第4話 ノーパン下校、してみようか


 奈央ちゃんから奴隷契約を持ちかけられた日の夜。ベッドが使えなくなっちゃった奈央ちゃんは、わたしと同衾することになった。


 こんな状況で奈央ちゃんは何をしてくるんだろう、と内心はらはらしていた。けれど結局、その後の奈央ちゃんは奴隷契約を持ち掛けたのが嘘のように奈央ちゃんはいつも通りで、ちょっと拍子抜けしてしまった。


 まあ姉妹で一緒のベッドで寝るなんて、今回はちょっと久しぶりだったけれど珍しいことじゃないし、奈央ちゃんは別にわたしのことを女の子として意識してるわけじゃない。考えてみれば、同衾したからって何かが起きるわけじゃないのは当たり前……。


「って、わたし、奈央ちゃんに何かされるのを期待してたみたいじゃん⁉ べ、別にそんなんじゃないんだからね!」


 朝から思わず叫んでしまったわたしに


「むにゃむにゃ……お姉ちゃん、朝からうるさいよ」


眠そうに眼をこすっている奈央ちゃんにそう言われて、わたしは頬が熱くなる。


 ——奈央ちゃんも今朝は同じ部屋にいること、すっかり忘れてた!



◇◇◇



 そして登校中も奈央ちゃんはいたっていつも通りで、休み時間の合間にわたしの教室に突撃してくる……みたいなこともなかった。だから、だんだんと昨日の『奴隷契約』自体、なにかの間違いだったんだ、と思うようになっていった。


 そして迎えた放課後。新体操部の今日の練習を終えたわたしは帰り際、体育館の更衣室でばったりと奈央ちゃんと2人きりになった。奈央ちゃんはバスケ部の練習着から制服に着替えていて、奈央ちゃんもちょうど帰るところみたい。


 部活終わりて首筋にうっすらと汗が浮いてる制服姿の奈央ちゃんは、いつもの愛らしさと同時に、何とも言えない艶めかしさすら感じさせる。


「あっ、奈央ちゃん! 女バスも、もう練習終わり?」


「うん。お姉ちゃんも今帰るとこだよね。それなら、一緒に帰らない?」


「やった!」


 奈央ちゃんの提案に、わたしは小さくガッツポーズしちゃう。新体操部とバスケ部は練習時間が微妙に違う日が多いから、奈央ちゃんと帰れるなんてラッキー! と、その時だった。


「でも、ただ帰るのはつまらないから……」


 壁の鏡面に映る奈央ちゃんの口元が歪む。そんな奈央ちゃんの表情に、わたしの背筋に悪寒が走る。わたしはその奈央ちゃんの表情に見覚えがあった。そうそれは、昨日わたしにお漏らしをさせた時と同じ表情だった。そして。


「お姉ちゃん、パンツ脱いで」


にやり、と笑いながら言ってくる奈央ちゃんにわたしは一瞬言葉を詰まらせる。


「ど、どういうこと……?」


「文字通りの意味。お姉ちゃんが今はいてるパンツを脱いで、あたしに渡して」


「今からお家に帰るのに……?」


「今から帰るからだよ。今日はお姉ちゃんに、パンツをはかないで下校してもらおうかな、って」


 奈央ちゃんの明らかに普通じゃない提案に、わたしは息を飲む。


「そ、そんなこと恥ずかしくてできないよ! それに、誰かにみつかりでもしたら……」


 わたしの震える言葉に奈央ちゃんは楽しそうに


「大変なことになっちゃうね。お姉ちゃんは立派な痴女になっちゃうよ。だから、スカートがめくれて気づかれないように、慎重に下校しないといけないね」


なんて言ってくる。


「そ、それがわかってるなら!」


「これはご主人さまから奴隷に対する『命令』だよ、お姉ちゃん」


 奈央ちゃんにぴしゃり、と言われて、わたしは口を噤んちゃう。『奴隷』、その言葉を持ち出されるとなぜか従順になってしまう自分がいる。そんなわたしの耳元に口を近づけて、奈央ちゃんは


