雪なんて嫌い! だった僕
青樹空良
雪なんて嫌い! だった僕
僕は雪があんまり好きじゃない。
だって、今も。
「おーい!」
「え?」
小学校の帰り道、同じクラスの子の声に振り向くと、
「ぶっ」
雪玉が顔面に当たった。
「お前、すぐひっかかるよな~」
あははは、とクラスの数人が笑っている。
「もー、冷たいよ」
あはあ、と僕は笑って返す。最初は別にいいかと思っていた。僕が我慢すればいいだけだし。けれど、雪が降るたびに毎回されているとさすがに段々辛くなってくる。
「雪合戦、やらね?」
「えー、今当てられたからもういいよ」
それに、雪の日ってすごく寒いし、こんな日は早く家に帰ってこたつにでも入っていた方がいい。
そう思って足を速めようとしたら、
「うわっ」
思いっきり雪で滑って、転んだ。
「いててて」
尻餅をついてしまって、めちゃくちゃ痛い。
クラスの子たちがこっちを見て笑っている。
ああ、もう!
本当に雪は嫌いだ。
それに、
「……!」
僕は少し先を、僕が最近ちょっと可愛いなと思っている
転んだところ、見られてないだろうか。
佐倉さんは、一人でとことこと歩いている。歩いているだけで可愛い。
前を見ているから、きっと僕には気付いていないはず。正直、気付かれていたら、もう走って逃げたい。そしたら、多分また転ぶに決まってるけど。
ああ、僕ってなんてかっこ悪いんだ。
落ち込みながらなんとか僕は立ち上がる。
そして、顔を上げると、
「あ」
ちょうど、今度は佐倉さんが雪に足を取られてバランスを崩しているのが見えた。
「……!」
僕は地面を蹴った。
僕はいい。雪で酷い目に遭うのは慣れてるから。
だけど、佐倉さんは!
「危ないっ!」
間一髪、僕は転びそうになる佐倉さんの手をつかんだ。
佐倉さんはバランスを持ち直して、僕に引っ張られるように立ち上がる。
よかった。さっきの僕みたいに地面にたたきつけられる前で本当によかった。
雪の上を走ったのに、奇跡のように僕は転ばなかった。火事場の馬鹿力ってやつ?
「あ、ありがとう」
佐倉さんが寒さのせいでなのか、顔を赤らめて言った。
それで、僕は気付いた。
僕は慌てて手を離す。
「ごごご、ごめん」
僕は気になる女の子というか、好きな女の子というか、佐倉さんの手を握ってしまっていた!
しかも、手袋越しでもなんだか温かかったような、柔らかかったような……。
って、そんなこと考えている場合じゃない。
「なんで謝るの? 助けてくれたのに。でも、いきなりびっくりしちゃった」
少しだけ顔を赤くしたまま、佐倉さんが微笑む。
「えっと、その、佐倉さんが危ないなと思ったら、とっさに身体が動いちゃって……」
僕の顔も、きっと佐倉さんと同じように赤いと思う。きっと寒さのせいじゃなく。
「本当にありがとう」
佐倉さんの笑顔を見ながら、僕は雪の日も悪くないな、なんて思ってしまったのだった。
雪なんて嫌い! だった僕 青樹空良 @aoki-akira
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