第2話 ORDER

小雨の夜。男はイデアの路地裏をひたすらに走っていた。その手にはSIGピストルが握られており、服はエチルグリーンの冷却液と血に塗れていた。

「はぁ…奴らが来る…死神が…。」

男は追われていた。数刻前のことである。男は路上でデジタルドラッグを多量に服用していた。その時、目の前を上流階級の人間が通った。富裕層は確かにフォールンの憎悪の的だが、手を出すような者はそういない。そんな愚者の末路はイデアの人間ならば十分に承知しているからだ。しかし、男は衝動的に射殺してしまった。我に返った男は、サイバネティック化により基礎機能を強化した両足で走り続けていた。エアクルーザーの発するモスキート音のような高周波が男を焦らせる。肺が破裂しそうなほど苦しかった。息が震える。

「くそっ…ふ、くそお!」

路地を抜けると、そこには数人のフォールンが屯していた。しかし男はデジタルドラッグによる幻覚と焦燥感で正気ではなかった。SIGピストルを構える。

「なんだこいつ。」

「俺を見るなぁ゛!」

銃口からの硝煙が雨に溶けていく。男はなおも走り続けた。すると行き止まりにたどり着いた。後ろから気味の悪いほど規則的な足音が近づいてくる。振り向くと、雨霧の隙間から漆黒に身を包んだ数人のサイボーグが現れた。

「ぅ、み゛るなあぁ、うあ゛ぁぁああ!」

男が再びSIGピストルを構えるも、次の瞬間には頭が吹き飛んでいた。死神は淡々と男の首筋に複雑な機械をあて、チップを抜き取った。男の流す血と冷却液がマンホールに流れ、イデアの地下を満たしていった。

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