王vs騎士

「さっきの凄かったねー」



ここは城下町の大通り、ついさっきソフィアとココが走って転んだところだ。店主も騎士によって城に連れていかれたが、現場を見ていた住人はヒソヒソと話し始めている。

怖かったね、何だったんだろうね、と。


そんな中、黒いドレスを着ている紫色の髪をした女性が通りかかる。

女性の隣を若い女性二人組が通り過ぎた。



「ドラッグでもやってそうな感じの人だったね」


「本当そう!目がイカれちゃってるっていうかー」



長い前髪を払うと赤い瞳が顔を出す。燃えるような赤い瞳が暗くなってきた空に映える。



「ふふ、あの人間。想像以上に使えなかったわね。美味しくもなさそうだし、放っておこうかしら」



そう呟いて真っ暗な路地裏に消えていった。






「うわっ、」


アルトが突き飛ばされる。ここは鍛錬場。

ヴィルヘルムが上着を脱いで木剣を持ってアルトに稽古をつけている。厚い胸板と筋肉質で太い腕。まさに戦士だ。


アルトは真剣を使っているのに、手も足も出ない。

未だ攻撃のための剣を振るってはおらず、強さが垣間見える。



「はっはっは、アルト。まだまだだな。私が真剣ならとっくに5回は死んでいたぞ」


「流石陛下です…はあっはあっ、ルイ交代〜」



ベンチに座っていたルイはよたよたと歩くアルトとハイタッチすると陛下の向き直る。


ルイが真剣を抜くと空気が張り詰める。暫く睨み合うとルイが素早く動いた。あるとより早い足に一瞬で陛下の前に出て剣を振りかざそうとする。



「やけに素直な動きじゃないか!だが…甘い!」



剣を振りかざそうとしたルイはフェイントをかけて右に移動したが、陛下に見破れこめかみに木剣が迫る。間一髪、真剣で防ぐが陛下の一撃が重く顔を歪ませる。


そんなルイに目を輝かせる少女が一人。



「きゃー!騎士様かっこいいー!」



ソフィアである。離れたところでソフィア、ココ、エリー、メイド長、騎士団長が見守っている。もうハートも出まくりで完全に惚れているが、本人は否定している模様。


ソフィアの様子を見てココは「ソフィアちゃん可愛い」とにこやかに呟いた。そんな二人を見てエリーは何この二人…と引いた。



「騎士様の戦ってるところなんて初めて見た!全然目で追えないけどかっこいいことだけわかる!」


「ルイは剣技だけは騎士団一だからな。あれで勤務態度も良かったら地位も上がるというものを…」


「それだけではないでしょう。騎士団長様」



メイド長が淡々と言い放つ。

目線はまっすぐ陛下とルイを見ていた。

どういう意味だろう、団長を除く全員が彼女を見ていた。



「元々騎士は高尚な地位よ。

荒れた土地出身の平民以下の彼が騎士になれたことだけでも奇跡なのに。それ以上の地位につけるわけがないわ」



騎士になるにはそれ相応の地位がいる。元々が騎士の家系だったり、名家の息子など。


その話にエリーは目を伏せた。ココは心配そうにソフィアを見る。傷ついてないかな、と不安だった。



「…噂は本当だったんですか?」


「噂?」


「騎士様、昔治安の悪いところに生まれ育って悪いことしてたって」


「そういうことは本人に聞きなさい。私から言えるのは彼は騎士になれる器ではないということ」


「…わかりました」



ソフィアは悲しそうに肩を落としてしまった。いろんな噂を聞いた。人を殺しただとか、女癖が悪いだとか。誰から聞いてもいい噂を聞かない。他の見習いメイドも噂を聞いて、最初こそ彼はいい人だと言っていたのに怖い人だよねなんて聞くようになった。


