第22話 ガルフ領主消失
「緊急事態が発生しました!」
ゼーニャ・メイド長の叫びが、領主屋敷の応接室に響き渡る。慌てて駆けつけたのは、老執事リンデンバルク。そして続くように、聖女ジーラ、賢者ナタリー、騎士団長オメガバッシュが次々と顔を揃える。
そして――
「わたくしの夫がいなくなりましたの!」
「いや、まだ結婚してないだろ!」
リンデンバルクの鋭いツッコミが炸裂する。
「……ともかく」
賢者ナタリーが落ち着いた声で口を開いた。
「ガルフ様が突如として姿を消し、その後の足取りが複数の領地で確認されております」
「確認……というと?」
オメガバッシュが腕を組みながら尋ねる。
「まず、ライス領地でゴブリンキングを討伐したという噂が……」
「ディスドン領地では、邪神教の陰謀を暴いたとの報告がございます」
「他にも、バラガス、テイマド、バフムの三領地では、小競り合いを“独力で解決”されたと」
「いや、解決というか……全員皆殺しにしたって話もありますけどね」
ジーラが軽く肩をすくめて言った。
「フィグル、マール、デストニア、ウィンドルクの各地では、冒険者に扮して蛮人王カザロを下僕にしたという話も……」
その場の全員が、顔を見合わせて言葉を失う。
「それら全ての領地にて、“数日後にオークションを開催するから来い”と告げて回ったそうです」
「しかも……これらをたった二日でやり遂げたとか」
完全なる、沈黙。
全員の脳内に「なんだコイツ……」という共通認識が走った、その瞬間――
「やぁ、みんな。なんか集まってる?」
ふらりとガルフ・ライクド本人が戻ってきた。
「い、いつ戻られたのですか!?」
ゼーニャが目を見開く。
「ついさっきだよ。お土産あるからね。蛮人王カザロが“兄貴ー!”ってうるさくてさ、しばらく付き合わせてた」
「兄貴ーっ! まってくだせえええええええ!!」
ドタドタと音を立てて、屋敷の扉が開く。現れたのは、2メートルを超える巨漢の男。剃り上げたスキンヘッドに青のタトゥー、まさに蛮人の王たる風格をまとっていた。
「兄貴、彼女たちが舎弟っすね?」
「いや、違う。まだ結婚してないが、奥さん候補が三名だ」
「すげーっす、兄貴……もう女が三人も……」
「おいおい、変な勘違いするな。……まぁ、否定はしないが」
「んで、兄貴への献上品っすけど。こちとら1億金貨、持ってきましたぜ!」
その場が凍りついた。
ゼーニャが二度見。ガルフ自身も、思わずカザロを二度見していた。
「く、くそおおおおおおおおおお……!」
床に崩れ落ちるガルフ。
「え、ええ? 兄貴、金貨が嫌いだったんすか? じゃあ埋めましょうか?」
「待て待て! そうじゃない! いや、むしろ嬉しいんだけど……努力の方向性が間違ってた気がしてな」
「一応、事情はあとで説明する。金貨はオメガバッシュ団長に渡してくれ」
「了解でっす、姉御一号!」
「……しかと受け取りました。国王陛下に直ちにお届けいたします!」
オメガバッシュは一礼すると、部下を連れてその場を後にした。
ガルフは、うずくまったまま地面を睨んでいた。
「俺の……俺の努力が水の泡……!」
「まぁ、いいじゃないですか」
ジーラが苦笑する。
「ガルフ様の実力で解決したんですから。自由市場の構想、ほぼ意味がなくなっちゃいましたけど」
「……いいや、意味はあるさ」
ガルフが顔を上げる。
「これからも金貨が必要になるかもしれん。自由市場はその土台だ」
「……失敗は成功の元って言いますけど、ガルフ様って失敗すら成功にしてません?」
「そう思うだろ? でもまだ足りん。明日、オークションを開催する!」
「全員、準備しておけ! 場所は自由市場の中央だ。参加者はとてつもない数になるぞ!」
そのとき、颯爽と現れたのは、元詐欺師にして現・宰相のタカオ・レイオ。
「情報の流通、完璧に仕上げました! 計略、全て成功にございます!」
「よし、タカオ。今度は100億金貨稼ぐぞ」
「御意にございます! ……って、あれ? オメガバッシュ団長は?」
「もう帰ったぞ? 1億金貨揃っちゃったから」
「は、はい……!?」
「だから、今度は俺たちで100億金貨稼いで、潤おうぜ」
「この蛮人王カザロも付き従いますぜ、兄貴!」
こうして、次なる騒動の幕が、またしても上がるのであった。
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