この素晴らしい世界に祝福を!Merry Christmas & Happy New Year

森康雄

第一章 ミスタルトウの準備

 アクアは冒険者ギルドの入口に大きなミスタルトウを飾り付けていた。彼女はこの日のために特別な装飾を選び、ギルドがクリスマスの雰囲気でいっぱいになるように心を込めていた。その緑と赤の葉は、冬の寒さの中でも温かみを感じさせる色で、ギルドの木製の扉にぴったりと合っている。


「ねえねえ、カズマ!見て見て、このミスタルトウどう? すごく大きくて、綺麗でしょう?」アクアがカズマに声をかけた。彼女の声にはいつものように明るさがあふれていた。


 カズマは手にしていた荷物を下に置きながら答えた。「ああ、なかなかいいじゃないか。このミスタルトウの下で、何か特別なことが起こるのかな?」


「それがね、ミスタルトウの下ではキスをするといいことがあるんだって!」アクアはわくわくした様子で説明を始めた。彼女の目はキラキラと輝いていた。


 その時、他の冒険者たちも次々とギルドに入ってきて、アクアの飾ったミスタルトウを見上げながら笑顔で話をしていた。「おお、アクア、お前がこれを作ったのか? 素晴らしいな!」と一人が言った。


 アクアは得意げに「ええ、私が選んだのよ。みんながハッピーなクリスマスを過ごせるように、特別な魔法をかけておいたんだから!」と胸を張った。


 カズマはそんなアクアを見て、少し笑ってしまった。「お前の魔法か。うまくいくといいな。」


 この短い会話を通じて、ギルド全体にクリスマスの楽しい雰囲気が広がり始めていた。キラキラと輝くミスタルトウは、これから始まるクリスマスイベントの象徴となり、みんなの心に小さな期待とワクワクを植え付けていた。


 カズマが冒険者ギルドに到着し、手にした荷物をテーブルに置いたその瞬間、アクアとミスタルトウの下で偶然出会った。ギルドはすでにクリスマスの装飾でいっぱいで、壁には色とりどりの飾りがかかっている。床にはきらきらと光るティンセルが散らばっており、まるで雪が降ったような美しい景色が広がっていた。


「おっと、アクア。お前もう来てたのか?」カズマが驚いた声で言った。彼はアクアと一緒にいるのはいつも面白く、何かとトラブルが起こることを知っていた。


 アクアはにっこりと笑いながら、カズマに近づいて言った。「そうよ、カズマ! だって今日はクリスマスパーティーの準備をする大事な日だもの。みんなが楽しめるように、私、がんばってるのよ!」


「へえ、そうか。いつもは水をまき散らしてばかりいるお前が、こんなに一生懸命に何かをするなんて珍しいな。」カズマが冗談を言いつつも、アクアの努力を認めずにはいられなかった。


 その時、アクアがカズマをミスタルトウの下に引っ張って行った。「カズマ、ここに来て! これ、見て!  私が飾ったミスタルトウよ。ここで何かが起こるかもしれないでしょ?」アクアはわざと謎めいた声を出して、カズマの好奇心を刺激した。


 カズマは少し戸惑いながらも、アクアの指差すミスタルトウを見上げた。「ふーん、これがそうか。でも、何が起こるっていうんだ?」


 アクアはにっこりと笑って、ひみつのように耳打ちした。「ここでキスをすると、特別なことが起こるのよ。だから、気をつけてね!」


 カズマはアクアの言葉に驚いて、「えっ、マジで? でも、お前とキスするのはちょっと。」と言葉を濁した。しかし、アクアの顔は真剣そのもので、彼女の目は期待に満ちていた。


 この偶然の出会いが、これから起こる一連の出来事の始まりだった。カズマとアクアがミスタルトウの下で立っていると、ギルドの他のメンバーも次々と集まってきて、二人の様子を興味深く見守っていた。


 アクアはカズマをミスタルトウの下に連れてきて、彼に向かってウィンクをした。「カズマ、知ってる? ミスタルトウの下でキスをすると、二人の絆が深まって、いいことがたくさん起こるんだって。」


