第17話 よし!? 聞いてないけど成功だ

 ガルフ達がフォボメット領地に辿り着いた時。

 鉱山発掘で栄えた街は廃墟と化していた。

 家々から燃え盛る炎。

 幾多の兵士達の死骸。

 烏が死体をついばみ。

 何もかも魔王に蹂躙された後であった。


「ぐうううう、我が領地がああああああ」


 ハルガド・フォボメットが血のような涙を流している。

 インテリメガネなのに優男で、人を食ったような顔をしているのに。

 その時の彼を美しいと思ったのはガルフだけではないようだ。


「ハルガド様……」


 賢者ナタリーもその1人のようだ。

 メッサー将軍がもはや茫然自失になっている。


 兵士の亡骸、だが、数名が生きている。

 虫の息になりながらも、一生懸命何かを指そうとしている。


 ガルフは街の真ん中にやってきた。

 それは皆も同じだ。

 兵士達が指さすのは真ん中にある噴水だ。


 噴水には1人の男が腰かけている。

 麦わら帽子、黒色のコート、目は深い青色。

 

「やぁ~約束通り魔王の街を滅ぼしたよ~」


 その場の全員が唖然としていた。

 いや、それはガルフも同じであった。 

 全員が何事?

 という顔で。


「だから、ここが魔王の街なんでしょ、ガルフ様~」

「な、んだと、どういう事だ。ガルフ!」


「あ、あいつが、まお、魔王です。何かのアイテムなのか、モンスターが消えました、ぐは」


 そう言い残して、兵士が力尽きた。


「おのれえええ、謀ったなあああガルフ!」


「は?」


 現在ガルフの頭の中が真っ白になった。

 いや、そりゃそうでしょ、意味が分からないから。

 無能呼ばわりされてきて、今自分自身が無能だよと思わざるおえないよ。


「いやーえーと、んーと、えーと、よくやった。よし!? 聞いてないけど成功だ。えと何がだ?」


「おのれえええええええええ、ガルフうううううう」


「落ち着いてください、ハルガド様、今ここで刃向えば全員死にます」


「知るか、我がハーレムが、全滅じゃないか、我が領地が。これでは大陸統一なんて無理だ」


「ハルガド様今それどころじゃなくて、命が危なく、魔王があいつだとしたら、魔王の上司たるガルフ様は魔王より遥かに凄い事に……」


「えーと、俺は凄くないよ? 皆無能って言うでしょ?」


「どこまで猫をかぶってるつもりですか、ガルフ様、あなたはあなたと言う人は、どこまで恐ろしい人なのですか」


「いえ、普通に魔王討伐しに来た善良なる国民ですが」


「その知恵と武勇、もはや魔王。いや勇者なのか、やってる事は極悪人だぞ」


 ハルガドがさらなる血のような涙を流す。


「賢者ナタリーあいつをあいつを殺せええええええ、お前は俺の部下だろうがよおおお」


「あ、無理です」


「諦めるのはええええええ」


 賢者ナタリーが普通にハルガドを振った。


 ハルガド・フォボメットは腰から剣を抜き放つ。


「こうなったら我が剣で、火炎侯爵より授かったスキル。爆炎演技でええええええ」


 剣から炎が迸る。

 それは空を穿つ大剣へとなり。


「うらあああああああ」


「あ、ハルガド様、炎は効きません」


「るうさいいいいいい」


 炎の大剣が地面に落下する。

 それをただ眺めているだけのガルフ。

 正確には頭が真っ白すぎて、何を考えて良いか分からず。

 動けなかったのだが。

 炎の大剣がガルフに直撃した。

 地面が爆発し。自らの領地をさらなる廃墟と化し。


 ガルフ・ライクドはただ茫然と立っていた。

 頭にたんこぶをつくりながら。


「ば、化物だ。こんな奴が人間で良いのかああああ、これは国王に直訴せねば」


「いったああああ、もうさ、お前殺すよ」


「はへ」


 その時、ガルフの手には剣が握られていた。

 父親から授かった大事な剣。


「なぁ、おめーるうせーわ」


「ハルガド様逃げてくだされ」


