第23話 暗躍する8領主達

 古びた民家の地下室。そこに設けられた円卓を、八つの影が囲んでいた。

 灯るのはわずかなランプの明かり。空気は重く、息苦しいほどの沈黙が満ちている。


 ライス領のライス卿、ディスドン領のディスドン卿、バラガス卿、テイマド卿、バフム卿、フィグル卿、マール卿、そしてデストニア卿――。


 この場にいないのは、12の領地を束ねる国王バルバッサ。そして、崩壊したギャロフ、フォボメット、そして今もっとも注目されている男――ライクド領の若き領主、ガルフ。


「皆様、お集まりいただき感謝いたします」


 黒衣の人物が一礼し、静かに名を告げた。


「我が名は……死神ジニア」


 場の空気が一変した。全員が、息をのむ。


「ジニア……その名、聞いたことがある」


 ライス卿が目を細める。


「……だが、そのローブを外してもらえぬか」

「かまわん。ただし――顔を見たら、死ぬぞ?」

「なに?」

「暗黒大地の病魔地帯に飛ばされ、呪いを受けた。その代償だ。すべてを……ガルフに奪われた代償でもある」


 その言葉と共に、ジニアの足元から闇が溢れ出す。

 それは炎のように揺らめく黒の霧となり、ライス卿の足を絡め取った。


「ひ、ひぃ……っ!」

「私の顔を見る覚悟があるのか?」


 ジニアの声音は冷たい氷のようだった。


「……すまん、続けてくれ。君が……ハルガドの後見人だったか?」

「そうだ。この指輪がその証だ」


 ジニアはそっと、火炎侯爵の紋章が刻まれた指輪を円卓の中央に置いた。

 ディスドン卿がそれを確認し、頷く。


「本物だ。確かに侯爵の印」

「話を進めよう。今、オークションが開かれようとしている。各地の富豪、兵士、冒険者が一堂に会する絶好の機会だ。彼らに紛れて、“選ばれし八人”が、ガルフの命を刈り取る――」

「無謀にも見えるが、なるほど、理にかなっている」


 テイマド卿が唸る。


「奴は確かに強い。ゴブリンキングを討伐し、邪神卿の陰謀を潰し、蛮人王カザロすら従えた……」

「だが、奴にも隙はある」


 ジニアの声が闇を纏って響く。「武器を持たぬ時が、最大の好機」


「して、その“選ばれし八人”とは?」


 マール卿が問う。


「それは後ほど知ることになる。今は――運命の日に備えよ」


 そして、彼は言い放った。


「すべては、ガルフの命日として記憶されるだろう」


★ 集結 ★

 オークション当日。

 ガルフ領主邸には、かつてないほどの人々が集っていた。

 森の女王・パトロシア。覇王を討ち取った少年・アーザー。

 炎のダンジョンを目指すミヤモトと5人の元パーティー追放者。

 食べられる鉱石を発見したドワーフのアキレスドン。

 領地を復興させたウィンダム。そして、戦鬼の二人――クウゴロウとロイガルド。

 本に埋もれる賢者ババス、そして聖女ジーラ、賢者ナタリー、メイド長ゼーニャもそばに控えている。

 勇者の剣、神の墓場、生きた図書館……数々のS級施設がすでに領地に建造済みだった。


「さて、行こうか」


 ガルフは立ち上がり、オークション会場――自由市場の台座へ向かう。


 宰相タカオの声が高らかに響いた。


「皆さま、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。これより、ガルフ領特別オークションを開始いたします!」


 次々に登場する伝説級の品々。

 そのひとつひとつに、鑑定スキル持ちでも驚嘆する価値があった。

 会場は熱気に包まれ、叫び、札束が飛び交う。


 ――だがその時。


「退屈だな……暴動でも起きねぇか」


 ガルフがぼそりと呟く。


「不穏なこと言わないでください、ガルフ様」


 ゼーニャがぴしゃりと釘を刺す。

 五時間が経過し、トイレ休憩に立った女性陣と執事長。

 会場には、8人の“伝説”だけが残された。

 そして、宰相タカオが宣言する。


「これが……最後の品です!」


 その瞬間だった。

 ――矢が、闇より放たれた。

 闇の矢がガルフの頭部を貫こうとした刹那、それを片手で受け止めたのは、アーザー。


「おいおい、物騒すぎるだろ」

「助かった」


 ガルフが剣を異空間から召喚する。剣が、ガルフの手に応えるように現れた。

 だが次の瞬間――闇の爆発。黒炎がガルフを飲み込んだ。


「召喚陣だ……闇の召喚か!」

 地面から伸びる無数の闇の手。

 ガルフはそのまま、闇の中へと引きずり込まれていった。


★闇の深淵


 重い空気。暗黒の空間。

 闇に包まれたガルフの前に現れたのは、ジニア。


「久しぶりだな、ガルフ」

「……ハルガドじゃないか」

「今の名はジニアだ。死神との契約を結んだ身よ」

「そうか。らしいな」

「お前の配下は皆殺しにした」

「それは無理だと思うよ」

「なぜだ?」

「……だって、あいつら、俺より強いから」


 その時。空間が裂け、8人の伝説が現れた。


「遅くなりました、ガルフ様」


 ゼーニャが微笑む。


「……え、何が起きてるんだ?」


 ガルフだけが、計画の全貌を知らなかった。

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