雪女を見つけた私は思い切ってお友達になってもらう事にした〜お母さん、雪女は想像以上に綺麗です〜

GK506

〜いつも見る夢〜

 また夢を見た。


 私は空から舞い落ちる真っ白な雪を手に取り六角形の結晶を観察している。


 『ここはね、空気が綺麗だから雪の結晶が見えるんだよ』


 声のする方を振り返ると私がこの世界で一番大好きな人が立っている。


 『雪の結晶ってどこでも見られるんじゃないの⁇』


 私が今まで何度繰り返したか分からない質問を最愛の人に投げかけると決まって彼女は顔を曇らせながら、これまた何度繰り返されたか分からない応えを投げてくる。


 『人間はね、汚い生き物だから、何もかも汚してしまうんだよ、人間が自然を汚してしまったら雪の結晶は見えなくなってしまう。でも、ここはね、まだ人間が汚していないから、だから雪の結晶を見る事が出来るんだよ』


 いつもの様に悲しげな顔の私の最愛、だけれど私は彼女から目を離す事が出来ない、1秒でも長く彼女の姿を見ていたいから。


 『ふぅ〜ん。そうなんだぁ。でも、さぁ、人間が汚い生き物だとしても、お母さんはとっても綺麗だよ?』 


 私の言葉にお母さんの顔が綻ぶ、もう何度みたか思い出せないこの光景は、今も初めて見た時と同じ様に私の胸を締め付ける。


 『ありがとう。セツもとっても綺麗だよ』


 お母さんに名前を呼ばれると、心がとってもくすぐったくて私の顔は自然と笑顔でいっぱいになる。


 『ねぇ、お母さん。人間が汚い生き物ならさ、この世界には綺麗な生き物もいるのかなぁ?』


 『蝶々さんも鳥さんも綺麗だけれど、もっと綺麗な生き物がいるよ』


 『へぇ〜、なになに⁇どんな生き物⁇』


 答えは知っているというのに、私は初めて質問した時と同じ熱量で何度繰り返したか分からない質問を投げる。


 『雪女だよ』


 嬉しそうな悲しそうな色々な感情を内包した表情、何度も見ている表情だけれど16歳になった今でも、私はこの表情を上手に表現する言葉を持たない。


 『雪女?』


 『そう…雪女』


 『雪女って……』


 いつもと全く同じタイミングで世界がまるで3Dのパズルの様に崩れ始める。


 終わるな‼︎

 終わるな‼︎

 終わるな‼︎


 ずっと夢のままでいいから。


 だから……。


 夢が終わる。


 新しい世界が始まる。


 熱くなっている目頭に触れると指先が軽く濡れる。


 16歳になったけれど私はまだまだこどもの様だ。


 『おはよう、おばあちゃん』


 『おはよう、セツ』


 私の世界で2番目に好きな人がいつもと変わらぬ温かい眼差しで私を包み込んでくれるので私の中の悲しみは少しずつ和らいでいく。


 窓の外を眺めると雲ひとつ無い快晴の青が広がっている。


 『おばあちゃん、今日はとてもいい天気みたいだから山菜取りにいってくるね』


 『うん、最近は暖冬の影響で早く目覚めるクマもいるから気をつけるんだよ』


 『大丈夫だよ、おばあちゃん。この山のクマ達と私は仲良しなんだから』


 お気に入りの服を身につけて外に出ると気持ちのいい風に包まれる。


 『今日は何か良い事がありそうな予感がするなぁ〜』


 暖かいお日様の光を浴びながら山道を歩いていると"彼女"はいた。


 雪の様に白い肌に白銀に煌めく長髪、そして全身白一色でコーデされたファッション。


 『何あれ⁉︎完全に雪女じゃん』


 気づいた時には既に私は全力疾走していた。


 『予感的中♪やっぱり今日は最高に良い事が起こるんだ‼︎』


 お母さん、お空の上から見ていますか⁇


 今日も私は元気に生きています。


 そして、どうやら雪女を見つけたみたいです、いってきます。


 快晴の空の下、全力疾走する私の顔は満面の笑顔で溢れている。

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