目の前であんなに頑張って稽古している彼をどうしてそんなに悪く言えるのだろうか。


そんなソフィアを見てメイド長は言った。



「ソフィア、貴方はとても素直でいい子よ。その純真さで救われた人は沢山いるはず。側にいる友人も大切な人も。


信じなさい、貴方が疑えば相手も傷つく。貴方は顔に出やすいから気持ちを伝えやすい。それは良くも悪くも長所よ。


あの騎士を信じたいなら貫きなさい。それは彼にとって救いになる。貴方にとっての自信になる」



ソフィアはメイド長を見つめるが、彼女の言葉の本当の意味を考える。


メイド長は彼のことをどう思っているのだろう。私に彼を信じて欲しいのだろうか。

いや、そんなことではない。

私は…。


と考えていると「ぐっ、!」とルイが痛がる声がして、はっとしてルイを見るとヴィルヘルムの前で地面に膝をついていた。



「お前もまだまだだが、成長したな。以前一歩も動かなかった私の足は半歩動くようになったぞ」


「それはどうも。光栄です、陛下」


「後はその舐めた態度もどうにかしなくてはならないな」



陛下は話を続ける。



「私が何の意味もなくお前に稽古をつけていると思ったか?確かに育ちの悪いお前を躾けるため、お前を入団させたばかりの頃は手を焼いていた」


「…」


「何度も言いつけを破る生意気なお前をボコボコにするのは爽快だったぞ。今やそれもなくなり、大人しくなったものだな」


「煩い」



思わず敬語が抜けるルイに団長は「陛下になんて態度を…!」と怒りを露わにする。


昔、騎士様は陛下にボコボコにされたからちょっぴり反抗してるってこと?と先程の部屋での彼の態度をソフィアは思い出す。尊敬はしてそうだけど、昔のことがあって素直になれないとか?


ちょっと可愛いかも…という惚れた弱み。



「…話は戻るが今回聖女様の末裔が襲われた件について。あの子が無事で私は心底安心した」


「…」


「原因もわかっている。お前も薄々気づいているだろう?いかに聖女様の力のない末裔とはいえ、奴らに見つかるのは時間の問題だ。

今まで極秘に騎士を派遣していたが、彼女がこの城に来た以上その必要は無くなった」


「…」


「騎士団から一人、彼女の護衛を任命しようと思っている。彼女と仲のいいお前とアルトから、と思っていたが最近どうもまた任務をサボっていると聞いてな」



ソフィアは何の話をしているのか分からず、茫然と眺めている。


騎士団から一人、聖女様の末裔の護衛、やりたくないわけがない。やりたい、やらせて欲しい、とルイは声には出さず。陛下の言葉を待つ。



「いくら腕が良くても勤務態度の悪い騎士に任せるわけにはいかない。護衛の任は別の騎士にする。いいな?」


「なっ!陛下、そ、それは…」


「何か問題でもあるか?王の判断に意見するつもりか?」


「っ…!」



王と騎士。逆らえるわけもなく、ルイは押し黙ってしまう。


他の騎士にソフィアを守らせるなんて耐えられない。俺が守りたい。聖女様の末裔。今度こそきっと守りきってみせるから。


聖女様の末裔の、あの素直ないい子の側に俺を置いて欲しい。



「話は終わりだ。立て、稽古はまだ終わっておらん」


「…」



ルイは俯いたまま立ち上がる。


諦められるわけがない、ルイは目に光を灯すと剣を構えて陛下に向き直る。



「俺は絶対に諦めない。ソフィアは俺が守る。それを今ここであんたを倒して認めさせてやる!」


「やってみろ!血の気いい男と戦うのは腕が鳴る!」



先程よりも早いスピードで剣を打ち合う二人にアルトはすげー…と声を漏らす。


ヴィルヘルムはまだ若く、王子と呼ばれていた頃、彼は神の剣豪と呼ばれていた。剣を一振りすれば四人死ぬと言われていた。派遣されたら敵地を仲間がいたにもかからずたった一人で一帯を滅ぼしたと言われる悪魔の男。

