作戦会議

「――まずはフォーメーションを決めよう。さっきの自己紹介でゴールキーパーは俺しかいなかったと思うから、ここは確定で。次にディフェンスラインだな……恭平以外にセンターバックできるやついる?」

「……お、俺できるよ――部活だけど、小中とセンターバックやってた」


 凌の問いかけに手を挙げて答えたのはひょろっとした長身が特徴の田中山たなかやまだった。


「利き足は?」

「右だよ」

「わかった――他にいないか?いなければ、右センターバックが田中山、左が恭平で。センターバックをできるメンバーが2人だから……4バックでいくしかないな――次、サイドバックできるやつは?」


 再び凌が問いかけると、またしても1人――坊主頭が特徴的な、はやしが手を挙げた。


「右でよければ俺ができるぜ!」

「よし、頼む。他にいないか?この際メインのポジションじゃなくてもやったことあるとか、そんなレベルで構わない」

「そんなのでよければ――メインはボランチだけど、たまにサイドバックもやらされてたからできなくはないよ」


 そう話すのはイケメンの雰囲気を醸し出している白河しらかわだ。


「十分だ、なら左を頼む――ん?お前なんか見覚えがあるな……」

「一応、岐阜FCのジュニアユースでやってたからね――クラブの大会かなんかで見たことがあるのかも」

「なるほど――ちなみに、ほかに岐阜FCのやつはいるか?」

「いるよ――あそこの西松にしまつくんがそうさ」


 指をさされたのは寡黙そうな見た目の生徒だった。


「わかった。ありがとう――これで最終ラインは確定だ。次は中盤だな……サイドじゃなくてボランチとかトップ下とか、中央でプレーできるやついるか?あ、貴斗はわかっているから大丈夫」


 寮の話に出てきた貴斗とは凌と同じく名古屋FCジュニアユース出身の選手だ。遥も先ほど昼食を共にした中の1人だ。そして、凌の問いかけに今度は2人の手が挙がる。1人目は特徴のないことが特徴とまで言える鈴木だ。苗字まで特徴がないが、名前はつよしと見た目とのギャップがある。


「ボランチならできます――アンカーはできないですけど……」

「オッケー、大丈夫だ。もう一人の……誠だっけか?お前は?」


 寮に話を振られたもう1人目が自己紹介の時からずっとびくびくしている誠だ。誠は少しまごつきながらも返事をする。


「あ、あのできればトップ下で……無理ならボランチでもなんとか。で、でも正直ディフェンスは苦手で――」

「わかった――それなら中盤は三角形にして、貴斗と剛で。それからトップ下を誠で」


 ディフェンス4人に引き続き、ミッドフィルダー3人も確定する。


「そうすると最後は前線だな――とりあえず悠里はセンターフォワードで確定として、ウイングかサイドハーフできるやつは?」


 するとまた2人の手が挙がる。そのうち1人は先ほど少し話題に上がった西松だ。そしてもう一人は少しやんちゃそうな見た目の木ノ下きのしたという選手だ。


「オッケー、どちらのサイドにするかは2人で話し合って決めてくれ。……それでここまで一度も手を挙げなかったのは、遥と新太か。新太は初心者だからわかるけど、遥は何でどこにも手を挙げなかったんだ?」

「……ごめん、サッカーの試合経験がないから自分がどこのポジションをできるのかいまいちよくわかっていなくて……たぶん左前のあたりがいいとは思うんだけど……」

「……わかった――とりあえずスターティングメンバーはさっき言った通りで、遥と新太もどこかのタイミングで出てもらうから準備しといてくれ」


 遥と新太は凌のその言葉に頷く。


「即席チームだから連携も何もあったもんじゃない――作戦はシンプルでいこう。まずは全員守備、ボールを奪取できたら何とかして悠里に繋ぐ。悠里が個人技で得点を狙う。悠里頼みになって悪いが、これが最善策だと俺は思う。異論あるか?」


 凌が皆をぐるっと見渡して、異論が出ていないことを確認する。


「次に先輩方で要注意の選手を伝えておく。まずはキャプテンの牧村さん――190cm以上ある長身と見た目通りパワーがすごい……セットプレーなんかだと上がってくるから要警戒だ。あとは昨年10番を付けていた2年の長谷川さんも要注意だ。足元の技術もあり、球際の強さもあるそんな選手だ」


 凌はさらに続ける。


「それからチームのエースストライカー、2年の斎藤さんも強力なシュートを持っているし、ポストプレーもできるから要注意。あとは……サイドバックの吉井さん、この人はかなりスピードのある選手だからマッチアップは気を付けろ。ただ、上がりすぎてディフェンスを疎かにしがちだからそこは狙っていきたい」


 そう締めくくると、凌は皆を見渡し手をたたく。


「よし、円陣を組もう」


 凌のその言葉で新入生はみんな立ち上がり、円になって肩を組む。


「さっき監督は結果を気にするなって言ったけど――やるからには勝つ、いくぞ!!!」

「「「おう!!!!」」」


 士気が高まった新入生たちは上級生の待つグラウンドへ駆けだす。朱里に差し出されたビブスを受け取るとそれを着て、遥と新太以外の11人はそれぞれピッチへと向かっていった。

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