転移先は魔王軍でした ~もらったスキル、【コピー】はちょっと微妙~
たなかくんハイパー
第1話 朝起きて、魔王城
「おはよう、ヤマダアキト。目覚めはどうかね?」
目覚めて最初に耳にしたのは地獄の底から響くようなモーニングコールだった。
ヤマダアキト……山田彰人……俺の名前だ。そして誰なんだこの声は……。……!?
俺はなぜか昨晩寝たはずの寝室ではなく、黒い床に敷かれたレッドカーペットに寝ていた。そして服もパジャマじゃなくて、背中に短めのマント、腰にベルト、脚には軽いブーツとコスプレイベントのような服装になっている。
そして身体を起こすと目の前にいたのは黒くてゴツゴツした玉座に座る男だった。
しかも明らかに見た目が人間じゃない……!
紫色の肌に真っ黒なマントを纏い、頭には捻れた2本の角。そして何より筋骨隆々! 殴られたら10メートルは吹っ飛べそうなぶっとい腕! 腹筋は6どころじゃない10パック!
突然のことに俺がフリーズしていると、目の前の異形が口を開いた。
「まぁ驚くのも無理もない。貴様は残念ながらこの世界に転移してきたのだ。すなわち貴様にとってここは異世界。そして最初に出会ったのはこの我、魔族の長にして、やがてこの世界を支配する者、魔王であぁぁぁるぅぅう!」
「魔王であぁぁぁるぅぅう!」に合わせて窓の外で雷鳴が鳴り響く。
異世界、魔王……なんなんだこのファンタジー設定は。テレビのドッキリ企画か?
辺りを見回すと……城だった。
それも日本の殿様でも英国の王様でもないもっと別のもの。今いるカーペット以外全体的に黒く、ゴツゴツしてる。
窓の装飾は悪魔の翼を模したようなものだし、天井が吊り下げられてるシャンデリアはトゲトゲして悪趣味だ。
テレビ企画のために一般高校生である俺相手にここまで豪華なセットを組むことは無いだろう。導き出される答えは……!
「俺、マジで転移しちゃったんですか!?」
「クク……その通りである。この世界よくあることだがな」
「よくある……?」
「我々魔王軍は絶賛人間と戦争中であってな、その最中に人間側が作り出した装置によって時空の歪みが生じ、結果この世界に他の世界の物が流れ込むようになったのである。物だけでなく、人間もな。貴様がそれに巻き込まれ、今朝魔王城の近くで倒れているのを我がここまで運んできてやったのであ〜る」
なるほどなるほど。納得できないがこうなってしまっている以上納得するしかないようだ。
「ちなみに帰る方法ってのは……」
「無いな」
「それじゃあ俺はこれからどうすれば……」
「クク、安心するのである。貴様に魔王城の寮を貸してやる」
「おぉ! じゃあ適当に暮らしながら帰れるのを待てば」
「否、世の中そんなに甘くないのであ〜る。貴様には魔王軍の一員となってもらい、任務にあたってもらうのであ〜る!」
「…………え?」
魔王軍の一員? 何言ってるんだ? そもそも俺は一般高校生、軍人として戦う力なんて微塵もないんだが!?
「貴様は自分を戦闘力のない人間だと思っているようだが、この世界に来た時点で貴様は持っているのだよ。"スキル"をな」
「スキル……」
「スキルとはこの世界への耐性が転じて能力となった物。人間がこの世界に来たということは、すなわちスキルを獲得したということである。それもかなり強力なものをな。さぁ、この水晶に手をかざしてスキルの鑑定を行うのであぁぁぁるぅぅぅう!」
そう言って魔王様は懐から占いに使うようなサイズの水晶玉を取り出し、俺の前まで持ってきた。
あ、これ知ってる。最強クラスのはチートスキルが表示される or 水晶玉パリーンになるやつだ。
ついに俺にも来たみたいだな、異世界転生者チート無双……転移だけど。
チート能力で無双してハーレムを築く、男子高校生の2人に1人は考えたであろう妄想が今、現実になろうとしている!
そんな思いを胸に俺は自信満々に水晶玉に手をかざした。
その瞬間、水晶玉は強い輝きを放ち……!
放ち……放…………たない……。
「「マジで?」」
魔王様とハモった。あの「〜である」口調も忘れて口ポカーンだ。
しばらく沈黙が流れた。
「な、何かのミスだったりしませんかね?」
「そ、そうであるな! さっきのはたまたま反応しなかっただけだ、もう一度かざすのである!」
サッと水晶玉に手をかざすと…………やはり何も起こらない。
「おかしい……。水晶が反応しなかった前例は無いはずであるが……」
「あ、あれぇ、魔王様?」
「スキルが身体の中に存在しない、空っぽのような反応であるな」
「空っぽ……」
「貴様、元の世界にいた時に、特技と言えるようなものはあったか?」
「? それに何の関係があるんです?」
「転移者のスキルは元の世界での特技に関わるというデータがあるのだ。根拠となる転移者は5人と少ないが、信用に値するものである」
特技ねぇ……。ゲームは好きだったけど友達の方がよっぽど上手かったし、勉強も中の下。部活もめんどくさくて入ってなかったからこれも違う。あれ、俺の今までって振り返るとすごい薄い?
「……特に無いですね。平凡かそれ以下の人生送ってきたもので」
「そ、そうであるか。なんというか、すまなかったな」
謝らないでください。余計に悲しくなってきますよ。
魔王様は「ウォッホン」と大きく咳払いをし、ちょっと慌てた様子から、また威厳ある姿に戻った。
「スキルはあるがまだ真の力が目覚めていない、ということも無きにしもあらずだ。魔王軍として活動していく中で見つけていけばいいのである」
「ですねぇ……」
この世界で生きてるなら耐性……スキルがあるってことなんだろう。きっと覚醒してチートスキルが手に入るに違いない。その時を気長に待とうかな。
「さて、魔王軍において貴様には少し特殊な役割を担ってもらいたい。そのためのパートナーを紹介するのである。入ってくるのであ〜る!」
魔王様が指パッチンを決めると、玉座を向いた俺の背後の扉が開き、少女が部屋に入ってきた。
「……!!」
俺はその少し異様な見た目に釘付けになった。
水色パーカーとグレーのスカート。
パーカーと同じ色で、てっぺんにアホ毛が飛び出したショートヘア。
やる気のなさそうなトルマリンの眼。歳はだいたい俺の2つ下…………14,5くらいか。
魔王、軍、ファンタジー。そのどれともかけ離れた見た目に驚いていると、少女が口を開いた。
「ジブンはスライムのスラドロップ・プルン・エミルス……長いのでみんなスラたんって呼んでるッス」
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