騎士様の過去(前編)

「…」


「何むすってしてんだよ、色男が台無しだぜ」



ここは鍛錬場、ベンチに座ってルイは不満そうにむすくれていた。


陛下との稽古が終わった後、アルトに担がれて部屋に運ばれて次の日に目を覚ました。その時、同室の彼に笑顔で言われた。



「ソフィアの護衛任されてよかったな!いつか祝おうぜ!」



なんてアルトに言われて開いた口が塞がらなかった。結局ボコボコにされて負けたのに、速攻でヴィルヘルムのところへ行けばメイド長がおり「陛下は西の国で会議があり留守にしております」とのこと。現在9時。

元気ジジイが…!とルイは腹立った。



「護衛の任務のこと、何か一言あってもいいと思わない?」


「ん?陛下のことか?陛下は忙しいんだから仕方ないだろ」


「そういう大切なことをちゃんと言わないのは良くないと思う」


「(なんか親子みたいなんだよなあ、こいつと陛下)」



それとさ…とまだあるらしい。



「ソフィアの護衛に就いたら四六時中側にいられると思ってたのに。鍛錬したり城内は安全だからってパトロールの仕事入れられるし。思ってたのとなんか違う」


「そりゃ、根本はそっちだしな。団長に相談したら?」



はああああ…とルイは大きなため息を吐く。口から魂が出ていて、余程落ち込んでいるらしい。そんなに側にいたかったのか…と思うアルト。

まあ、確かに騎士は守るのが仕事だしな、とちょっと誤解する。ルイはソフィアとずっと一緒にいたいだけだ。



「後さ…」


「まだあんのかよ」


「ソフィアに陛下にボコボコされたところ見られて立ち直れない。絶対幻滅された…、格好悪いところ見られた…」


「あー…」



すっげえ惚れてたけど、とは言わないおくアルト。元気付けるのは自分ではなく彼女がいいだろう。

どよーん、と落ち込んでいる親友がちょっと珍しい。

アルトは自分なりに励ましてみることにした。ルイの肩に腕を置くと明るく言った。



「ソフィアは休息もらって部屋にいるだろうし後で話に行けばいいじゃないか!きっと待ってるって!」


「うん…」







「ソフィアちゃんならいませんよ」



部屋から出てきたのはココだけだった。おろした髪にラフな格好。今日は部屋でゆっくりするつもりらしい。どこに行ったか聞くと、庭園を散歩しに行ったようだ。



「そっか。ありがとう。休んでるところごめんね」


「いえ、あの」


「?何かな」



ココはもごもごと言いづらそうにしているが、自分からから話しかけてしまった手前言わないわけにはいかない。


「少し待ってて下さい」と言ってドアを閉めて部屋の奥に入っていった。



「ソフィアちゃん、りんごが好きです。これ…後でソフィアちゃんと食べようと思ってたんですけど、ルイ様に。ソフィアちゃんと食べてください」


「え、いいの?」


「はい」



渡されたのはりんごのクッキーが入った透明な瓶。店で買ったのか白のラベルが貼ってある。

突然どうしたのだろう。どっちかというと彼女にはあまり気に入られてないと思っていたのだけど、ルイは思う。


ココは自分の行動に少し不満らしく不貞腐れながら言った。



「親友のことは応援したいので…」


「え?」


「以上です!私お昼寝しますから!」



バン!と勢いよくドアを閉められた。

残されたルイは頬を掻いてドアの向こうにいるココにお礼を言うと立ち去った。


ココはそのままベットにうつ伏せに倒れ込むと大きくてため息をついた。



「何やってるんだろ、私…」







空が水色だ、とソフィアは庭園のベンチに座って空をぼーっと眺める。自分の瞳は鏡でしか見たことがないが、直で見るとあんな感じなのだろうか、と思う。

庭園は庭師が育てた薔薇が花開いている。

最初は迷っていた迷路のような庭園も自分の庭のように覚えている。


陛下は私に危険が迫っていると言った。


あの店主のような人が瞳を盗りにくるのだろうか。

ココちゃんは私が聖女様の末裔だと知っても変わらず接してくれてる。

というか街の皆も私の家が聖女様の末裔だと知っていても平等に接してくれて、今まで襲われることなんてなかった。


メイドになってから聖女様の末裔だと周りに言いふらしてないお陰か突っ込まれることもない。多分、勘付いている人はいると思うけど。

ココちゃんが前に言っていた。



「聖女様の瞳って凄く綺麗だったって教科書にも載ってるけど、実際見た人はいないし。ソフィアちゃんの瞳の見てすぐに聖女様の末裔だってわからないと思うよ」



だから、黙っといたほうがいいかもね、と言われた。

確かに。


ソフィアは色々考えてまたぼーっと空を見る。



「ソフィア!」


「!騎士様、どうしたんですか?」



ルイの声がして意識が現実に戻ると、彼が駆け寄ってきた。「隣いい?」と聞かれて頷くとルイがベンチに座る。



「城内は騎士がいて安全だけど、あまり一人にならないでほしいな。心配だから」


「す、すみません…」


「あ、ちが…」



間違えた…!こんなこと言う為に探していたわけじゃないのに…!とルイは頭を抱える。

色々話したいことはあるのに上手く喋れない。

