フィールドに女神たちが微笑む日は来るのだろうか

まさ

第1話 突然の女神

『努力は嘘をつかないが、行きつく先は同じではない。少しだけ違う日常の積み重ねと、気まぐれな運命の女神によって』


(そうだよな、そう思うよ)


「あっ! いっけないんだ、学校に漫画を持って来てる!」


「うわわ!」


 突然降ってきた声に、美須山高校一年の西島海斗にしじまかいとは、漫画のワンシーンから気持ちを逸らされてしまった。

 声の主は、瑠璃色のショートアが似合う女の子。

 大きな二重の瞳が彼を映している。

 

(あれ、この子…?)


 海斗はその子に見覚えがあった。

 入学式の日に、その美貌によって、男子生徒の熱視線を一斉に浴びた子だ。


(確か隣のクラスの、桜木理亜さくらぎりあさんだ)


「先生や風紀委員に見つかったら没収だよ」


「あの、えっと、大丈夫。まだ見つかったことはないから」


 正確に言うと、海斗のような地味な生徒は興味を持たれないから、大した注意もされないのだ。


「何を読んでるの? サッカーの漫画?」


「えっと、まあ…あの、何か用?」


「西島海斗君だよね。君、サッカー部に入らない?」


「えっ!? 何だよ急にそんな」


「私はサッカー部のマネージャーでさ、部員を探してるの。昔やってたよね、サッカー?」


「…どこでそんな話を聞いたのか知らないけど、俺はもうサッカーは止めたから」


「えっ、どうして!? あんなに上手だったのに!?」


 海斗には信じられない言葉だ。

 彼は自分がサッカーが上手だとは、一度も思ったことがないのだ。


「私、去年の関東エリアの代表決定戦で、君の相手チームのマネージャーだったの。出てたよね、あれに?」


「ああ…なら、俺のことは買い被り過ぎだよ。だってあの試合は俺のせいで…」


「仕方がないわ、誰にでもあることよ」


「そうかな? でも俺はその程度の奴なんだ。だからほっといてくれよ」


 海斗が中学三年生の時の、全国中校学サッカー大会の関東予選。

 勝った方が全国に行けるという大一番で、後半の初めから試合に出さされた。

 それまで彼は一度だって、まともに試合に出たことがなかったのに。


 1点を追いかける中での終了間際に、ボールは海斗の足元へ。 

 目の前には相手ゴールキーパーが一人だけ、絶好のチャンスだ。

 彼が右足で蹴ったボールは、ゴールポストの外を抜けて、そこで試合は終わったのだった。


「おっはよ~、かい…あれ?」


 海斗の元で声を出しかけて止めたのは、磯山千秋いそやまちあき、小学校からの幼馴染だ。

 ショートボブが似合う、活発な感じの可愛い女の子だ。


「ごめんなさい、また来るわ」


 そう言って理亜が出て行くと、千秋は怪訝そうな顔になる。


「なんで隣のクラスのあの子が、海斗のとこにいたの?」


「さあね」


 海斗が誤魔化すと、千秋もまた、海斗の手元に視線を落とした。


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