「メッサー将軍!」


 その時、メッサー将軍の体が真っ二つになり落下する。


「あーあ殺しちゃった。次お前ね」


「ひ、ひいいいいいい」


「これが、わ、わしの最後のスキル。テレポーテーション」


 どうやらメッサー将軍のスキルはテレポーテーション。


「まずい、皆、ハルガドを殺して」


 ゼーニャメイド長が叫ぶのと同時に。

 ドワーフ族のアキレスドン。

 三つ目族のロイガルド。

 2人が高速で動いたのと、叫びまくるハルガドが消滅するのは同時。


 ガルフが剣を鞘に納める。


「あーどうしようかな、これ非常にまずいよね」


 いつもの無能領主に切替わると。


「まぁ、なんとかなるんじゃね~」


「クウゴロウお前のやらかした失態だぞ」


 ロイガルドがちゃんと叱るのだが。


「まぁ、どうせ、いつかは取る予定だったんでしょ? ガルフ様」


「まぁ、そのつもりはあったけど、めんどくさかったんだよ」


「ワタクシは元々、ハルガド様に雇われていました。彼はあなたを殺すつもりだったんです。ライクド領地も奪うつもりで」


「そうなんだ」


「もう、ハルガド様は終わりですね、この賢者ナタリーあなた様に忠誠を誓います」


「いや、いらないよ、友達でいいからさ」


「え」


「魔法教えてくれよ、それで友達だろ」


「えーと、良いんですか? 殺そうとして、実際死んでますよね、生き返った原理は知りませんが」

「まぁ、そういう事もあるさ。さてと、クウゴロウ、この領地の民はどこだ?」


「え~と、まさか皆殺しにしろって、言うんじゃないよね~」


「まさか、俺を何だと思ってるんだ」


「いや~あなた豹変するからなんとも~」


「まぁ、良いけど、彼等をここに呼んでくれ」


「それなら、このリンデンバルクにお任せあれ、ラッサー将軍とは知り合いでして、メッサー将軍の後釜なんて言われてる人ですから」


「将軍ならこの領地を守って死ぬんじゃ?」


「いえ、あいつは逃げてばかりなので、命があぶなくなったら即座に逃げるまたは撤退するはずです」


「一部の兵士は逃げたよ、でも将軍らしき人は~残ってたかな、殺しきれなかったが正しいね~モンスターの攻撃を避け続けて、最後は吹っ飛ばしたよ~森の方に、あれは運に恵まれてる人特有の奇跡だね」


「ぜひとも配下にしたいな」


「出来るかな~魔王が滅ぼした事になってるから」


「こういう時、ババスさんなら良い事教えてくれそう」


「世界樹の酒で繋がってるんですから、聞いたらどうです~」


「そうだな」


 それから10分ほどババスとの会話を終えると。

 それは世界樹の酒で繋がってる人達全員に伝わり。


「よし、魔王の姿が見られていないので、この領地は魔王に滅ぼされ、その魔王はこのガルフが討ち取った事にする!」


「それでいきましょ」


「真実を知っている者はハルガドだけだが、1人が何と言おうともはや意味なし!」


「ガルフ様、あなたと言う人は、とても賢くなられた」


「いや、ただの言われた通りにしてる傀儡領主そのものじゃがな」

 

 アキレスドンが告げる。


「そじゃ、この山岳地帯、物凄い鉱石の香りがする。これは食べられる鉱石だな」

「そんなものがあるのか」


「だから、採掘しよう、ゴレを召喚しよう、タダ。準備に時間がかかるのじゃ。それにこれだけ死体と廃墟があればリサイクルできるじゃろ? さらに、ウィンダムを呼んで建物を建設しちゃえば、発展するじゃろうし、喜ばれるじゃろう」


「これで、ガルフ様の株があがりますね」


 賢者ナタリーが呟く。


 ガルフ・ライクドは何もかも勘違いして1つの領主を滅ぼす事に成功した。

 そうして、資源を奪い、領地を拡大しさらに民からの信頼を獲得する事に。

 成功した?


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