第27話 雲雀ヶ丘家毒ガス籠城事件 後編(Sisters' Howl Ⅴ)


 ここでもちょっと後になってから雛菜ちゃんに聞いた話で補足するけれど、雲雀ヶ丘茉奈が自宅での籠城を決行したあの前日の夜。雲雀ヶ丘茉奈が奈央ちゃんに対して行っていたことが父親にもバレたらしい。



『奈央ちゃんに対する私からの愛の印をいっぱいつけたの。今はまだ奈央ちゃんおねむみたいだけど、すぐに聞き分けのいい子になるから! そうしたら、奈央ちゃんは私のお嫁さんになるんだぁ』


 うっとりとした表情で語る雲雀ヶ丘茉奈。茉奈に比べると凡才の奈央ちゃんのことは眼中になかった父親は、奈央が服の下に受けていた数多くの痣や、従わせるために精神作用薬を何度も無理やり投与されていたことで意識が朦朧としていてぼろぼろになっていた奈央を見ても、雲雀ヶ丘茉奈を叱ることもなければ、注意することもなかった。ただ。


『茉奈、妹と結婚したいなんて言う幼子の冗談のようなことを本気で言ってるのか。それ、普通じゃないぞ』


とだけ漏らした。それは、普通の感性を持っている両親が自分の娘に『姉妹と結婚したい』なんて言われた時の当然の反応だったと思う。


 当時はようやく同性同士の結婚も法的に認められていたけれど、近親相姦は未だに法律上も認められていなかった。第一、子供の頃に「妹と結婚したい」というのは微笑ましい冗談で済ませられるが、成人間近の大学生が妹と結婚したいと本気で言ってるのだ。そんな反応をされても仕方のないところはあると思う。


 けれど、父親のこの言葉が、雲雀ヶ丘茉奈が異常としか言いようのない犯行に及ぶ最後のトリガーになってしまった。


 父親の言葉で雲雀ヶ丘茉奈は両親でさえ妹と婚約することを理解してくれないのだと考えた。そして両親に、そして社会に妹との結婚を認めさせるために両親と妹を人質に取り、自室で調合していた多量のガス兵器とドイツ製の拳銃・P230、そしてサバイバルナイフで武装し、自宅に立てこもったのだ。



 彼女はもう相当にどうかしていたようで、自ら警察を煽るような通報をした。警察は相手が毒ガス兵器を持っておりその隣室への拡散を警戒して突入するに突入できないでいた。


 その時。今度は周辺の電波をジャックし、配信サイトで犯行の現場を中継しだしたのだった。中継では、リビングらしいところで椅子にロープでぐるぐるに縛りつけられ、猿ぐつわを噛ませられた奈央ちゃん・奈央ちゃんの父親・母親が映し出されていた。今日の奈央ちゃんは、明らかに奈央ちゃん自身のセンスとは思えない、ふりふりの純白の姫ドレスを着せられていた。そして奈央ちゃんの隣には、大きなドラム缶に背中を預け、拳銃を弄ぶ雲雀ヶ丘茉奈の姿があった。


「はーい、姉妹の麗しき愛を認められない愚民の皆さん、見てますぅ? 拳銃だけだと私が本気だっていうことが伝わらないと思うのでぇ、見せしめとしてお父さんを殺しちゃいたいと思います!」


 雲雀ヶ丘茉奈の言葉に真っ青になる奈央ちゃんの父親。けれど、猿轡をかませられているから、口から漏れ出た声は意味をなさない。


「あ、不用意に突入しないでくださいね? そんなことしたら、この毒ガスをマンション全体に充満させちゃいますから。私の望みはたった2つだけ! この国を、姉妹同士が結ばれることをみんなが祝福できる国にすること! そしてもう一つは――」


 そこで拳銃の冷たい銃口が奈央ちゃんの首筋に突き付けられる。奈央ちゃんの表情は恐怖で引き攣っていた。


「私のかわいいかわいいい奈央ちゃんに私の愛を受け入れてもらうこと! 奈央ちゃん、私の愛を受け入れてくれる気になったかな? お口を開けさせてあげるから、今お返事を聞かせてね」


