紅白戦 前半
上級生チームと新入生チームのスターティングメンバーがピッチの中央に向かい合って整列する。そして監督である数原が両チームの顔ぶれを確認しながら紅白戦の注意事項を話し始める。
「まずはルールです。30分ハーフで前半後半の間に5分のハーフタイムを設けます。選手交代の制限はなし、主審は3年生の小湊くんにお願いしています。もし彼が交代で出場する場合は、上級生の誰かが代わりに主審をやってください。副審はいないので、ある程度はセルフジャッジになりますが、最終的には主審のジャッジに従ってください」
「「「はい!!!」」」
皆が声をそろえて数原に返事をする。
「そして、怪我をしないように――フェアプレーでお願いします」
「「「はい!!!」」」
数原はそう言うとピッチを後にし、どちらのチームのベンチに戻るわけでもなく、ピッチ全体を見渡すことのできる坂の上にむかった。そこにはカメラ等の様々な設備が設置されており、マネージャーである朱里もスタンバイしていた。
「録画の準備はできていますか?」
「ばっちりです!」
数原の問いかけに朱里は親指を立てて答える。
「さて――今年の新入生はどうでしょうか……」
数原がそう呟くのとほぼ同時に、主審の小湊によって試合開始のホイッスルが吹かれた。
◇
試合はやはりというべきか、上級生チームが主導権を握る展開となった。試合開始直後は両チームとも緊張からか、ボールの落ち着かない時間帯が続いた。しかし、5分が経過したころには上級生チームがボールを保持する時間が長くなり新入生チームは何とかディフェンスするのが精一杯といった様相だった。
「貴斗っ!――恭平っ! もっと寄せろ!球際激しく!」
凌が相手のキーマンである長谷川と斉藤に対し、それぞれマークについている2人に大きな声で指示を飛ばす。2人も指示に答え、それぞれ激しくディフェンスに当たるが、一瞬のスキを突かれボールを受けた長谷川が斉藤へダイレクトでパスを出す。
斉藤はそのボールを浮かせてトラップすると、そのままハーフボレーのような形でシュートを放つ。しかしそのシュートは凌が横っ飛びでしっかりとキャッチする。そして、そのまますぐに起き上がり、カウンターを試みようとする。
(……くそっ――戻りが早いというか、必要以上に攻めに人数をかけてこないな。こっちのエースもキャプテンにがっつりマークされているし……)
凌は心の中で悪態をつきながらカウンターを諦め、恭平へボールを渡す。恭平はボールを受け、パスの出しどころを探していると、斉藤が急にプレスをかけてきた。
恭平は慌てて、とりあえず悠里目掛けてロングボールを蹴り入れるもキャプテンの康太によって跳ね返されると、そのセカンドボールを長谷川が回収する。そしてそのままするするっと左サイドに流れるようにドリブルを開始する。
そのドリブルに左サイドバックの将吾と左ボランチの剛がつられてしまい、空いた中央のスペースに相手フォワードの濱田が入ってくる。そこで長谷川からパスを受けると、聡とマッチアップしながらもやや強引にシュートを放つ。
聡がブラインドとなっていたためシュートへの反応が少し遅れた凌であったが、持ち前の反射神経を発揮しコーナーキックにしてしまいながらもなんとかセーブした。
「――全体的に寄せが甘い!!恭平!もう少しディフェンスラインのコーチングをしろ!――ここ集中っ!!」
凌が皆にむかって檄を飛ばす。そして、相手のコーナーキックということでコーナーアークに長谷川がゆっくりと向かい、さらにキャプテンの康太もここぞとばかりに上がってきた。
「――キャプテンには聡がマークにつけ!斉藤先輩には恭平だ!」
凌が指示し、それぞれが上級生に対してマークにつく。そして、長谷川がコーナーキックを蹴り入れる。そのボールはきれいな軌道で康太の頭上へと到達し、聡のマークなどものともせず、豪快なヘディングシュートを叩き込む。そのボールがゴールラインを割り上級生チームのゴールとなった。
◇
その後、集中力が途切れてしまったのか、新入生チームは立て続けに2失点を喫し、前半終了間際ながらスコアは3-0となった。
その様子を遥と新太はベンチで眺めていた。すると不意に新太が遥に声をかける。
「なぁ――」
「ん?」
「俺は初心者だからよくわかんねぇけどさ――どうしたら勝てるかな?」
「僕も詳しいわけじゃないけど……少なくとも長谷川さんをどうにかすれば失点は減ると思う。この試合3アシストだし」
「もし俺が、あの人にべったりマークについて自由にやらせなかったら――勝てる?」
「僕も試合に出ていいなら勝つ自信はある――できるの?」
「俺は1回見た動きなら大体真似できる――ちょっとアップがてら見てくれよ」
新太と遥はベンチを出て、グラウンドの端の方でボールを使ってアップを始める。そして新太にボールを触らせてみると遥は衝撃を覚えた。
新太のボールタッチやパスは多少のぎこちなさはあるものの、初心者とは思えないほどしっかりとしており、なにより体の使い方が非常に巧かった。
「……すごいね――何か格闘技とかそっち系の競技もやってた?」
「あぁ、空手をやってた――お前もなんかやってるよな?体の使い方が俺に似てるし――」
「まあね――近所のブラジル人にブラジリアン柔術とカポエイラを教えてもらってたよ。サッカーの役に立つとか言ってね」
その後も2人は前半終了の笛が吹かれるまでアップを続け、お互いの実力を確かめ合った。遥も、新太もお互いにどこか似たものを感じていたのだった。
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