【猫無双】異世界に猫がいなかったので創ったら最強の魔獣が生まれてしまった〜にゅ〜る魔王味が食べたい?仕方ない……お前の好きにしていいぞ、ネコン〜

耳折

第1話 猫の子1匹いない

 猫さえいればいい。


 物心ついた時にはそう思っていた。

 もふもふとした身体。

 お日様の様な香り(飼っていないので妄想)

 そして何よりみゃー、というあの声。


 だが両親は毛が出る、汚いというか理由で飼うことはおろか猫カフェも猫に触れることを許してはくれなかった。


 毛ぐらい食べてやるわ。

 あのふわふわがいいんだろ!!


 とはいえ、両親としては俺の持病の喘息が悪化するのを恐れたのだろうし仕方なく、仕方なーく飼うのは諦めた……わけねぇだろうが!


 しかし、裏山で飼うとか、物置きでひっそり飼うとか猫様に可哀想なことはさせられないため割と自立可能な大学生から買う事にした。


 その為の貯金は万全、大学も金のかからない国立大学。

 当然一人暮らしで猫可物件。

 都内には猫可能物件はかなり少なく苦労はしたが。

 両親は勉強して将来は安泰だと安心している。

 だがこれは全て猫様の為。


 そして俺は行動を開始した。


『猫類皆平等』


 野良猫も、保護猫も、飼い猫も皆平等だという俺のポリシーだ。

 本当であれば全ての猫様を保護したい所だが俺にそんな力は無い。

 この手に抱けるだけの猫しかまだ救えないのだ。

 人間のエゴ、罪である。


 という事で譲渡会、ペットショップ等々巡り運命の猫を見つけることにした。

 スコティッシュ、メインクーン、ロシアンブルー、当然雑種も。


 見極めには1ヶ月を要した。

 そうして見つけたのは……マンチカンだった。


 まるまるとした顔、ちんまりとした手足。


 可愛い。


 短すぎる手足で同じゲージにいるスコティッシュにぽこぽこ喧嘩負けしている姿。


 かわいい。

 

 何より最初に目が合ってこの猫様が走り出した時、俺は運命を感じたのだ。

 そうして迎え入れた猫様、最初は恐る恐るだったがペットショップから買ったこともあり、人慣れはしていた。

 

 そして名前は……ネコン


 猫という名前を名前の一部にしたいというのは考えていた。

 それに完全室内飼いだったので名前は俺だけが呼ぶもの、覚えられないような長い名前でなければいいと思ったからだ。



 餌代は少し高級なロイヤルニャニャン、様々な猫種への配慮と最大の利点は人間でも美味しそうと感じるその香りだ。

 猫は鼻が良いらしいし、そこは重要だろう。


 床には特殊コーティングを利用した滑りにくいもの。

 フロアマットは猫様が食べてしまうらしく、コーティングは害の無いものだと確認済み。

 壁紙は借家の為事前に安い壁紙を貼り付けた。


 そしてトイレはうんちとおしっこが別に取れて管理可能なものを買い、水は濾過器付きの循環型。


 そうして始まった猫ライフ。


 最初は知らないことだらけで吐き戻しや毛繕いの毛をいきなり吐いて動揺したり不安だったが、近くの動物病院のお医者様が非常に優しいこともあり、ネコンにとっても俺にとっても快適な猫ライフだった。


 ……そう、あの日までは。


 ねこんが急にぐったりしてしまい、俺はカーシェアで動物病院に行くその道中。

 猫が飛び出して来たのだ。

 俺は咄嗟にそれを避けた。


 直後、電柱に激突。


 ……ねこんは?

 無事だった。

 それも怯えながらもいつもの元気な姿。


 猫を入れて運ぶバッグの中には吐いた毛玉。


 良かった。

 と、同時に俺の意識は薄れていき、今に至る。


 ちなみに今、というのはこの謎の森にいる今のこと。


「異世界転生か?」


 電柱激突からこの森まで吹き飛んだか運ばれたよりもそう信じる方がだと思った。

 もしくは夢かとも考えたがこのリアルさはありえない。


「……ネコンは!!」


 周囲の至る所を探す。

 茂み、木の上、土の中。


「いない……クソっ!!」


 今この時にもネコンは1人どこかで寂しく過ごしていると思うと……もしかしたら飼い主が死んで保護猫に……?

 いや、俺は知っている。

 両親さ確かに猫は苦手だったがそれ以上に生命に対して責任を持ってくれる両親だと。


 とりあえず元の世界に戻る方法を探すのは最優先でネコンのことは両親を信じよう。

 となれば俺がこの世界で確認しなくてはいけないことは……



「この世界に猫、いるよな?」




◇ ◇ ◇




 場所は変わり森を抜け近くの町。

 というか小屋が点在している集落か?