頼もしくも恐ろしい彼は東の国を平和に導いた。



「先程より剣が重くなったな!ルイ!その調子だ!」


「煩い…!」



余裕な陛下にルイは苛立ちを覚えるが、ヴィルヘルムの剣についていきながらも、隙あらば攻撃。しかしそれすらも防がれて。


どう頑張っても彼に勝てる未来が見えなかった。

それでも、ここで彼を倒さないとあの子の側にはいれない、守らせてもらえない。



「ソフィアの騎士になるのはこの俺だ!」



ルイは剣を高く持ち上げてヴィルヘルムに立ち向かう。その大きな隙を彼はあえて見逃して、ルイの渾身の一撃に備えた。


ああ、これだと思った。


ヴィルヘルムが木剣を振りかざすとルイの真剣が折れてそのままこめかみに当たる。ゴッ、という鈍い音がして床にぶつかった。

「騎士様!」暫く動かないルイにソフィアは青ざめて駆け寄る。

「ちょ、ソフィア!」とエリーは静止するように言うが聞こえていない。

倒れているルイの肩に手を置く。



「騎士様!騎士様!大丈夫ですか!?」


「ソフィア、そう心配するな。手加減はしていた。気を失っているだけだ」



確かに呼吸はしている。

あれで手加減してたの…?と陛下を恐ろしく思うソフィア。

「それよりソフィア、話がある」と陛下はルイと隣に座っているに目線を合わせるように屈む。



「聖女様の末裔であるソフィアに暫くこいつを護衛につかせようと思う。勿論、別の騎士がいいなら話を聞く」


「…護衛がつくほど、私は危険なのですか?」



まさかその質問が来るとは思わなかった。

本人はあまり聖女様の末裔だということの危機感がないらしい。それはそれで良いことだ。今まで平和に過ごしてきた証だ。

ヴィルヘルムは優しく微笑み言った。



「ああ、そうだ」


「…」


「だからこいつに護衛を任せる。ルイを信じて命を預けて欲しい。

私も信じる。彼がこの任務を全うにしてくれることを」

 


先程メイド長が言っていたことはこう言うことなのかもしれない。


人を信じることは自分のためにもなる。

私も信じたいし、信用されたい。


ソフィアは手を祈るように合わせると誓った。



「はい、私は騎士様を信じます。命を預け、彼を信じ続けて…ずっとお側にいます」



そう誓うソフィアに陛下は安心したようにくすりと小さく笑った。



彼女は生まれたばかりの頃を思い出す。

突然来た、彼女の両親からの電話。酷く喜んでいたのを今でも覚えている。聖女様が生まれた!と。



「陛下!こうしてお会いするのは初めてですね。ささ、こちらです」



彼女の父親が嬉しそうに出迎えてくれた。

聖女様の末裔ということでヴィルヘルム家で見守ってきたこの一族。毎年、新年の挨拶の手紙を送るくらいの交流だった。

リビングに入ると小さな女の子が「へいか!こんにちは!」と一生懸命に挨拶してくれた。



「この子です。陛下」



母親が抱き抱えている赤子を見た。名前はソフィアというらしい。すやすやと眠っている赤子を母親は話しかけ静かに起こすとゆっくりと目が開いた。



聖女様の瞳だ。



見た瞬間にわかった。この世のものでないと疑心を持ってしまうくらい美しい瞳に目を奪われる。思わず吸い込まれてしまいそうだ。 

これは危ない、悪人に見つかれば事件に巻き込まれてしまう。

しかし、その日は聖女様の治癒の力を見ることができなかった。何度か訪れたが、一向に力が発揮されることはなかった。

この子は聖女様の瞳は持っているが力はないとわかった。

この子の両親は落ち込んだが、それでも「聖女様の瞳を直で見れて幸せです」と言い、私に謝罪した。



その美しい瞳だけでも守らなければと思った。



訳も話し、ソフィアは城で預かると言ったが、両親は普通の子と同じように自由に育てたい、と言い断った。

ならば、極秘に彼女を守り通さなければ。幸い治安の良い田舎町ということもあってか、平和にすくすくと育っていった。



場所は戻り、誓うソフィアに陛下は頭を撫でた。



「ああ、そうしてくれ。私も見守っているよ」


「はい!」

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