かわいいレジスタンス

歌川ピロシキ

夜間訓練が明けた朝

 藍色の闇が徐々に深いぶどう色に移りゆく中、ちらちらと白いものが舞っている。雪に覆われた山の斜面はうっすらと青い光に包まれているみたい。

 その辺の樹の陰から雪の妖精でも顔を出しそうな気がして、夜間訓練を終えたばかりの僕はゴーグルを額に押し上げた。そのまま軽く伸びをしながら朝陽を迎えようとしている空を見上げると、東の方から少しずつ白い光が広がって来るのが見える。


「ふわぁ、いつ見ても綺麗だねぇ」


 思わずほぅっと息をつくと、ぶどう色から瑠璃色に染まった空が、にじんだようにじわじわと明るさと赤味をおびてきた。うっすらと空を覆う雲が、端の方だけ淡いピンクに光っている。


「雪、だいぶ積もったね」


「ああ。朝飯の後に雪かきが必要だな、これは」


「う……雪はきれいだけど、雪かきは勘弁して欲しいかも」


 隣で同じように身体を伸ばしていた相棒グジムと顔を見合わせると、増えてしまった「余計な仕事」に軽くため息をついた。


 独裁政権に対して自由を求める市民の弾圧が内戦と化してもう10年近い。一日も早く自由で平和な国を築くため、僕たちレジスタンスは日夜訓練に励んでいる。

 罪のない人たちを守るための訓練ならばいくら厳しくても辛くはないけど、突発的に起きるこうした「雑用」はちょっと気が進まない。


「おい。二人ともたるんでないで、早く装備を片付けてこい」


「急がないと礼拝に遅れるぞ!」


 僕たちのそんな様子に先輩兄さんたちから声が飛んだ。慌ててサンゴ色に染まった雪を蹴立てて走り、宿舎に戻る。

 

 軽く装備を点検してロッカーに片付け、再び外に出るともう他のメンバーは勢ぞろい。


「こら、遅いぞ」


「「も、申し訳ありません!」」


 隊長父さんに軽く睨まれて思わず首をすくめるが、みんな苦笑いするだけでそれ以上とがめられることはなかった。


 礼拝後に軽く朝ごはんを食べたら、シャベルを持って訓練場に集合。山の斜面が空爆を受けて樹木ごとえぐられた場所に作られているため見晴らしがよく、標高800m近いここからも広々とした平原が見渡せる。

 指示を受けるとバディごとに訓練場のあちこちに散って、邪魔な雪を次々にどけていった。


「一番多く雪をかいた組には夕飯のパン一個追加するぞ!」


 隊長父さんの一声に思わず気合が入る。かなりたくさん雪を集めたつもりだけど、僅差でハディード兄さんとワジュド兄さんのバディに負けてしまった。


「悪く思うなよ」


「そうむくれるな。俺のを半分わけてやる」


 クールなハディード兄さんが珍しく勝ち誇ってるのでちょっぴり悔しい。思わずむくれていると、面倒見の良いワジュド兄さんがなぐさめてくれた。


「わぁ、兄さん大好き!」


「おい、ワジュド。お前、甘すぎるぞ」


 苦笑するハディード兄さんも「よく頑張ったな」と相棒グジムの肩を叩いてくれてる。

 何だかんだと優しい兄さんたちに、思いがけぬ「雑用」の疲れも吹き飛んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る