異能戦線以上なし
製本業者
狐と狸の化かし合い
放課後の学園の中庭。澄んだ空気に秋の陽が差し込む中、篠原香澄は妹の佳奈に愚痴を零していた。佳奈は小さな噴水の縁に腰を掛け、姉の話を真剣そうに聞きながらも、どこか楽しそうな表情を浮かべている。
「でね、あの不良達を一撃で倒したら、今度はこれよ」
香澄は溜息をつきながら、ポケットからお見合いの詳細が書かれた紙を取り出して妹に見せた。
「お見合い?本当に?お姉ちゃんが?」
佳奈は驚きつつも、目を輝かせて話に乗り出した。
「うん。親曰く、女の子が暴力沙汰を起こすなんて品がないからだってさ。家の格を落とさないために、お見合いして『穏やかなお嬢様』を演じろ、だって」
香澄は不機嫌そうに眉をひそめるが、佳奈は全く気にしていない様子だった。
「でも、いいじゃない!お姉ちゃんにだって素敵な人が現れるかもしれないよ!」
「そんなわけないでしょ。ただでさえ、相手なんてどうせまともな人じゃないに決まってるんだから」
香澄の冷たい口調に、佳奈は少し口を尖らせた。
そこに現れたのが、佳奈のボーイフレンドである高橋蓮と彼を囲む3人の女子たちだった。口さがない連中が嫉妬混じりに高橋ハーレムと呼ぶ彼らは、なんだかんだで全員仲は悪くない。蓮は快活な笑顔で近づきながら、2人の会話に割って入る。
「何の話してるんだ?また香澄が誰か倒したってやつか?」
蓮の冗談交じりの言葉に、香澄は眉をしかめる。
「冗談じゃないのよ。本当に倒した結果がこれなんだから」
香澄はお見合いの紙を蓮に渡す。蓮は読みながら、口笛を吹いて感心したように笑った。
「へえ、お見合いか。香澄みたいな強い人を選ぶやつ、どんな奴なんだろうな」
「さあね。どうせ碌でもない人でしょ」
香澄がそう言い捨てると、蓮の隣にいた佳奈が突然手を叩いた。
「そうだ!そのお見合い、私たちで見守らない?」
「え?」
香澄は驚いた顔をするが、佳奈は大真面目だった。
「だって、どんな人なのか気になるじゃない。それに、お姉ちゃんが嫌だったら、私たちでちゃんと止めてあげる!」
佳奈の提案に蓮も興味を示し、頷いた。
「いいじゃないか。それに、香澄が何か困ったことになったら、俺たちでサポートできるし」
香澄は呆れたように頭を抱えた。
「いや、そんなの必要ないから。私は一人で大丈夫」
「でも、姉さん!」
佳奈はすがるような目で香澄を見つめる。その後ろでは、蓮と女子たちがニヤニヤしながら見ている。香澄はため息をつき、やれやれと言わんばかりに肩をすくめた。
「…分かった。どうせ止めたって君たちは勝手に動くでしょ」
「やった!」
佳奈が歓声を上げ、蓮も嬉しそうに笑う。
「じゃあ、時間と場所を教えてくれよ。俺たちでバッチリ見守ってやるからさ」
香澄は少しだけ苦笑しながら、その場の空気に押されるように頷いた。
(まあ…悪い気はしない、かな。)
豪奢な内装が目を引く一流ホテルのレストラン。高い天井にはきらびやかなシャンデリアが輝き、客の静かな話し声と食器の音だけが響いている。そんな場に似つかわしくない光景が、香澄の目の前で繰り広げられていた。
「それでね、僕、株式投資にも結構詳しいんだよ。父さんの会社の株も、実は僕がアドバイスしたおかげで大幅に上がったんだ」
目の前で話しているのは、学園の同級生である轟亘。身長こそ平均的だが、でっぷりとした体型に、見るからに高価そうなスーツを無理やり詰め込んだような姿が印象的だ。
一見、高級感を演出しているようだが、スーツの柄が妙にギラギラしていて安っぽく感じる。そしてそのネクタイは、おそらく「高級ブランド品」なのだろうが、派手すぎて全体のバランスを完全に崩していた。
「へえ、そうなんですね」
