第3話 ぷにぷにからきらきら

「まあまあ倒しましたね」


 出てくるスライムたちをがむしゃらになぎ倒し、女神様と駄弁りながらしばらくの時間を過ごした。

 スライムを倒すたびにぷちょんと弾ける音と飛び散るゼリー状の飛沫。この異世界らしい光景をもう何度見たことだろう。


「まあまあどころじゃないですよ。武器なし防具なし裸でスライムと連戦って縛りプレイでもしてるんですか」


 舌のウォーミングアップはこれまでの時間でバッチリ済んでいるので女神様も饒舌だ。呆れながらも優しい声色には、少なからず一緒に過ごした時間が反映されていた。


「ところで女神様、ぷにぷにとふにふにの違いってなんでしょう」


「また唐突に……ぷにぷには柔らかいそれ自体の感触とそれをつつくような動作どちらも表しそうですけど、ふにふには動作の印象の方が強い気がしますが」


「なるほど、分かる気がします。ぷにぷにの方がなんとなく水気を帯びているイメージがありますね。というわけでぷにぷにしたこれは何でしょう?」


 手に乗っているのは、スライムが弾けた後に残ったゼリー状の物体だ。

 基本的にスライムを形成していた体の部分は倒すとともに霧散していくはずなのに、どうしてだかこれは消えずに残っている。

 光を受けて輝くそれを指先で軽く押すと、ぷるんと小さく揺れる。


「それは、倒したスライムが落としたものでしょう。魔物を倒せばアイテムをドロップします。換金したり、素材にしたりと用途は様々です」


 女神様が詳しく解説を添えてくれる。異世界Wikipediaなのだろうか。


 魔物の残骸や落とし物が再利用できるなんて、異世界のリサイクル意識は本家地球も顔負けかもしれない。

 エコバッグで満足している場合じゃないぞ、現世。



「なんかこれ食べられそうな感じしますね」


「わらび餅感覚でいかないでください」


「黒蜜ないし、やめときますか」


「異世界の黒蜜よ、どうかその身を隠し通してください。ほとばしる好奇心を止められない私を許して」


 女神様は誰を相手に懺悔しているのだろうか。



 ふと地面に目をやると、先ほどのゼリーとは異なるきらめきが目に入る。


「んにゃ」


「猫?」


「なんか他のと違う宝石みたいなのありますけども、これはスライムからのプロポーズ大作戦と受け取っても?」


「はいはい受け取らずにそんな考えポイしてください。それはレアドロップの類ですね」


 きらきら光るそれを手のひらで転がすと、滑らかな感触が伝わってくる。

 石特有の冷たさはなく、上手く言葉にできないが生命力みたいなものが触れた手のひらから伝わってくる。


「レアドロップ……でも運なんてものはないって話でしたよね」


「そういうところは無駄に察しが良いですね。魔物がもつエネルギーの高まり、それがアイテムのレアリティにつながっています。ドロップアイテムは魔物がもつエネルギーが形となったものと考えれば自然なことです」


 女神様の説明を聞きながら、遠巻きからこちらの様子をうかがって跳ね回るスライムたちを眺める。


 魔物の持つエネルギーが形を変えるという通常であれば突飛にも思える理屈は、なんとなく納得がいくような気がした。

 異世界だからといえばそれまでだが、たぶんこれは実際に魔物と拳を交えたことが説得力をもたせているのだろう。魔物の持つ生命力を確かに感じていた。


「つまり魔物のエネルギーが高まる瞬間にとどめを刺せればそれだけ良いものが落ちると」


「言うは易しですけれどね。オーラと同様、生体のエネルギーなんて視覚化されたものではありませんし、人の感覚の外にあるものが運に位置づけられるのでしょう」


「それじゃ分かるまで試してみましょう!」


「まさかまだやる気ですか?もう町にも寄らず何時間スライム倒し続けてると思ってるんですか、日が暮れちゃいますよ!私の送り出した冒険者が初日野宿なんて、ああ」


「女神様と話しながらならすぐに終わりますよ、夜までには切り上げましょう」


「なんか付き合わされるのも確定してますし」


 下手すれば単調とも感じられる作業に張り合いが出るのは確実に女神様とおしゃべりしているおかげだろう。

 耳元に響く溜息に気もちが軽やかになりながら、再びスライムの海へと溺れていく。






 それから、どれくらいの時間スライムの群れと戯れただろうか。


「女神様見て、この宝石でかくないですか。こっちの宝石はなんかとんがってる」


「公園でどんぐり集めた小学生ですか貴方は。それにしても本当にこんなに集めてしまうなんて、私は行動力の恐ろしさを感じていますよ」


 手の中だけではなく、足元にも戦いの成果を物語るように散らばる宝石の数々。レアドロップとされているアイテムをなかなかの数集めることに成功した。

 これだけ抱えているとオープンしたての宝石商くらいには見えるかもしれない。


「いや後半はかなりコツつかめましたね」


「つかみすぎなんですよ」


「魔物のエネルギーの高まりがいつかって考えたら、やっぱり相手を仕留めてやろうってオラついてるときかなと。女神様の言葉がだいぶヒントになりました」


「だからといって一歩間違えば相手の攻撃を至近距離で受けるんですよ。ましてや身を守る道具も術もなく……正気の沙汰じゃありません。行き過ぎたマゾヒズムですか」


「オーバーマゾ呼ばわりやめてください。背水の陣とかいくらでも良い表現あるでしょう」


「悪意をもってますから」


「むぅん」


 返す言葉もない。長時間付き合わされた身の女神様からの愚痴を真摯に受け止めるのは義務である。


「リスクの大きいカウンター気味の一発でしかも倒すためにはクリティカルを出さなければならないって、どれだけ針の穴通す所業ですか。鉄球を遥か上空から落として地上の穴狙ってる芸能人じゃないんですよ」


「女神様、俗世俗世。ヒュースポンって音が聞こえてきそうですから」


「もうすっかり夕方ですよ、いやむしろ早く終わりましたね!」


「話してる途中で感情のハンドル切ってるもんだから、情緒が蛇行してます」


「ずっと付き合ってた私も私ですよ」


「もう信仰、最推し、すきすき、女神様様様さまさまです」


「様がゲシュタルト崩壊しますから。これで信者一人ってタイムパフォーマンス見合わなすぎます……」


 夕焼けがすっかり空を深いオレンジ色に染めていて、女神様の嘆息をより物悲しく際立たせていた。


「ちなみにちなみに、女神様は宝石とかプレゼントされたらときめきますか?」


「薮から棒ですね。貴方の薮、棒だらけですけど」


「なんか意味深な贈り物ランキング上位ではありそうですし、女神様はどうなのかなと」


「街頭アンケートのノリで訊いてますけど、新宿の一般女性じゃないですからね。献上品でもらうことはあっても、そこに深い意味を見出したり、感情が揺れたりすることはないです。女神なので」


「なるほど、綺麗なんですけどね」


「私も別に素敵なものは綺麗だと感じますよ」


「私より綺麗なものなんかないわ!って感じではないんですね」


「どこの白雪姫ですか」


「白雪姫はそんなこと言わない」


 毒りんごを自前で栽培しそうなプリンセスはやめてほしい。


 いい加減女神様の心がすり減ってつみれくらいになってしまいそうなので、切り上げて町に向かうことにする。

 ここから町まで、また道中もおしゃべりに付き合ってもらうのはご愛嬌ということで。

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