「お姉ちゃんはあたしの『奴隷』になってくれるんだよね?」


と、ダメ押しのように囁いてくる。それを言われたら、今のわたしに拒否権なんてなかった。


「……はい」


 観念してはいている下着を脱いで二つ折りにして奈央ちゃんに渡すと


「うん。お姉ちゃんは聞き分けがいい従順な奴隷だね」


奈央ちゃんは満足そうな笑みを浮かべて受け取り、制服のポケットにパンツを入れる。かくして、30分間のわたしのノーパン下校が始まっちゃった……。




 たった1枚の布切れとはいえ、普段あるものがないとやっぱり気持ち悪い。スカートの下から入り込んでくる外気が直に女の子の大切なところに入り込んできて、すーすーして、気持ち悪い。そして心なしか、電車の揺れもいつもよりも敏感に大切なところに伝わってくる気がする。


「うう、奈央ちゃん。次の駅でいったん降りて、おトイレでパンツを履かせてよぉ」


 奈央ちゃんの小さな胸に顔を埋めながら、奈央ちゃんにしか聞こえないように小声で訴える。けれど奈央ちゃんはこの状況を楽しんでいるような笑みを浮かべたまま、「だ~め!」の1点張り。


「恥ずかしそうにしているお姉ちゃん、すっごくかわいいよ。あと3駅だから、頑張って。お姉ちゃんなら、きっとできる」


「全然フォローになってないよぉ」


「それにノーパン健康法っていうのもあるし。新体操の演技もより洗練されるかもよ」


「それ、全然流行らなかった奴じゃん……」


 そんなしょうもない会話をしながらも、電車はお家の最寄り駅につく。改札から出ると、わたしはスカートが絶対にめくれないように手で押さえながら、知り合いにすれ違わないことだけを祈って自宅への帰途を急いだ。道中、運よく知り合いにすれ違うことはなかった。



 そして。何十時間にも思われた30分間の帰り道を終えた時。わたしは疲れすぎて玄関に倒れこんじゃった。か、帰ってくるのだけでこんなに疲れることがあるなんて思ってもみなかった……。


 ——でも、誰ともすれ違わなくてちょっと残念だったな。


 ふと頭を過った自分の考えにはっとする。えっ、今、わたしは何を考えちゃってた……?


 と、その時。


「お姉ちゃんお疲れ~。あたしも道中、お姉ちゃんの痴女プレイが誰かに見られないかドキドキのしっぱなしだったよ。でも、無事にお姉ちゃんが変態なところはあたしだけが知ってる状態が保てて良かったぁ」


奈央ちゃんはわたしにペットボトルのお茶と、わたしがさっき脱いだ下着を差し出してくる。ノーパンを強いてきた奈央ちゃんが何を言ってるんだ、と思わなくもないけれど、今はそんな反論をする気力もない。けれど


「でもお姉ちゃんも、心の奥底ではこの状況を楽しんでいたでしょ」


「えっ」


 奈央ちゃんの想いも寄らない言葉にわたしが聞き返すと。奈央ちゃんはいつの間に撮影したのか、下校中のわたしの写真を見せてくる。スマホの画面に映るわたしは、なぜかにやけてた。


「えっ、わたし、またこんな恥ずかしいことをして感じちゃってたの? ——って、違うから! こんな恥ずかしいことをして興奮してたとかないから!」


 ぽかぽかと奈央ちゃんのことを叩くわたしに奈央ちゃんは


「はいはい。口は素直じゃないお姉ちゃんも、可愛くて好きだよ。ま、そんなお姉ちゃんのお口も、いつかは素直にさせたいなぁ、と思うけど」


と、また意地悪な笑みを浮かべながらわたしの唇を人差し指でなぞってくる。


 そんな奈央ちゃんにわたしは焦燥感を強める。この状況はいよいよまずいかも、って。

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