第3話 誰しも人知れずわがままを巧みに使っている
心地のいいお部屋を後にし、おやつと少しのおもちゃを携え出てきました。時刻もお昼時に近く、一層と高くなったお天道様から熱烈なエールを頂きます。
「あっつ……」
みほさんの一言を皮切りに、三人ともだらだらと汗を搔き始めます。
「ほんと、探偵って大変な仕事なのですね。すいません、ご迷惑おかけして」
「いえいえ、ご迷惑だなんて……。こうやってようやく生活できますので。ご安心ください、そちらのお気遣いは頂かないでおきますね」
ほんとうに、気配り上手で且つ、礼儀正しい方です。
「ね、あそこの自販機に寄っていこうよ」
それと違って、この人は……。一体どこでこの二人が出会ったのでしょうか。
「ネコって自販機の下に居たりしないのかな」
「やめてください。みっともないですよ」
地面に手を付き覗こうとしたので、哀れみ交じりの声を掛けます。
「ほんと、先輩は社会人になっても変わらないですね」
みほさんの破天荒と言いますか、天衣無縫な行いは、瑞穂さんも承知のようです。
尚更、二人の馴れ初めが気になることです。
「そういえば、一つ気になったのですが、二人の出会ったきっかけって何ですか?」
せっかく、瑞穂さんとお知り合いになれたので、より仲良くなりたい思いです。
「大学のサークルだよ。学園祭の時に仲良くなったんだよ」
「え。瑞穂さんもダンスをやられるのですか?」
その話はとても意外でした。人を見た目で判断していては、探偵の名が恥じるばかりです。しかし、瑞穂さんの性格や風貌を考えても、とても意外でした。
「いえ、私はダンス部じゃなく、文化喫茶部に入っています。先輩とは、私が学園祭の委員会活動をしているときに出会いました」
喫茶部とは何をやられる部活動なのでしょうか。とても興味が湧きます。
「先輩は学園祭の出し物で、大胆なパフォーマンスをしようとしていたのですが、学校側ともめてしまって。そこで、運営委員会の方に話を持ち掛けてきたのですよ」
なんとなくではありますが、想像がつきます。おそらく、あれもこれもやりたいと言っているうちに、収まりがつかなくなったのでしょう。
「それは、本当に困ったお方でしたね」
「ほんとうですよ。その時私は一回生でしたけど、大学には子供っぽい人もいるんだなって思いましたよ」
ちらりとみほさんを覗き見ましたが、武勇伝を語られているかのように勇ましく胸を張っています。
「でも、その時の学園祭が本当にすごかったんですよ。それはもう伝説と語られるくらいで」
「そんなにすごかったのですか」
再度覗き見ると、いやぁ、とかえへへ、とかそんな顔をしています。
「すごい人もいるもんだなと思いました。自分のわがままで人に迷惑をかけて、大人と喧嘩して。……それでも、こんなにも人を感動させることが出来るなんて。……それから私も自分の理想の為には、少しくらい人にわがままを言ってもいいんじゃないかと思いました」
そう言われると、少し前の自分に対して、どう接していいか分からなくなってしまいます。
みほさんへの憧れがあるのでしょうか。瑞穂さんの口元は蠱惑的に緩んでいるのです。
そんなことはお構いなしに、みほさんは武勇伝の続きを語ります。
「あの時はほんとうに楽しかったよ。こんどOGとして見に行かなきゃ」
「まだ卒業して三か月程度しか経ってないじゃないですか。そういうのって、行事の時に顔を見せるのもなんじゃないのですか」
なんだか、今の話を聞いて途端に遠く感じてしまう人です。
「今度岡崎の方であるんだって、あやちゃんも一緒に行こうよ」
「いえ、わたしは……。この件がひと段落したら考えます。そのためにも、しっかり仕事をしましょう」
二人の馴れ初めは大変興味深かったですが、これ以上流されてしまうと、こちらとしても仕事が捗りません。ですので、ここからはしっかりと役目を果たしていくとしましょう。
それでは、現状で考えられる実態を把握しましょう。
こういった状況把握で最も有効的なのが『5W1H』です。では、それになぞらえて精査していくとしましょう。まず、事件が発生また、発覚したのが4月の28日です。瑞穂さんが外から帰宅して、しばらくした後に気付いたとおっしゃっていたので、時刻は夕方辺りとしましょう。これが『When』ですね。そして、『Where』瑞穂さんの下宿先です。事件の発端となったのは瑞穂さんの飼い猫でしたね。そちらが、失踪をしたという内容の依頼です。これで一先ず、『What』まで埋められたところです。それから先の『Why』を探れば、いま猫ちゃんがいる場所が大方絞れてくると思います。ですが、やはり素材不足が否めません。
現状ある情報だけでまとめ切ってしまうと、思わぬドツボにはまりかねないのです。
仮に今回の探索で猫ちゃん事態を捕獲出来たとしても、この『Why』を埋めることは出来ないでしょう。ただし、そうなるだけで、一件落着という事になってしまうのです。
しかし、失踪した理由を明確にしなければ、本当に問題解決とはならないでしょう。そうしてしまっては、再発しかねません。外出癖のある猫を探すのは、ボランティアに過ぎないのです。
そうならないためにも、何とかして理由を見つけなければいけません。
唸りつつ歩みを進めます。とくに目的地と言うものは定めていませんので、二人には申し訳ない思いをさせてしまいます。
ですが、いくら頭を捻ろうとも、猫ちゃんが失踪した理由が見えてこないのです。
ここは一つ、知恵を合わせましょう。
「ダメですね。暑すぎて頭が働きません」
助言を求めるはずが、別の意味に捉えかねない事を言ってしまいました。間違いなくみほさんは、これにあやかり休憩だのご飯だの言ってくるでしょう。
「では、いい時間なのでお昼にでもします?」
そう、口を開いたのは瑞穂さんでした。
「商店街の近くに、軽食も出来る喫茶店があるのですよ。良ければどうですか?」
「さんせい!」
激しく同意するみほさんと共に、そう言わざる負えなくなってしまったのです。
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Xにて「#小雪杏」と添えて感想を言っていただきますと、作者が喜びます。
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