異世界ファンタジックデスゲーム

ああるぐれい

プロローグ

「きりーつ、礼」

「「「⋯⋯さよーならぁ」」」


少しやる気のない挨拶が終わると、学校から解放された生徒たちの喧騒が教室を包む。

それに構わず、いそいそとカバンに荷物を詰めていく。


「リト、帰ろうぜ」

「ごめん、今日用事があるんだ」

「あぁ、そうだったな。⋯⋯ごめん」

「いや、良いよ」


せっかくの友達からの誘いを断り、一番に教室を出た。足ばやに校門を潜り抜けた。誰とも話さず、一目散にあるところを目指す。


それは病院だ。


俺には病弱な義妹いもうとがいる。病弱、というよりか、少し昔からとある病気に罹っている。発達した現代医学でもわからない病気、名前のない病気だ。それで、二年間ずっと入院している。毎日見舞いをして、家に帰る。これが俺の放課後の日課だ。


義妹というが、特に複雑な事情はない。ただ、クズ親父が不倫をして、逃げただけだ。それで母親が再婚して、義父が連れてきたのが俺の義理の妹だ。


そして、両親は死んだ。交通事故によって。俺は義妹と二人きりになった。そして、後を追うように⋯⋯とは違うが、今の状態になった。


病院にたどり着いた。見舞いをする前にテナントとしてあるコンビニで、義妹の好きなプリンを買う。少しでも笑顔でいて欲しいからだ。


受付を済ませ、義妹のいる病室のドアをノックする。できるだけ静かにドアを開ける。


義妹の頬は痩せこけ、目は落ち窪んでいた。思わず目を細めてしまうほどの惨状だ。


「リコ、お見舞いにきたよ」

「⋯⋯⋯⋯お義兄ちゃん?」

「お前の好きなプリン買ってきたから。食べるか?」

「やったぁ⋯⋯⋯⋯食べる」


包装を開け、スプーンですくって食べさせる。


「私って、死ぬ運命なのかな」

「なわけないだろ。そんな運命、あるわけ無い」

「学校って楽しい?」

「あぁ、楽しいよ。でも、リコといる方が楽しい」

「うふふ、そうなんだ⋯⋯⋯⋯ゲホッ、ゲホッ、ゴホッ!」

「リコ!? 大丈夫か!?」


呼びかけてもリコの咳は止まなかった。迷わずナースコールを押した。すぐに看護師が飛んでくる。リコの容態をみた看護師はすぐに医師を呼び、俺を病室から追い出した。ドアが完全に閉め切られ、声だけが聞こえてくる。その声は穏やかではなく、焦りや、不安を孕んでいた。


斜めがけのカバンの紐を両手で握りしめて俯く。何もできないというやるせなさだけが心の中に広がっていく。しばらくそうしていると、医師が病室から出てきた。


「妹さんの余命は幾許もないかもしれません」

「⋯⋯⋯⋯そう、です、か」


急に言われて実感が湧かなかったが、心のどこかでは薄々感じていた事だった。魂が抜けたように病院を後にした。


寂れたシャッター街を歩く。


リコが死んだらどうするのか。死んだ後、俺はどうなるのか。あぁ、もう。これからどんな気持ちで生きていけば良いんだ。


俺が苦しむのも、リコの言ってた運命のせいなのか?


「クソッ!!」


気持ちを吐き出すために、近くにあった壁をグーで叩いた。不意に、一枚の紙が落ちてきた。無視して歩こうとした瞬間、でかでかと印刷されている文字が目に入った。


『あなたの願いを一つだけ、必ず叶えます。お問い合わせは下記の電話番号まで​─────』


いつもは「胡散臭い」と一蹴するような謳い文句が俺の目から離れない。拾い上げた。紙がカサリと音を立てる。


すごく嘘くさいけど、リコが救われるなら​──────


俺はポケットに入っていたスマートフォンを取り出し、番号をタップした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る