妹が次世代の勇者だったらしいんだけどそんなことよりも妹が可愛すぎて辛い
熊
第1話 誰だぁ貴様ァ!!!
七歳の頃の話。
一年ぶりにクソ親父が家に帰ってきた。
「ただいま~。いやぁ、久しぶりにクレスに会えてお父さんうれしいぞ~」
それが、村はずれの一軒家に、体よりも大きなリュックサックを引っ提げて帰ってきた親父の第一声だった。それに対する俺の反応は以下の通り。
「誰だ貴様ァ!!」
そう言って自作の槍を突きつけた幼少期である。いや、流石に弁明させてもらうけど、当然の反応だと思うんだよね。だってこいつ、六歳の息子一人置いて一年家を空けてたんだぜ? 俺、家に一人だったんだぜ? まさか友達を作るよりも先に狩猟用の槍作ることになるなんて思ってなかったよ本当に。そして今まさに、家に来た不審者を相手するのに役立っていると。流石は俺だ。
「わー! ストップ! ストップ、クレス! お父さんが家に居なくて寂しかったのはわかるが、危ないのはダメだぁ~!!」
「だから誰だって聞いてんだよ貴様はよぉ!!」
ちなみにこのころの俺は、完全に父親の顔を忘却していた。そんなことを覚えているぐらいなら、槍の作り方やウサギ用に仕掛けた罠の場所を覚えるために、記憶力を使っていた。
そうして、槍の穂先が親父の顔に刺さるか刺さらないかのギリギリの攻防を繰り広げていたら――ふと、白い影が親父の背後から姿を現したのだ。
「……なにやってるん?」
そんな風に言って現れたのは、赤い目だけを除いて、髪から肌から何から何まで真っ白白な女の子だ。
そんな少女の登場に俺は。
「くっ……子供は流石に殺せない……」
槍を下げるしかなかった。
「まてクレス! それってつまりお父さんのことは殺そうとしてたってのか!?」
「黙れい不審者ァ!!」
しかし大の大人の不審者となれば話は別。とりあえず、家に押し入ろうとしてくる不埒者(父親)との戦いは始まった。
その結末は、一時間に続く攻防の末に、親父が大事にしていたロケットの中に入っていた家族写真を見せてきたことで終わりを迎える。危うく親殺しになるところだったぜ、危ない危ない。
「よくもまあ子供一人放っておきながらのうのうのと返ってこれたもんだなクソ親父」
とはいえ、やはり一年もほったらかしにされた怒りが消えたわけじゃない。家の中に入れた間も、俺はそんな風に親父への怒りを口にしていた。
ただ、
「一年で随分と口が悪くなったねクレス……。ん~ぅうううでも可愛いからよし!」
なんて気持ち悪いことを言い出したから、憎まれ口を言うのも途中でやめた。吐き気がするね。
そんなやり取りの後、親父は連れてきた女の子について教えてくれる。
「誘拐……?」
「違う違う違う!! お父さんそんなことしないから! しないから!」
というか、説明してくれなければ、俺の中で親父に立派な誘拐犯という肩書がついてしまうところであった。ので、その弁明のために親父は焦った顔で話し始めた。
「いやー実は、経営難で潰れるって話の孤児院で、流石に面倒が必要って歳の子供を引き取ったんだよ。ほら、知ってて見捨てるのもかわいそうだし、クレスも一人じゃ寂しいだろうって……」
「人を動物拾って来たみたいに拾ってくるんじゃねぇーよ!!!」
ここで俺の渾身のドロップキックが炸裂した。
「痛ーい!」
「つーか親父! お前がそう言って拾って来た犬猫が何匹いると思ってんだよ!! 全部俺が面倒見てんだぞ!!!」
ドロップキックで倒れた親父をさらに踏みつけて追撃する。久しぶりに会った父親にする仕打ちじゃないと言わないでほしい。何しろこの親父、一年も家を空けるに飽き足らず、適当に拾って来た動物の世話を俺に任せっきりにしていたのだから。
しかも、家を空けている間も、グリフォン便なんかを使って速達してくる始末だ。おかげで今日連れてきた女の子が居らずとも大家族である。寂しい思いなんてしたことがない。
「……まあいい。こうなったら人が一人増えようが二人増えようが変わらん。んで、何て名前なんだよ」
正直言って、こんなダメ親父に
だからとりあえず、親父が持ち込んだ騒ぎを早々に切り上げようと、俺は少女に名前を聞いた。どんな経緯であれ、ここに住むってんなら彼女も家族だ。名前だけでも知っておく必要はある。
「名前? 私はクララ。五歳」
「おーし、クララ。んじゃあ、お前にゃこれからこの家の労働力として働いてもらうからな。お前が子供だからって容赦しねぇぜ。何せ俺も子供だからな。泣こうが喚こうが救いのない無限給餌地獄ってもんをお前に見せてやるよォ!!!」
――10年後。
「おはようクララァ!! 今日も今日とて可愛いなお前は!! 寝ている姿も天使みたいだ! あぁ、天使の目覚めだ! なんて神々し……あぁ!? お、俺の、俺の目が潰れるぅううう!!」
「流石にキモイよ兄貴……」
俺、クレス・ブレンフィールド。
シスコンになる。
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