第6話 ジンネ・ギャロフ領主の横暴

 ジンネ・ギャロフ領主は怒りを露わにしていた。


「なぜ、あいつの領地に世界樹が突如生えるというのだ。それに報告だと瞬く間に領地が発展して言っている話じゃないか」


 ジンネはいつものうのうと生きているガルフの事が気にくわなかった。

 なにより、ゼーニャメイド長を従えているのも気にくわない。


 ジンネはハーレムを作り上げる事に余念がなかった。

 その候補に美女のゼーニャがいた。

  

 だが、ゼーニャは多額のお金を突き付けられても、首を縦に振らず、あまつさえ顔面を蹴り上げてきたのだ。


 ゼーニャをわが物にする。

 それがジンネの野望であるが、奥方であるフルスはあまり面白く思っていない。


「そんな事は関係ない、ゼーニャを手に入れるぞ、そして世界樹もだ」


 かくして、バルバッサ国王が決めた。

 欲しいものは領地戦争で手に入れよという国命の元。

 戦争を始めようとしていた。


 ウィンドルク国では12の領地がある。

 その領地間の戦争は許されている。


 ただし、ウィンドルク領地に歯向かう物あれば、容赦しないというのも国王の国命でもある。


「軍勢は1000人の歩兵、300人の騎兵、200人の弓兵、セオリー通りだ。油断はしない、ガルフは超人と言っても良いほどの強さなのだからな、グロルバ将軍、その手でガルフを討ち取れ」


「承知しました、ジンネ・ギャロフ様」


 グロルバ将軍が唯一、ガルフ領主を打ち取れる可能性がある。


「くっはっはっは、見えてきたぞ」


 かくして、リンデンバルク執事長とグロルバ将軍が会話をして、後はガルフ領主がたかだが数人を引き連れて戻ってくる。そう思っていたら、たかだが5人だけでやってきたではないか。


 見たこともない衣装を身に着けた男2人に、執事長にゼーニャメイド長。


 ジンネは黄金色の鎧を見に纏い。

 颯爽と馬に乗りながら、そこに向かう。


「おい、ガルフ、負けを認めて、ゼーニャと世界樹をよこせ」


「いや、無理だろ」


「は?」


「たかだか、1500人で俺達を止められる訳がない」


「お前、相当バカになったのか?」


「いや、それはお前だジンネ・ギャロフ、この戦争に勝ったらお前の首を切って、領地を奪わせてもらう」


「バーカバーカ、者共、かかれえええええ」


 騎馬隊が突っ込んでいく。


 ガルフは剣を引き抜くなり、顔が正気を失った。

 両隣にいる男2人も笑い声をあげた。


 一瞬にして、何が起きたのか理解出来ぬうちに。

 200人の騎馬隊は馬から落馬した。


 少年のような男が巨大な大剣を振り回して、兵士達を殺すのではなく、腕やら足やらを両断して致命傷を負わせているだけだった。


 圧倒的なパワー。


 一方で異世界風の侍男は刀と呼ばれる、異世界の武器を使っているようだが。


「ちょっとまてえええええええ、あれは異世界人か」


 だが、ジンネが気づいた時よりも、侍男が跳躍したスピードの方が速く。


 落馬した兵士の首がずるりと落下していく。

 こちらは問答無用で殺しにかかっている。


 ガルフとリンデンバルクとゼーニャは最強な冒険者パーティーさながら陣を組みながら、1人また1人と兵士を殺しつくしている。


「ぎゃははは、おもしれーおもしれー」


 剣を鈍器のように使って、兵士の頭を勝ち割っているガルフ。

 噂には聞いていたが、いつも大人しかったのに武器を握ると別人になってしまう。

 

「あまり暴れなさるな、ガルフ様」


 ダークエルフ族のリンデンバルクはレイピアを繰り出していたが。

 レイピアが変形して2本のシミターになる。

 シミターとは円月刀と呼ばれても良いほど似ているが。

 