 まず言葉が通用するかという疑問もあるが話してみないことにはわからない。


「あのー、すいません、誰かいますかー?」


 何か声がするのだが返事はない。


「あのー!すいませーん!!」


「あーあー、待って!今すぐいく!」


 ……にゃ?


 なんだここ?やばいやついるのか?


「どうしたにゃ……ん?お前誰だにゃ」



 猫の耳と尻尾。

 ふわふわとした肉球付きの手。

 顔は人間で二足歩行。


 ……


「なんだぁてめぇ……こんな所でコンカフェなんてやりやがって殺すぞ?」


「にゃ!?なんだはこっちのセリフだにゃ!!急に殺すだなんて頭おかしいのかにゃ!」


 うるせぇ日常生活でにゃにゃ言ってる奴の方が……ん?


 よーく手と耳を見てみるとそれは完全に結合しており、また暖かい。


「さ、触るにゃ!!そこはデリケートなのにゃ!!」


「すいません……で、あなたは半猫族みたいな感じですか?」


「ねこ……なんにゃそのねこって」


「いやいや、かわいいその耳と尻尾!手!どう見ても猫でしょう」


「我らがキャッコ族を可愛いと馬鹿にするにゃ!我らが祖先はそれはそれは獰猛で強くかっこいいのにゃ」


「それって四足歩行でけむくじゃらで可愛いですか?」


「だから?可愛いじゃなくカッコいいんだにゃ!話を聞けにゃ!」


 うーん、可愛いというのが恥ずかしいのだろうか?

 異世界の感覚はわからんな。


「あー、それはわかりましたからじゃあ四足歩行でキャッコ族みたいな長い尻尾と耳と手があるふわふわけむくじゃらで可愛い生物しりません?」


 猫って概念が無いのは説明面倒だな。


 まぁ、どうせ猫がいなくても異世界なら似た生物がいるだろう、ヌコとか。


「そんなんいないにゃ」


「……は?いやいるだろそんな感じの生き物くらい!」


「嘘は言ってないにゃ、キャッコ族に近い生き物なんてキャッコ族以外いないにゃ」


 こいつだけが知らない可能は高いな。


「そうかありがとう、他の奴にも聞いてみるよ」


「だからいないんだにゃ!ちょ!話を聞けにゃ!!」


 しかし、集落の他の家も訪ねて聞いてみても返ってくる返事は同じ、『そんな生物なんていない』だ。


 恐らく猫っぽいし外に出ることもあまり無いから外の世界を知らないのだろう。


 仕方ない、もっと人のいそうな場所で探してみるか。


 遠くに見えた城を目印にひたすら歩く。

 

「はぁ……はぁ……きっつ」


 家でネコンと遊んでばかりで運動なんてほとんどしていなかったから身体が鈍っている。


 そうして到着した異世界の街。


 中世ヨーロッパっぽいその中を俺は見向きもせずにある場所に向かっていた。


「ここ本屋ですよね!!」


「あ、ああそうだがどうかしたのか?そんな変な格好でお前さん旅人か?」


「格好なんてどうでもいいです、ちょっとこんなやつを探していて」


 俺は店主のテーブルに置いてあった紙とペンで猫の絵を描いた。


 自慢じゃないが猫の絵に関してはプロ級の自負がある。

 これならきっと……


「何だこの生物?見たことも聞いたこともないな」


「猫!ねこですよ!?可愛さの権化、全ての可愛いを統べる生物!」


 店主は力説する俺にドン引きしていて、その紙はやるから帰ってくれと心底気持ち悪い態度を露わにしたので半泣きで店を飛び出た。


「……いや!まだだ!」


 本屋の店主だって知らないことはある。

 ここは地道な聞き込みしかない。


「あの!こんな生物知ってますか!?」

「こうふわふわで……足の裏がとてもいい匂いなんです!」

「食べちゃいたいくらい可愛くて、たまに匂いを吸ったり耳とか手足を口に入れて食べちゃうふりしたり!」


 結果。


 ドン引き度が加速して衛兵に取り押さえられ、今は牢屋にいた。


 何故だ……何故!誰も知らない!

 そりゃ知らない生物の足の裏とか匂い吸うとか言ったら頭おかしい奴かもしれないけとさぁ!!


 俺は膝から崩れ去りうずくまる。


「だれか……誰でもいい、俺に猫吸いを……」


 てち、てち、てち


 ……これは、まさか。

 いや、間違いない。これは猫のぷるぷる肉球が地面と触れた時に発される音。


 今の俺には猫の全てが敏感に感じる。


 近い、もうすぐ牢屋の前に。

 目の前にまごうことなき猫様の御御足。


「ね、猫さ……」


 顔を上げるとそこには猫の手足に


「ん?ブコを見るのは初めてか?可愛いだろう?このぶにぶにの身体」


「くっそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」



 異世界に猫が……いなかった。


 


 


 

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