何もかも陛下のせい。脳内でピースしているヴィルヘルムの姿が思い浮かぶ。



「ごめん、言い方が悪かったね。アルトから今朝聞いたんだ。俺がソフィアの護衛に選ばれたって。嬉しかった。陛下に負けてソフィアには悪いところ見せちゃったけど…」


「そんな!凄くかっこよかったです!」


「…本当?」


「はい!」



にこにこ、笑顔のソフィアにルイは安堵のため息をつく。


よかったあ、幻滅されてなかった。


ルイはココから貰ったクッキーが入った瓶を取り出すと開けて一つ取り出した。

「ココちゃんから貰ったんだ。ソフィアと二人でどうぞって。いつかお礼しなくちゃいけないね」と言うとそれをソフィアの口元に持っていった。



「あーん」


「へ!?」



ソフィアは顔を真っ赤にさせてクッキーとルイの顔を交互に見る。ルイは笑顔のまま黙ってソフィアが食べるのを待つ。

食べるまで動かないつもりらしい。

どうしよう、食べなきゃダメ!?は、恥ずかしい…!とソフィアはぐるぐると目を回す。

女は度胸だ!ソフィアは口を開ける。



「あ、あーん」



クッキーを口に含む。

…味がわからない。「美味しい?」と聞かれるが緊張して味がわからない。でも幸せいっぱいなので勢いよく頷く。



「…俺、少しはソフィアと仲良くなったかな」


「少しどころか凄く仲良くなりましたよ!私、騎士様と一緒にいるの楽しいです!」


「そう言ってもらえて嬉しいな。そうやって接してくれるのソフィアだけだよ」


「え?」



どういうことだろうか、と一瞬でも考えてすぐ思いついたのは悪い噂。治安の悪い街で窃盗や暴行を行っていたとか。


普段の彼を見る限り、そんなことするなんて思えない。


でも先輩も他のメイド達も彼のことはよく思ってないのか、いい噂は聞かない。



「知ってると思うけど、俺、良い噂聞かないでしょ?昔は不良だったとか、犯罪犯してたとか」


「…本当なんですか?」


「どっちだと思う?」



その質問にソフィアは真っ直ぐ答える。



「私は騎士様がそんなことしてないって信じてます。本当は違うって」



陛下に誓ったのだ。彼を信じると。

その返事を聞いてルイは嬉しそうに微笑むと、少し自分のことを語り出した。



ルイの一族は代々聖女様の眼球を守る家系だった。国も政府も誰も知らない、ルイの一族だけが閉鎖的に守護していた。


東の国の中心からずっと離れた田舎町。治安の悪い街から逃げるように山奥にぽつりと一族は住んでいた。周りは全員血縁関係。


ルイは一族の中でも頭ひとつ飛び抜けていた。どんなことでもそつなくこなし、勉強も剣技もみるみる腕が上がっていった。

それを鼻にかけることもしない大人しい少年だった。



「ルイ、おいで」


「何、母さん」



ある日、庭で剣技の鍛錬をしていたらルイの母親に呼ばれた。

この一族は、15になる子供にあるものを見せていた。

母親が厳重に施錠された部屋へとルイを案内する。



「これが聖女様の眼球よ」


「!」


「私たちはこれを命をかけて守るの」



透明な容器に入った対になる眼球が二つ、液に付けられて浮いていた。


ルイは目を奪われた。なんて美しいんだ、と。


親から聖女様の眼球のことは聞いていた。とても綺麗なものだと、いつかお前にも見せてやりたい、と耳が痛くなるくらい聞かされていた。


でも初めて見て実感した。これは人に自慢したくなる。


母親とルイは聖女様の眼球が置いてある部屋を出ると家に戻った。すると父親が外出から戻ってきていた。



「聖女様の眼球を見たか?」


「うん、凄く綺麗だった」


「そうだろう!そうだろう!ありゃ食べて魔女になっとしても不思議じゃないな!」


「ちょっとあなた」


「すまんすまん、冗談だ」



冗談好きな父親は置いておいて。

また見に行きたい、と母親にお願いするときっぱりと断られた。



「ダメよ。あれはそんな簡単に見ていいものじゃないの」


「…けち」


「ダメなものはダメ。ご飯作るからその間鍛錬しなさい。貴方は聖女様の眼球を守る騎士になるのよ。その為にこの一族は存在しているんだもの」



クールな母親はキッチンに向かった。


その様子を見ていた父親が「今度こっそり二人で見に行くか?」と囁いてくる。ルイは父親から離れるとじとった見つめた。



「父さん。よくクールな母さんを妻にできたね。この村は血縁者しかいないから外からお嫁さんを貰ってくるんでしょ」


「お、なんだ?父さんと母さんの馴れ初めが聞きたい年頃か?」


「違う。…こんなところ、外の人間からしてみれは不気味でしょ。眼球を守ってる一族とか」


「それはだな、上手く濁すんだよ。嘘はつかない、ただ濁すだけだ!これが大人のやり方ってもんだ。俺はなんて言ったかなあ」


「はあ、もういいよ。鍛錬してくる」



そう言ってルイは家を出た。残された父親はあ、と口を開けた。



「あ!ルイ!聖女様の眼球は見に行かなくていいのか!?父さんも見たいんだが!」


「ちょっと!あなた!聞こえたわよ!どういうこと!!」


「げっ」

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