異世界法廷の秩序創造者

やすたか

第0話 法律家への道

深夜の街は静まり返り、橘直人は小さな予備校の一室で参考書に向き合っていた。古びた机の上には六法全書が広げられ、マーカーで引かれた条文が鮮やかに光っている。目元にはクマが浮かび、長時間の勉強が続いていることが容易にわかる。


「ふう...。」


深く息を吐き出し、直人はペンを置いた。時計を見ると午前2時を回っている。明日の講義に備えて眠るべきだと思いながらも、彼の手は再び六法全書に伸びた。


「もう少しだけ...。」


直人の夢は弁護士になることだった。両親は一般的なサラリーマンと専業主婦で、決して裕福な家庭ではなかったが、正義感の強い彼は幼い頃から「人を助ける仕事」に憧れていた。


大学を卒業後、法律の勉強を本格的に始めるためにこの小さな予備校に通い始めた。試験に合格するまでの道のりは険しいが、それでも直人は諦めるつもりはなかった。


「法律は人を守るものだ。それを信じている限り、俺には進む理由がある。」


そんな信念を胸に、彼は日々の努力を続けていた。



その夜、直人はいつも通り勉強を終え、予備校を後にした。夜風が肌を撫でる中、自転車を漕ぎながら閑散とした街を進む。街灯の明かりがぼんやりと足元を照らし、彼の頭の中には民法の教科書の一節が巡っていた。


「所有権を有する者は自己の物を占有する他人に対し返還請求権を行使することができる。」


独り言のようにその内容を口ずさみながら、直人はふと前方の交差点に目を向けた。信号は青だ。確認を終えてそのまま進もうとした瞬間、彼の視界に異変が映った。


左側から猛スピードで迫る車。そのヘッドライトが直人を捉えた。


「危ない...!」


瞬間、直人は車を避けようとしたが間に合わなかった。強烈な衝撃が身体を襲い、視界が真っ白になる。


痛みを感じる暇もなく、直人は宙を舞った。身体が地面に叩きつけられ、意識が遠のいていく。耳元で誰かが叫んでいる声が聞こえるが、それも次第に遠ざかっていった。


「こんなところで終わるのか...?」


頭の中に浮かんだのは、これまでの努力の記憶だった。毎日遅くまで勉強し、夢を追いかけてきた日々。それが一瞬で途切れるのだと思うと、悔しさが胸を締め付けた。


「まだ...やり残したことがあるのに...。」


最後にそう呟いた直人の意識は、闇の中へと消えていった。

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