香澄は上の空で適当に相槌を打ちながら、料理に手をつけるふりをしていた。
亘はテーブルマナーに気を使っているようだったが、それが逆におかしな雰囲気を醸し出していた。
ナイフとフォークを持つ手は妙にぎこちなく、ナプキンを胸元に広げる仕草は芝居じみている。それが一応マナーに沿っているだけに、わざとらしさが余計に目立つ。
「僕、こういうレストランにはよく来るんだけど、やっぱり一流の料理は違うよね。普通の人たちが食べるのとは格が違うというか」
そう言って、亘は魚料理をフォークで持ち上げた。香澄の目の前で、皿のソースを無駄にナイフで何度も塗りつけながら、ようやく口に運ぶ。
食べ方自体はきちんとしているように見えるが、何とも言えない不自然さが漂う。まるで「僕、ちゃんとできてるでしょ?」とアピールするための動作のようだった。
(なんなの、これ…。こんな人、どうして候補に上がったのよ。)
香澄は心の中でため息をつきながら、ちらりと時計に目をやった。まだ約束の時間の半分も過ぎていない。
亘は香澄が興味を示していないことに気づいていないのか、それとも気づいていて無視しているのか、ひたすら自慢話を続けていた。
「僕ね、ゲームもすごく得意なんだ。オンラインランキングでもいつも上位だし、プロのプレイヤーにスカウトされたこともあるんだよ。でもまあ、僕には経営の才能があるから、そっちに専念しようと思ってね」
「へえ」
ホテルのロビー階にある広い吹き抜けのスペース。そこから少し身を乗り出すと、レストランの一部が見える。その隅で、佳奈と高橋蓮、そして彼の取り巻きである女子生徒たちが、こそこそと様子を窺っていた。
「ねえねえ、見える?お姉ちゃんどうしてる?」
佳奈が心配そうに声を潜めると、一緒に覗き込んでいた蓮が肩をすくめた。
「ああ、ちゃんと座ってるな。けど、なんだあれ…相手の男、なんか妙に動きが変じゃないか?」
蓮の指摘に、佳奈も目を凝らしてテーブル席を観察する。確かに、香澄の向かいに座る男――轟亘は、ナイフとフォークを奇妙な手つきで扱い、時折大袈裟に身振り手振りを交えながら話している。その動作が妙に不自然で、わざとらしい雰囲気を醸し出していた。
「えっ、なんであんなにナプキン広げてるの?しかもスーツが変にピカピカしてる…」
佳奈が驚いて言うと、隣で覗いていた取り巻きの一人がクスクスと笑いを漏らした。
「確かにダサいね。でも、佳奈ちゃんのお姉さんはさすがだね。あんな人を相手にしてても、全然動じてない感じだよ」
佳奈は姉の毅然とした様子にほっとしつつも、相手の奇妙さに少し困惑していた。
「お姉ちゃん、平気なのかな…。変な人じゃないといいけど」
全員、彼が同じ学園の人間だと気づいていないようだ。いや、元々の轟亘に対して興味が無いのかも知れない。
そのとき、不意に蓮が笑いを漏らした。
「プッ…」
「え、蓮さん?何がそんなに面白いの?」
佳奈が不思議そうに尋ねるが、蓮は笑みを浮かべたまま、軽く頭を振った。
「いや、別に。なんでもないよ」
「えー、絶対なんかあるでしょ!」
佳奈がしつこく聞こうとするが、蓮は曖昧にごまかしながら腕を組んで再び香澄達のテーブルの方を見やった。
(……香澄もたいしたもんだけど、亘もよくやるよ。なんかこういうの、らしいっていうか)
蓮の頭の中では、香澄の冷静すぎる態度と亘の態とらしい仕草が妙にコントラストを成し、ツボに入ってしまったのだった。
香澄はまたも適当に相槌を打つが、その声には全く感情がこもっていない。
「あとね、うちの家系って、結構すごいんだよ。祖父はこの国で有名な政治家だったし、父は社長だし、僕もそのうち跡を継ぐ予定なんだ」
