2章

リーグ戦始動

 G1リーグの第1節が目前に迫ったある日のこと、遥たちサッカー部員は練習後に視聴覚室へ集められていた。


「お集まりいただきありがとうございます。本日は明日から始まるリーグ戦についてお話しできればと思っています。第1節の細かい作戦会議等は最後にしますが――知らない人もいるみたいなので、まずは県リーグの概要を説明させていただきますね」


 数原はそう言うと、A4用紙に印刷された『競技要領』を部員へ配布する。

 遥も受け取りざっと目を通していく。ルール等は小難しく書いてあるものの、一般的なサッカーのルールと変わりないことがわかった。そうして読み進めていく中で、出場校一覧に目が留まる。


(――帝嶺大付属可児高校? なんかどこかで聞いたような……)


 遥がそんなことを考えていると、資料を配り終えた数原が話し始めた。


「ルール等は通常と大きく変わりませんが、最大の留意点は競技時間ですね。45分ハーフなので、一般的なインターハイや選手権の予選より長いです――体力管理にご注意ください」


 時間にしてみれば5分程度の差しかないように思えるが、この差は大きい。ましてや1年生にしてみれば、去年まで30分ハーフだった試合が急に15分増えることになるため、その影響は大きいと言える。


「そして、次に対戦相手についてです。ご存じの方も多いでしょうが岐阜県ではここ数十年の間、1強と呼ばれている帝嶺大付属可児高校――通称、テーカニがインターハイ、選手権、リーグ戦すべてを制しています」


 その言葉に驚きの表情を浮かべたのは遥と新太だけであり、その他の部員は『まぁ、知ってた』という様相であった。


は今年も例外なく最強です。2年生ながらキャプテンを務める選手に、1年生ながら世代別日本代表候補にも選出されている九十九つくも選手――他にも県内県外問わず集められたレベルの高い選手が揃っています」

「――あっ!」

「――七海くんどうかしましたか?」


 遥は数原の『水瀬選手』という言葉を聞いた途端に、帝嶺大付属可児高校の名前をどこで聞いたのかを思い出した。


「す、すみません――なんでもないです」


 声をあげてしまったことを謝罪し、数原に続きを話すよう促す。


(――水瀬さん、きみのお兄さんすごい選手なんじゃ……)


 そんなことを思いながら、遥は再び数原の話に耳を傾ける。


「1強体制の影響とでも言いましょうか、2位以下は割と激しく入れ替わります。唯一のクラブチームである岐阜FC、古豪の笠松工業、最近サッカー部に力を入れ始めた私立、中京中央高校、このあたりが有力です」


 手元の要領に記載されている出場校のリストを眺めつつ、数原が口にした高校にマーカーで印をつける。


「ですが――今回一緒に昇格した本巣商業高校を含め、基本的には格上の相手と思ってください。そのため、我々の戦い方としては最近練習している通り、ロングカウンタースタイルを基本とします」


 ロングカウンターとは名前の通り、長い距離のカウンターアタックである。ディフェンスの際に最終ラインを低く設定し自軍のスペースをブロックするような守り方をし、相手に深く攻めさせたところから奪って一気に前線へ送り込むという作戦だ。

 この作戦のメリットは再現性の高さにある。相手を自軍に誘い込んでからのカウンターであるため、どの相手に対しても攻め込んできてさえくれれば有効となる。

 一方で、相手方もカウンター戦術を採った場合は要注意だ。こちらがボールを保持する展開となり攻め込んでしまうと、逆にカウンターを食らうことになるためだ。 


「それに伴い、フォーメーションも昨年の4-4-2から、守りやすさに重点を置いた3-4-2-1に変更して練習を行ってもらっています」


 数原は自身のPCを操作するとプロジェクターにフォーメーションと基本的なスターティングメンバーを表示する。


 ゴールキーパーに凌、ディフェンスライン左から恭平・康太・工藤と並び、中盤左から、宮川・長谷川・古川・吉井の順、2シャドーに悠里と棚橋が入り、ワントップに斉藤という並びだ。


「基本的には牧村くん、武藤くんを中心としてディフェンスを展開します。ボールを奪うことができたら長谷川くん、あるいは甲斐くんを経由してオフェンスに切り替えます。サイドが弱い相手の場合は吉井くんは今までより高い位置を取れるので、そこを使うのもありですね」


 プロジェクターに表示されているフォーメーションボードの駒やボールが動き、ディフェンスやオフェンスの流れが図示される。


「ここまでで何か質問等あるかたいらっしゃいますか?」


 数原の問いに長谷川がスッと手を挙げる。


「長谷川くん、どうぞ」

「……七海や杉浦の投入とかについては――どのように考えてますか?」

「状況によりますが、積極的に交代で試合に出場してもらう想定です。練習の通り、杉浦くんは2シャドーの一角、あるいはボランチで出てもらおうかと」

「……なるほど」

「それから七海くんはウイングか、シャドーのどちらかですね。ただし、ウイングに入る場合は基本的に点が欲しい場面になると思いますので、その時はフォーメーションを少し可変します」


 そう言うと、フォーメーションボードの駒の配置が変わっていく。


「七海くんにオフェンスを専念してもらうために、3バックから4バックに可変するイメージです。1人ずつ左にスライドして、武藤くんが左サイドバックの位置に、吉井くんが右サイドバックに入る形ですね――このあたりも練習で試してもらっていますが、可変の判断は七海くん投入時にしますので」

「……ありがとうございます。わかりました」


 その後もいくつかリーグ戦における注意点や作戦上の留意点、さらには明日の相手である『各務原北高校』の対策等、たっぷり1時間程度話が続いたところでようやく解散となったのだった。


 ◇


 大垣高校 G1リーグ戦 登録メンバー

 背番号 1 山田 凌 (1年)

 背番号 2 吉井 翼 (2年)

 背番号 3 工藤 徹 (2年)

 背番号 4 武藤 恭平 (1年)

 背番号 5 牧村 康太 (3年)

 背番号 6 古川 修平 (3年)

 背番号 7 宮川 春樹 (2年)

 背番号 8 棚橋 誠剛 (2年)

 背番号 9 斉藤 拓真 (2年)

 背番号10 長谷川 大晴 (2年)

 背番号11 甲斐 悠里 (1年)

 背番号12 後藤 優 (3年)

 背番号13 濱田 吾郎 (3年)

 背番号14 杉浦 誠 (1年)

 背番号15 森 湊大 (3年)

 背番号16 小湊 巧 (3年)

 背番号17 七海 遥 (1年)

 背番号18 桜井 淳也 (2年)

 背番号19 逆瀬川 直樹 (3年)

 背番号20 近藤 元 (2年)

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