 高速で繰り出す2本のシミターにより兵士の首がずるりずるりと落下する。


「ぜ、ゼーニャはどこだ」


「ここだ。変態男」


 一瞬の隙。

 だが、グロルバ将軍が斧を振り回して、ゼーニャのジンネ暗殺を未然に防ぐ。


「助かる、グロルバ将軍」


「任されい」


 ゼーニャがバク転さながら何度も回転して兵士の死体の上を跳躍していく。


 ジンネが一瞬死にかけた時。

 視線を兵士達からそらしていた。

 視線を兵士達にまた向けると。


 全ての兵士達が這いつくばって動けなくなっている。


 あの少年が致命傷を負わせて動けなくなっている兵士を。

 ガルフは問答無用とばかりに、剣で止めを刺している。


「がははははあ、戦争とは最高だなああああ」


「く、くるってる」


 たった5人に一瞬で1500人が殺された。


「に、逃げる」


「逃がすかジンネ・ギャロフ」


 馬が吹き飛んだ。


 ジンネは馬から落馬して転がる。

 次にグロルバ将軍の首が上から降ってきた。


「ひいいいいいいいいい」


「なぁ、ジンネ・ギャロフ、お前バカだなああああ」


「た、たす」


 最後まで言わさず、ガルフは剣でジンネの首を両断していた。


 

 ジンネ・ギャロフ領主が納めているギャロフ領地では、奥方のフルスが腕を組んで、大きな胸を支えている。


「早く戻ってこないかしらね」


 その傍らには6人の乙女達がいる。

 彼女達はジンネのハーレムのメンバーでもあり。

 それでもフルスのよき理解者でもあった。


「この領地はジンネ様が育てた物、果樹園が盛んで、果樹酒が最高に美味しい。それで富を築いた。もっともっとすごくなるわ、世界樹のお酒なんて出来たらきっと」


 フルスには野望があった。

 だがそれは突如として終わる。


「た、大変です、全ての兵士とジンネ様と将軍が討ち取られて、今首を持ってきたガルフが来ました」


「な、なんですってえええええ」


 フルスが落胆する瞬間、領主の屋敷の扉が吹き飛んだ。


 いつも弱そうで、なよなよしていて、優しい青年が今では狂戦士が如く、笑っている。

 顔には血がついており、全身には血がついている。


 右手にはジンネの首を左手にはグロルバ将軍の首を。


「おい、手土産です。すみません、あまり生首を持っていたくなくて」


 そこにはいつもの優しいガルフがいたのだが。


 首が転がってくると。

 ガルバは剣を掴む。



「がっはっは、ミナゴロシダ」


 剣を握ると別人になる噂。

 1人でゴブリンを数百体殺し。

 1人でダンジョンをいくつも制覇する。


 そんな噂は嘘っぱちとされ。

 皆、虚言壁があるとガルフ領主をバカにしてきた。


 そのつけがきた。

 あれは本当だったのだと。


「ガルフ様、兵士達は皆殺しました」


 その男は異世界の侍風の男。


「ミヤモトご苦労」


「み、ミヤモトって伝説の異世界のどうせ嘘でしょ、いや嘘じゃないのか」


「果樹園を燃やそうとしていた男達を、かたっぱしから動けなくしてきましたよ、僕にかかればらくちんらくちん」


 それは少年だった。

 ただ背中に担いでいる大剣が伝説のそれと酷似。


「アーザー」


「あれ、そこの女、僕の事知ってるの?」


「う、うそよ、ガルフだけでも問題なのに、伝説が2人もおおおお」


 だが、最後まで言わさず、走馬灯を見る事もなく、フロスの首が落下していた。


「あまり、うるさいと殺しますよ? あ、殺しちゃった」


 ガルフが笑っている。

 ガルフの手にはフロスの首が握られていた。


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