 猫なで声でそう言ったかと思うと、雲雀ヶ丘茉奈は奈央ちゃんのさるぐつわを外す。けれど奈央ちゃんは恐怖のため唇が痙攣しちゃってるのか、上手くしゃべれないようだった。そんな奈央ちゃんを見て雲雀ヶ丘茉奈は哀しそうに目を伏せたかと思うと。


「残念! みんなに見られている前だと奈央ちゃんは恥ずかしくって私の愛を受け入れられないのかな? もうっ、奈央ちゃんったらシャイなんだから。でも、そんなところもかわいいよ。でも――素直な気持ちを表に出せるように、お注射しよっか」


 次の瞬間。奈央ちゃんのほっそりとした腕に極太の注射が突き刺さり、妖しい紫色の薬物が投与されていく。


「うっ、うぁぁぁぁ―――――――――――――――――」


 薬物の苦痛に顔を歪める奈央ちゃん。その奈央ちゃんの苦痛の叫び声は聞いていられなくて、わたしは思わず両耳を塞いじゃった。


 そして。薬品を投与されると奈央ちゃんの腕はだらん、と垂れ下がり、口を半開きにする。その目の焦点は定まっていない。そのあまりの酷さにわたしはその場に嘔吐してしまう。


 けれど。妹をそんな状態にしておきながら、当の雲雀ヶ丘茉奈はきょとんとした表情をしていて


「あ、壊れちゃった。まあ1時間後には薬の効果で素直で従順な奈央ちゃんがまた出てきてくれるはずだから、答えはその時に、みんなと一緒に聞きましょうね~」


なんて言ってくる。



 はっきり言って何もかもめちゃくちゃだ。そもそも交渉になってないし、普通の神経をしている人が、しかも最愛の妹に対してできる行為を優に超えている。


 そんな雲雀ヶ丘茉奈異常者は思い出したように


「あっ、そう言えばお父さんの公開処刑をお預けにしちゃったままでしたねぇ。たいっへん、お待たせしました! 本気の私を見せつけるため、今から、お父さんのことを公開処刑していきたいと思いますっ! お父さんはなんと、私達のお父さんなのに、私と奈央ちゃんの結婚を応援してくれなかったのです! 私達のことを異常だとか言って。私達の相性がどれだけいいかをずっと傍で見てきて知っているはずなのに! ありえませんよねー。だから、問答無用で死刑です。私の専攻は医学じゃなくて薬学なので、人の解剖はあんまり得意じゃないから見苦しいかもしれませんけれど、頑張るので応援よろしくお願いしますねー」


 それからは地獄絵図だった。


 奈央ちゃんの父親はサバイバルナイフで腕ごと衣服を切り落として上半身裸にされたかと思うと、お腹をサバイバルナイフで大きくえぐられ、そこでさるぐるわを外され、断末魔の悲鳴を上げる中、めった刺しにされていった。


 それから暫くして母親も雲雀ヶ丘茉奈悪魔の手の内に落ちた。彼女の死は父親よりももっと悲惨だった。めった刺しにした後、茉奈は死に掛けの母親の身体を成長した奈央ちゃんになぞらえて性交に及び出したのだ。そして母親は絶頂する中で最後の体力を失い、その場でぐったりとなったかと思うと、それ以上動かなくなった。それは、いろいろな意味で小学生に見せていい現場ではなかった。



 それから10分後。マンションの近隣の部屋の住民の避難を完了した実働部隊は雲雀ヶ丘茉奈が毒ガス兵器を使用すること覚悟で雲雀ヶ丘家への突入を敢行。逆上した雲雀ヶ丘茉奈は毒ガス兵器のノズルを少し開けかけたものの、少量しか飛散していない状況で毒ガス兵器は化学防護隊員によって差し押さえられ、マンションの他の部屋にまでガス汚染が広がることはギリギリのところで回避された。


 そして突入を受けた雲雀ヶ丘茉奈は機動隊にサバイバルナイフと拳銃で抵抗してきたが、機動隊によってこめかみを打ち抜かれ、無力化された。


 そして――――2名の被害者と首謀者の3名の死亡という最悪の結末で、雲雀ヶ丘家毒ガス籠城事件と後に呼ばれる事件は収束したのだった。そして、事件の唯一の生存者として、雲雀ヶ丘茉奈の妹・奈央ちゃんは機動隊によって保護されることとなった。

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