亘は堂々と胸を張るが、その表情にはどこか薄っぺらさが漂っている。
(なんでこんな人と…。)
香澄は料理を口に運びながら、内心で嘆息する。目の前の男が何を言おうと、響いてくるものが何一つない。むしろ、同じ話を聞かされ続けるうちに、少しずつ疲れを感じていた。
それでも香澄は、特に不満を表に出さずに食事を続ける。とはいえ、彼の声が耳に入るたびに、頭の中で「早く終わってほしい」という思いが強まるばかりだった。
亘は香澄が適当に相槌を打っていることに気づいているのかいないのか、満足げにこう締めくくった。
「やっぱり僕みたいな男が、香澄さんには一番似合ってると思うんだよね。これからもよろしく」
香澄はその言葉に一瞬だけ目を見開き、そしてすぐに冷たい笑みを浮かべた。
「…ごちそうさまでした」
香澄は静かにナプキンを畳みながら、早くここから立ち去るタイミングを図っていた。
佳奈たちはその後も覗き見を続けたが、次第に退屈し始めた女子生徒たちは小声で雑談を始める。
「佳奈ちゃんのお姉さん、やっぱり美人だね。ああやってじっとしてるだけで様になる」
「それに比べて相手の人、ちょっとアレだよね…。なんかずっと自慢話してない?」
そんな会話を聞きながら、佳奈は再び姉の方に目をやる。姉の冷たい横顔が、普段の彼女そのままで安心感を覚える一方で、目の前の奇妙な男性が何を言っているのか少し気になった。
「お姉ちゃん、大丈夫かなあ…。なんか、絶対『もうやだ』とか思ってる気がする」
「ま、わた……香澄なら大丈夫だろ」
蓮が軽く手を振って答える。その余裕ある態度に、佳奈は少しだけ安心し、姉を信じて見守ることにした。
亘の終わりの見えない自慢話が続く中、香澄は内心で時計を確認しつつ、なんとか食事を終えようとしていた。目の前の料理はほとんど減っておらず、香澄が丁寧にフォークを運ぶ手の動きも、明らかに機械的だった。
「…だからさ、香澄さんみたいな人には、僕みたいに才能があって将来性のある人がふさわしいと思うんだよね」
亘が得意げに語るが、香澄は相変わらず適当に相槌を打つだけ。そんな平和とも退屈とも言える雰囲気が、一瞬で崩れ去ったのは、店内に突然荒々しい声が響いた瞬間だった。
「おい、ここだ!いたぞ!」
香澄はその声に反応して素早く振り返る。レストランの入口から、場違いなスーツを着た数人の男たち――チンピラが乱入してきた。明らかに高級レストランには不釣り合いな彼らの登場に、店内の他の客たちがざわつき始める。
「まさか…」
香澄は一瞬、状況を飲み込むのに時間がかかった。しかし、よく見るとその中の一人の顔に見覚えがあった。以前、帰り道で出くわした不良の一団だ。どうやら彼らがお礼参りに来たらしい。しかも前回コテンパンにされた対策として、人数は二桁に達している上に、ナイフやバットといった武装をしている。
「この前はよくもやってくれたな、てめえ!今日はその礼をしっかりさせてもらうぜ!」
チンピラの一人が香澄を指さして叫び、他の数人が凶器のようなものをちらつかせながら、テーブルに向かって歩いてくる。店員が止めようとするが、力でねじ伏せられ、完全に場が荒れ始めていた。
「香澄、大丈夫か?」
亘が小さな声で尋ねるが、香澄は目を閉じて深呼吸を一つすると、立ち上がりながら言い放った。
「心配しなくていい。すぐに片付くから」
香澄は椅子を静かに押しやり、一歩前に出る。その動きには全く無駄がなく、亘の自慢話を聞いていたときの気だるい雰囲気とはまるで別人だった。戦闘モードには言っている彼女は気づかない。亘の口調と声色が戦闘モードの彼女に違和感なく溶け込んでいたことに。
