最強のしもべ

きいくに

最強のしもべ

大学2年生の春。

俺は自室のソファに横になり、嘆く。


「こいつホントに最強のしもべ?」


「何ですか?マスター。もうおなか減ったんですか。さっき食べたでしょ?」


困惑の顔を浮かべるのは俺の自称最強のしもべ、エーだ。白の割烹着をきた絶世の美女。割烹着?昨日はメイド服だったような・・・。かわいいなぁ。

ええい!えええい!そんなことはどうでもいいのだ!


「ラグナロクを勝ち抜いて、願いを叶えるために参加したのに。」


ラグナロク。


10人のが挑戦者がしもべを召喚し、最後の1人になるまで殺しあう。

そして、叶う。自身の願いが。


そのために幼い頃から自身の魔力を練り上げて、研鑽に次ぐ研鑽。

睡眠を削り、交友を無くし、全てをラグナロクにかけた。


召喚の時、魔法陣の上で俺は最強のしもべ!と願った。

召喚されたエーはまさしく最強の魔力を発露。エーを収束した魔力の光に圧倒され耐えきれなかった俺は気絶。



一週間後、目覚めれば自室はピカピカ。

汚れがないとかゴミがないとかじゃなく、物理的にピカピカ。光沢を放ってる。

もともとあった天井のシミは消え失せて、お風呂場の頑固な黒カビなど何処えその。

エー曰く、純度の高い魔力は光を放つらしい。見る人と放つ人の力の差が大きいほどより強く。てことは俺とエーは力の差があり、部屋中が魔力で覆われてる?ピカピカってそういうこと?

また銀行口座には謎の金が振り込まれ、学校の奨学金など必要なくなるほどだ。

極めつけは朝昼晩、超うまい飯が出て夜の運動もおっとと。思い出したらよだれが

・・・。


そんなこんなで一か月、衣食住は不足なくこいつがいれば死ぬまで安泰クラスの生活力を手に入れたのだ。急に勝ち組、最強のベクトル違くない?



「最強で美女で、何を着ても似合う?飯も夜も最高?。可愛すぎる、エー。もっと褒めるべきです」


「くそ!読まれた!」


しもべは人差し指をでノンノンと唸る。


「マスターとエーは魔力パスで繋がっています。あなたの思考はリアルタイムで私に流れ込んでくるのですよ。エーは分かっていますよ、マスター。今も私のちらりとのぞく弁慶の泣き所に興奮しているのが」


エーはふふふっとクルクル回りだした。

くそ!割烹着の中はTシャツとホットパンツじゃないか!


「顔が赤いぜ、マスター」


「やめろ、それは俺に効く。」


「へへ、今夜も寝かさないぜ。」


よだれを拭うしぐさのエー。


悔しい、でも感じちゃう・・・。俺、弱すぎ。




「冗談はその辺で、マスター。話は戻りますが、最強とは段取りが命なのです。」



「あ?最強の段取り?戦いってのはパワーだろ。お前の魔力を感じた時、より一層そう感じたよ」


真面目な顔でつぶやくエー。


「甘いですね。今煮込んでいるカレー並みに甘いですよ。」


エーはコンロの上でグツグツ煮えたぎる鍋を指さす。

丁寧に下ごしらえした野菜、見たことない肉をぶった切り、昨夜から煮込んでいるのだ。カレールーは長年の研究成果!エーの黄金比でーす!とお尻を振っていた。

鼻腔から頭をぶん殴る様なにおい。食べなくてもわかる濃厚な味わい。

くそ!うまそうだ!


「エッチ!マスターの好きな甘口だよ!」


しおらしく親指をかむエー。なんとなく涙目で頬は赤い。


「むかつく!両手のこぶしでグリグリしてやるのだ。」


痛いでーす!カレー食べさしてあげますよ!と泣き叫ぶエー。

しょうがない許してやる。早く食べたくてうずうずしているのだ。


「私をですか?」


にやにやと笑うエー。

俺は馬鹿かと吐き捨てた。


でも今はこんな最強もいいのかと俺は思った。




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最強のしもべ きいくに @key92_timeless

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