リーグ戦に向けて

 大垣高校サッカー部の練習は基本的に2部構成となっている。

 1部――つまり練習の前半は個人練習あるいはグループ練習である。自身で考え、数原の承認を得た練習や、数原から提案された練習を黙々と行う。個人によって全くメニューが異なる上に、練習人数もまちまちである。ひとり黙々とフィジカルトレーニングを行う者もいれば、4人程度でパスワークの練習を行う者もいる。


 2部――練習の後半は実践練習である。様々な場面を想定した連携プレーの練習や、ディフェンス、オフェンスそれぞれの連携とそのつなぎの練習を行う。試合が近い場合は、データをもとに相手の攻め方・守り方を想定し、どのように崩すかあるいは、守り切るかを考えながら練習する。

 なおその練習の性質上、リーグ戦登録メンバーとその他のメンバーで分かれて行うことになる。


 遥たち1年生も同様の練習方法となるのだが、前半の個人練習のメニュー決め、そしてリーグ戦登録メンバーを決めるにあたり基本的な運動能力のデータを取る必要があるということで、最初の練習は能力測定となった。


「まず最初はショートスプリントのタイムを測定させてもらいます――ここから10メートル、全力でダッシュしてください」

「「「はい!」」」


 数原の言葉に1年生が元気よく返事をする。先陣を切ったのはやはり凌だった。


「位置について、よーいドン――」

「――ふっ!!」


 凌が10メートルを駆け抜ける。すると、パソコンのモニタをながら朱里がタイムを告げる。


「山田くん、2.1秒――スポーツ選手のほぼ平均ね」


 その後、みんなが続いて測定を行った。基本的に皆、凌と同様2秒台前半くらいのタイムとなったが、ここで際立ったのはやはり遥と新太であった。


「七海くん、1.1秒――」

「丹羽くん、1.2秒――」


 紅白戦の時からその加速力を発揮していた2人だったが、実測することでその異質さが際立った。新入生の平均より1秒以上速い――陸上のトップアスリートレベルであった。

 

 ◇


 その後もロングスプリント、持久力、柔軟性、跳躍力、反射神経等、様々な項目の測定を行った。それらほぼすべての項目で首位を総なめしたのはやはりと言うべきか、新太だった。

 柔軟性とショートスプリントでは遥、反射神経では凌、持久力では悠里に敗れたものの、それらでもすべて2位だった。

 ちなみに、最下位をほぼ総なめしたのは誠だった。柔軟性はそこそこ高い順位だったものの、それ以外の項目は軒並み最下位だった。


「では少し休憩しましたら、今度はボールを使った能力の測定をしていきますね」


 数原はそう言うと、グラウンドにボールを用意したり、何やらスピードガンのような機器をセッティングしたりしていた。


 そして、休憩が終わるとボールを使った能力測定が始まった。ドリブルの速度や、シュートの速度の他に、パスの正確性やボールタッチの柔らかさ等多岐に渡って測定が行われた。

 この測定では基礎技術の高い名古屋FC組が平均的に高い評価となっており、特に悠里が全体的に好スコアとなっていた。

 遥はドリブルやボールタッチの柔らかさはずば抜けているものの、パスの正確性やシュート技術はあまり高くなかった。

 また、運動能力測定ではダメダメだった誠はパスを含めたキックの正確性は突出していたがそれ以外は平均的だった。

 ちなみに、新太はさすがに初心者ということもあり、ほとんどの項目で平均かそれ以下という結果になった。


 ◇


 能力測定の翌日、数原がデータの分析が終わったということで、1年生は部室に集められた。


「皆さん――昨日はお疲れ様でした。お伝えしたとおり、皆さんのデータを分析しまして現状最適と思われる練習を提案させていただきます。その提案通りの練習をするもよし、他の練習を私と協議して決めるでもよしです」

「「「はい!!」」」


 そして、数原からひとりひとり練習メニューが伝えられる。遥はドリブル突破からのシュートに関するトレーニングが提案されており、どうやら凌と恭平、それから吉井とのグループ練習になるらしい。遥は自身でもシュートに課題意識は持っていたため提案通りの練習を行うことを決めた。

 それから新太を除く1年生全員に練習メニューが言い渡された。


「せんせー!俺は?」


 新太が数原に向って尋ねる。


「丹羽くんは初心者ということですのでマネージャの朱里さん主導の元、基礎練習を行っていただきます。詳しい話は朱里さんから聞いてください」

「はーい」


 新太も異論はないようですんなりと話を受け入れた。一部周囲からは『どうせなら俺も美人マネージャとの個別レッスンが良かった』等の声が上がったりしていたが、数原が再び話し始めたことで口を閉ざした。


「そして……一旦ではありますが、4月中旬から始まるG1リーグのメンバーとして登録する選手を発表します。呼ばれた選手は練習後半でレギュラー組の方に参加してください――あ、上級生にはすでに伝えてありますので」


 数原の言葉に1年生の間に緊張感が走る。ピリッとした空気間の中、数原が言葉を続ける。


「メンバーは5人です。山田くん、武藤くん、甲斐くん、杉浦くん、それから七海くんです。ただ、新入生は6月上旬まで追加登録が可能ですので今後も追加で登録する可能性はあります――その点ご承知おきください」

「「「はい!!」」」


 メンバーに入った者、入らなかった者、それぞれ思うところがありつつも、すぐ目の前に迫っているG1リーグの開始に向けて心身ともに準備を始めていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る