最初に飛びかかってきたチンピラの一人を、香澄は一瞬で捌いた。手元にあったナプキンを相手の顔に投げつけ、視界を奪ったところを正確な回し蹴りで吹き飛ばす。その一撃でチンピラは椅子ごと倒れ、動かなくなった。
「次」
香澄は冷静な声でそう言い、向かってくる残りのチンピラたちに視線を移す。その瞳には一切の動揺がなく、むしろ楽しんでいるような余裕すら感じられた。
二人目がバットを振り上げた瞬間、香澄はその軌道を読み切り、半歩下がってかわす。続けざまに相手の腕を掴み、捻りを加えると同時に膝蹴りを一発。
「ぎゃっ!」
短い悲鳴を上げてバットを落とすチンピラを放り投げ、香澄はさらに別の敵を睨む。
「そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」
彼女の挑発に逆上した残りのチンピラたちが一斉に襲いかかるが、香澄はそれを一つ一つ冷静に対処していく。横を見ると、蓮達もチンピラ相手に無双している。その光景はまるで映画のワンシーンのようで、店内の客たちもただ息を飲むしかなかった。
「この程度なら、
しかし、この慢心こそが落とし穴だった。香澄が目の前のチンピラを殴り飛ばした瞬間、背後から別の男がそっと近づいていたのだ。そして、手にもったバットを大きく振りかぶる。
「…っ!」
気づくのが一瞬遅れた。油断――そう思ったその時だった。
「シュッ!」
軽い風を切る音と共に、突然背後のチンピラが「ぐあっ!」という悲鳴を上げて倒れ込む。香澄が驚いて振り向くと、そこには地面に倒れて悶えているチンピラと、その背中に深々と突き刺さったフォーク、そして狸の仮面を被った人影が空中にあった。
「え……?」
一瞬の間、何が起きたのか理解できずに戸惑う香澄。しかし、「もらった!」と言う言葉にはっと正面を向き、その回転を利用して後ろ回し蹴りを放つ。
吹き飛んだチンピラを無視して再度振り向くが、目に入ったのは床に座り込み、体をブルブル震わせている亘の姿だった。
「…亘?」
香澄は半信半疑のまま尋ねるが、亘は顔を真っ青にして震えるだけで何も答えない。それどころか、震える手をポケットに滑らせたまま、フォークの持ち主であるかのように振る舞う仕草すら見せない。
(何がどうなってるの?
でも、あのフォークを投げたのは……)
香澄の目は無意識に店内を見渡すが、すでに『狸の仮面をつけた男』はどこにもいなかった。
「ったく…」
香澄は最後に目の前のチンピラを殴り飛ばし、乱闘の終わりを告げるように静かに息をついた。同時に、蓮達が駆け寄ってくる。
しかし、彼女の頭の中には疑問が渦巻いていた。
以前にも助けてもらった、あの狸の仮面の男は一体誰なのか?
まるで嵐のように去っていったチンピラたち。 そして、謎の仮面の男。香澄は混乱しながらも、店内の損害を確認し、警察に連絡するよう店員に指示した。一方、立ち上がった亘は、自分が如何に奮戦したかを声を震わせながら熱弁するのだった。
「どうだった?」
帰宅した香澄を出迎えた父親が、落ち着いた口調で問いかける。
香澄はため息をつきながら、ソファに腰を下ろし、スカートの裾を軽く整えた。
「散々だったわ。相手、自慢話ばっかりで、何が言いたいのか全然分からないし」
父親は香澄の答えに特に驚いた様子もなく、静かに頷いた。
「そうか。じゃあ、こちらから断りを入れておこう」
その言葉に、香澄は思わず押し黙った。
(…あれだけ散々だったのに、なんで言葉が出てこないのよ、私。)
父親はそんな香澄の沈黙をじっと見つめ、少しだけ口元に笑みを浮かべたが、特に追及はしなかった。
「分かった。考えておけ」
そう言い残し、父親は部屋を出ていった。香澄はソファに深く沈み込むように座り直し、天井を見上げた。
(…妙に気になる。なんでだろう?)
