承と捉えて、俺はウミのブラウスのボタンを外していく。

「……恥ずかしい」

 白い肌。深く、大きな谷間に息を呑む。「綺麗だよ」と言うのがやっとで、それ以上の言葉が出てこなかった。ウミの羞恥を表すように、肌が赤く上気していく。


 そのまま衝動に任せようとしたけど、理性がブレーキをかける。ちゃんとあるよな? 上着のポケットにゴムがあるのを確認して――あ、ダメだとまた記憶が戻る。状況を正しく認識する。


 これ、エロゲの中だ、と。


 そして、この時の選択肢でバッドエンドを迎えるかどうか決まるのだと、過去の俺が教えてくれる。

 ゴムを付けるか、付けないか。

 ただそれだけで、私とは子どもを作る気がない。私は必要ないんだと想像を暴走させたウミが携帯している愛用のカッターで死ぬか生きるかの瀬戸際だ。


 たかがゴムくらいでとか、普通は付けるとかそういうのは通じない。あらゆる行動に選択肢が出現する、自殺タイプの地雷系ヤンデレ隠しヒロインである。


「どうかした?」

「……ううん。見惚れただけ」

 愛を囁き、唇を塞ぐ。

 ポケットにゴムを入れたまま、上着を脱いでウミとの初めてを迎える。迎えて、マジかと思う。

 転生したのか、俺。

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2024年12月29日 08:03

エロゲ世界に転生した俺は、死ぬほど愛してくる自◯系ヤンデレヒロインを幸せにするため今日もやり直す ななよ廻る @nanayoMeguru

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