第4話 GOAST
僕の名前はゴースト。年齢は数えてない。偶然なのか意図的なのかは知る由もないが、テセウスという女性に声を掛けられ、共に仕事をすることになった。なんと衣食住まで保証してくれる。だが、実のところ彼女を少し疑っていた。こんなに旨い話は聞いたことがないし、僕にそれほどの価値があるとも思えない。それになにより、ここはイデアだ。短い人生の経験則から言わせれば、確実に使い捨て。
それでも僕は彼女についていくことを決めた。正直、もう何でも良かった。予想通り使い捨てにされても、殺されてバラされても。僕は生きることに疲れていた。彼女は天使なのだろうか、それとも黒い羽を白く塗りつぶした悪魔なのだろうか。後者なのだろうな、そう思っていた。
「いらっしゃいませ。」
テセウスに連れられてとあるバーに向かった。名前はないらしい。街外れのそのまた端に位置する店で、客は案の定誰もいなかった。バーテンダーと思しき人物が透き通ったグラスを磨いていた。
「いらっしゃいませ。テセウス嬢、後ろの彼は?」
「良いでしょ?この子と一緒にやっても。それと、一部屋借りるわ。」
「...構いませんとも。」
彼の名はソフィストというらしい。依頼を請け負い、それをテセウスのようなフォールンに委託する、ベンダーだ。光を反射しない黒のスラックスに人工皮膚でできた顔面。その表情は仮面のようにピクリともしなかった。
テセウスはバーの二階の一室を僕に貸し与えた。
テセウスに手渡されたのは年季の入ったSIGピストルと、変わった形状のイヤホンだった。
恐る恐るイヤホンを右耳に装着する。すると、低い男の声が聞こえてきた。
「外せ。今すぐにな。」
「...誰だ。」
「聞こえなかったか?ママに耳掃除でもしてもらえ。...話になんねぇ。テセウス!ガキのお守りはごめんだ!」
このイヤホンには、イカロス=ミトニックという人物のソウルレコードが内蔵されているらしい。ソウルレコードとは特定の人物の過去と思考パターンを記録したAIで、つまるところ、死人と喋れるというわけである。このイカロスという人物。テセウスの義理の兄であり、どうやらフォールンの間で伝説と謳われる存在のようだ。でも僕には、ただ気性の荒い悪漢というイメージしか持てない。
僕は彼女らとともに、生きていくことになった。
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