学園の昼休み。佳奈に引っ張られる形で蓮は食堂にやってきた。佳奈はそのまま辺りを見渡している。蓮の隣には、長身の眼鏡をかけた前髪の長い少女がいた。口さがない連中ならハーレム要員が増えたと言いはやすところだろう。
「…蓮さん、あそこ!」
佳奈が指差した先には、亘が隅のテーブルで一人で食事をしている姿があった。そしてそのテーブルに、佳奈以外にも見慣れない眼鏡の少女と連れた蓮が近づいていく。
「おい、轟。ちょっと聞きたいんだけど」
突然声をかけられた亘は、食事の手を止めて不機嫌そうに顔を上げる。
「なんだよ、高橋」
蓮は机の上に片手を置き、興味深そうに亘を見下ろした。
「昨日、なんであんなことしたんだよ。お前、何か隠してるだろ?」
亘は一瞬だけ目を泳がせ、すぐにそっけなく答える。
「別に…頼まれたから仕方なくやっただけだよ」
「頼まれた?」
蓮が眉を上げると、亘は渋々と続けた。
「……篠原さんから五井の爺さんに話が行ったらしい。
で、爺さんが言ったんだ。お前みたいな奴でも何かしら見せ場を作れってな」
蓮は苦笑しながら、隣にいる眼鏡の少女をチラリと見た。
「でも、美人だったろ?
お前にしちゃ上出来の相手じゃないか」
亘は蓮の言葉に鼻で笑い、スプーンを置いた。
「美人だったよ。
男だったら絶対振り向くって感じだから、おまえのハーレムに入っていないのが不思議な位だ」
「誰がハーレムだ」
「まあ、好みで言えば……」と、眼鏡の少女をチラリと見ると軽く首を振る。
「まあなんだ。だからこそ釣り合わないんだよ、俺じゃ」
「ふーん。それで、お前から断るのか?」
蓮の問いに、亘は肩をすくめた。
「いや、さすがに不自然すぎるだろ。向こうから断ってくるだろうし、手間も省ける」
蓮は亘の答えに何かを考えるように頷きながら、そのまま会話を切り上げた。
夕暮れ時の学園裏庭。人目の少ないその場所で、香澄は亘を呼び出していた。亘は何となく嫌な予感を抱きながらも、香澄の前に立った。
「で、何の用、篠原さん?」
香澄はじっと亘を見つめた後、少しだけ首を傾げた後「あら、香澄って呼ばないの?」と一言告げた後なにも言わなくなる。
気まずい緊張感を伴った沈黙。
「昨日のことなんだけど、ボクが君を助けたんだぞ」
なにも言わない香澄に、亘は急に自信を持ったような声で言い放つ。
香澄は一瞬だけ目を細め、そして冷たく言い返した。
「で?」
その言葉に、亘は少しムキになりながら続ける。
「だから、ボクと付き合うべきだって言ってるんだよ!」
香澄は軽く溜息をつくと、何気ない動作でテーブルに置かれたフォークを掴み、それを軽く亘に向けて放った。フォークは亘の手元に収まる。
「そうね、助けてくれた人なら……」
香澄はそう呟くと同時に、テーブルナイフを手に取り、亘の目の前でそれを回した。そして次の瞬間――
「……正体を見せたら、狸さん」
ナイフを異能で超加速させた香澄が、それを亘に向かって放つ。ナイフは空気を切り裂きながら凄まじいスピードで飛び、まっすぐ亘に向かっていった。
しかし、そのナイフは突然減速し、空中で一度静止した後、地面に落ちた。
「ちぇっ…どこでばれたんだよ」
香澄はいつの間にか付けていた狐の仮面に手を当て、愉快そうに笑った。
「ようやく尻尾を掴んだわよ、狸さん。ちなみに、さっきの眼鏡ッ娘が私」
「ちぇっ、あのチンピラどものせいで。後、俺のときめきを返せ」
亘もまた、いつの間にか狸の仮面を顔につけ、苦々しげに言い返した。
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