第2話 だんまり水色少女
「ジブンはスライムのスラドロップ・プルン・エミルス……長いのでみんなスラたんって呼んでるッス」
水色少女は魔王様の横で自分の名を名乗り…………それだけ……?
「あのぅ、名前以外の情報は……」
「……」
だんまりである。
見るからに「チッ、めんどくせぇなぁ」みたいな雰囲気出してる……。ごめんね、同じ年頃のお友達でもないしアイドル級のイケメンでもなくて。
「とにかくヤマダアキト! 貴様にはこれからスラたんと共に「特殊遊撃隊」として活動してもらうのであ〜る!」
「遊撃隊はなんとなくわかるんですけど、特殊ってのは?」
「ククク……よくぞ聞いてくれた! 特殊遊撃隊とはただの遊撃隊ではない、異世界転移者専門の遊撃隊であ〜る!」
ほうほう、転移者専門……。
「それ今スキルがよくわからない俺がやる必要ありますか?」
「クク……もちろんだ。他の転移者は軒並み人間側に取り込まれていったからな、貴様が魔王軍初の異世界転移者なのであ〜る。つまり貴様が魔王軍唯一の転移者への対抗手段となりうる可能性があるのだ」
「唯一って……魔王軍だって魔王様とか四天王みたいな強い配下だって居そうじゃないですか。それなのに唯一?」
「たしかに異世界転移に匹敵する力を持つ四天王やそれをも凌駕するこの我がいるが……なぜか我々は転移者と相対し、戦闘するということがなかなかできないのである」
……たぶんそれ最後の村を通過して—— みたいなRPGムーブしないとたどり着けないみたいなやつだと思います。
「今のうちは貴様の言う通りスキルは何もわからない。だがいつかその日が来ると信じて魔王軍としてトレーニングに励むのであ〜る!」
という指示で俺はに特殊遊撃隊の寮にて腕立て伏せだ。
「26! ん27ぃ! ハァ、ハァ……」
寮とは言ったものの今いる一室しかない。何せ特殊遊撃隊は今までスラたん1人だったらしいのだ。1人で異世界転移者への対抗を任されてたあたり、見た目に反してかなりの強さを持っているのだろう。
「にじゅうううはちいぃぃ…………もう無理ぃ……」
28回目でパタッと倒れた。自分の筋力体力の無さが情けなく思える。
倒れた視線の先では、スラたんがあぐらをかいて何かをしている。手元に集中しているように見える。
何をやってるのだろうと気になり、立ち上がって上から除いてみると……
「!!」
持っていたのは右に丸い突起4つ、左に十字のが1つ、そしてその下に大きい丸が1つ、真ん中には人が映し出されている…………ゲーム機だった。
そう、ゲーム機である。魔王軍が人間と戦争中のファンタジー世界で。
すっごい気になる。この世界にはあるものなのか、それともこの子も実は転移者なのか。ちょっと聞いてみよう。
「なぁ、それってゲーム機だよな? どこで手に入れたんだ?」
「……」
「スラたんももしかして異世界転移してきたのかなーって」
「…………」
「きょ、今日はいい天気ですね〜〜!」
「……………………あの」
「!!」
ついに自己紹介以外で喋った! と思ったら、ゲームを一時中断して
「あくまでジブンとアキトさんは仕事上の関係なので、プライベートで話しかけるのやめてもらっていいッスか?」
それだけ言ってゲームに戻っていった……。
…………。
おいこれ無理だろ。仲間とコミュニケーションをする気がないとか最悪だ。今からでも魔王様に言って……。
配置を変えてもらおう、と思ったとき。そのゲームの画面に見覚えがあることに気づいた。
真ん中手前には自分の身体と同じくらいの武器を担いだプレイヤー。奥にはその何倍もの大きさのドラゴン。左上にはHPとスタミナゲージ。右下には回復薬。
間違いない、これモ〇ハンのパクリゲーだ。
モ〇ハンと言えば日本を代表する狩りゲーだが、それがなぜここに? 他の転移者が作ったのか? 俺もモ〇ハンは結構やってたからやりたいんだけど。
更に気になってくるがスラたんは話しかけてもだんまりだ。
……見た感じスラたんは敵の攻撃にあたっては回復を繰り返している。上手くはない、下手よりだ。それなら……!
俺はそのパクリゲーの画面をじっくりと見た。
奥のドラゴンが前足を上げて予備動作を見せたとき、俺はスラたんに指示をした。
「突進が来るぞ」
黙ってはいるもののしっかり聞いていたらしいスラたんは、俺の言葉で突進が来るというのに気づいて、咄嗟に右に回避をした。
続いてドラゴンに攻撃を当て続けてダウンをとり、攻撃のチャンスが来たとき。
スラたんの操作するプレイヤーが担ぐ大剣の溜め攻撃がドラゴンの頭にヒットした。
そしてもう一発を溜め始めたところで。
「欲張っちゃダメだ。攻撃の発生前にダウンが終わって反撃が来るぞ」
またしっかり聞いていたスラたんはすぐに溜めをキャンセルし、ドラゴンから距離をとった。
よしよし、いい感じだ。
こんな具合でスラたんに指示を出していき、スラたんは無事ドラゴンを討伐することに成功した。
「クエストに成功しました」の表示が出たとき、スラたんは少し嬉しそうな笑みを浮かべ、それを俺が見ているのに気づき、笑みを隠すように真顔を作った。
よかった。感情はあるみたい。
ここまで最低限のことしか喋らず、ずっと怠そうにしてたのに、少しだけでも笑ってくれたことに達成感を感じていると……
「……………………やるッスか?」
そう言ってスラたんは俺にゲーム機を差し出してきた。
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