 カズマは顔を赤くして、少し戸惑いながらも興味を持ち始めた。「えっ、ホントに? でも、そんなの本当に効果があるのか?」


「もちろんよ! 伝統にはちゃんとした意味があるの。さあ、試してみない?」アクアはカズマの腕を引っ張り、彼をもっとミスタルトウの下へと誘った。


「ちょっと待って、アクア。こんなこと、本当にやるのか?」カズマが躊躇しながらも、アクアの期待に満ちた目を見て、断るのが難しくなっていた。


 アクアは笑って、「大丈夫、カズマ。ただの伝統よ。私たちだけの特別なことじゃないわ。みんなが見ている前で、ほら、楽しいじゃない!」と言って、周りの冒険者たちを指差した。ギルドの仲間たちは二人のやりとりを楽しそうに見ていた。


「ええい、まあいいか。どうせなら、楽しまなきゃ損だろ?」カズマが観念したように言い、アクアに向かって少し照れくさそうに近づいた。


「そうよ、それでいいの! 楽しんで、カズマ!」アクアがニコニコしながらカズマの手を握り、彼の顔をじっと見つめた。


 その瞬間、ふいにめぐみんがギルドの入口から現れた。彼女はカズマとアクアが密接に立っているのを見て、目を大きくして驚いた。


「えっ、カズマさんとアクアさん、何をしているんですか?!」めぐみんが声を上げ、その声はギルド全体に響き渡った。


 カズマは慌てて後ずさりし、「いや、これは違うんだ! アクアが言い出したんだよ、ミスタルトウの伝統で。」と急いで説明を始めた。


 アクアも慌ててフォローし、「そうよ、めぐみん! これはクリスマスの伝統なの。ミスタルトウの下でキスをするというものなのよ。誤解しないで!」と言い訳をした。


 この誤解は予想外の波紋を呼び、ギルド内にはちょっとした騒ぎが起こった。カズマとアクアの間には少し気まずい空気が流れ始めたが、それでも二人の周りの笑い声が、この小さな事件を楽しい一幕として終わらせた。


 めぐみんがギルドの入口に現れた瞬間、カズマとアクアがミスタルトウの下で顔を近づけているのを目撃し、彼女の驚きは最高潮に達した。「カズマさん! どうしてアクアさんとこんな!」


 カズマはすぐに手を振って、事態を説明しようとした。「ちょっと待って、めぐみん! これは違うんだ。アクアがクリスマスの伝統について教えてくれただけで、その、ほら、ミスタルトウの下で。」


 めぐみんは顔を赤くして、カズマとアクアの間に飛び込んできた。「カズマさん、私たちはチームですよね? こんな大事なこと、私にも言ってくれるべきだったんじゃないですか?」彼女の声には少し裏切られたような感情が混じっていた。


 アクアは急いで状況を収拾しようとし、「めぐみん、本当に誤解よ! ミスタルトウの下でキスするのはただの遊びみたいなもの。特に意味はないのよ。カズマと私たちは何も。」


 しかし、めぐみんは納得がいかない様子で、「でも、私も参加したかったです。クリスマスの楽しいことに、私も一緒にいたいですよ!」と強く言い返した。


 この間に、他のギルドメンバーが集まり始め、カズマとアクアの周りはにぎわいを見せていた。みんながこの小さなドラマに興味津々で、「何が起こってるの?」や「めぐみんもキスするの?」などと騒がしい声が飛び交う。


 カズマは両手を広げて、みんなを落ち着かせようとした。「みんな、落ち着いてくれ! これは大したことじゃない。ミスタルトウの下でキスするのは、ただの楽しい伝統で、それ以上のことは何もないから。」


 アクアも付け加えた、「そうよ、これはクリスマスの一部。みんなも一緒に楽しんでね!」彼女は明るい笑顔で周りを見渡した。


 結局、めぐみんはカズマとアクアの説明を受け入れ、少しずつ笑顔を取り戻した。「わかりました。それなら、私も参加させてくださいね。クリスマスはみんなで楽しみたいですから!」


 この一件で、ギルド内の雰囲気は再び和やかになり、クリスマスの準備がさらに進む中で、みんなの絆も深まっていくことになった。

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