何故ヒーローは初めから必殺技を使わないのか。

{三年と数カ月前・・・}


「ルインは個体名ね。バハムートと名が付くからにはその親戚、大抵が【戦闘時二足直立型の翼竜】で【魔法操作に極めて長けている】もののことを指すの。」


土机の上にルタルちゃんが竜を描く、

年の功とやらだろうか、

意外と上手い。


「更に、仮称と付くからには個体識別が難しい幼竜であることが予想できる。」


「あ~、サンプルが少ないから、大人になるまで分からないってことですか?」


「それとか。後は成長の仕方で複数の個体に分岐する幼竜もいて、その竜が若く見えたりすれば識別ミスが起るから仮称と付けるパターン。ちなみに識別ミスが起るとダンジョンの対策方法が変わってしまって、冒険者たちが全滅したりするの。だから敢えて識別の難しいモンスターテーブルにするのも、ダンジョンマスターとしての悪知恵。デュフw」


――ヲタクなんだな。


「まぁ、幼竜と言ってもバハムートなら2mは絶対に超えるわ。遺伝子レベルで違うのだから、幼女VS幼竜、どちらが勝つかなんて目に見えてる。ただしコチラにはコレがある。」


ルタルちゃんは俺の杖を抜いて、

親指と人差し指で挟み、

上下に揺するように振る。


「フンフンフンフン・・・・」


「スゴイです、ルタル様。しなっている様に見えます。」


「いや、ちょっとしなるのよソレ。」


そう。

この杖は木の根とツタを編んで、

隙間に粘土を詰めて固められている。

使用者の魔力がある間はバッチリだが、

切れ始めるとフニャフニャしだす。


「実は私たち土精霊(グノーム)みたいに単一の魔法を極めるのならば、杖よりも土魔法に特化させた指輪とかの方が、遥かに魔道具として優秀。しかしスペル・グノームスは杖の利便性が無いと出せない魔法。」


「そうだったんだ。」


ルタルちゃんは久しく被っていなかった、

自称チャームポイントの三角帽子を頭に乗せ、

俺の横に立つ。

身長、同じくらい。


「細かい事はアカデミアでやると思うわ。とにかく、タンテちゃんがルインちゃんに勝つには魔法を駆使する他にない。」


――ルインちゃん.....


「そこで切り札として教えるのが、この魔法。」


それからルタルちゃんは俺の手を握り、

横で小さく杖を振った。


それからのことは忘れられない。

右手から血管が吸い出されるように、

ルタルちゃんの左手へ、

魔力が緩やかに抜けていく感覚がしたと思えば、

ドッと冷汗が出ると共に、

脚の力が抜け、

膝から地面に倒れ込む。


「あっ、ごめん.....」


唱えられた魔法。

倒れ込む身体。

ちらりと見えたのは、

天井の岩が割れ、

加速して床を叩く光景。


その日からは、

ひたすらに特訓をしていた。

ひたすらに、ひたすらに。


初めは野菜作りの合間を縫った特訓。

一般的な土魔法を繰り返し、

使用回数と練度を上げた。


明確にハードさが増したのは、

緻密な操作が出来るようになってからだ。

それは30cmほどのゴーレムを創った日。

ルタルちゃんの教えにより、

ゴーレムに農作業を任せ始めてから、

フルマラソンをするような疲れが連日続いた。

俺はあの日をゴーレム革命の日と呼んでいる。


一日のスケジュールがこんな風に変わったからだ。

06:00 農作業開始

07:00 朝食

07:30 農作業続き

13:00 昼食

17:00 魔法特訓

19:00 夕食

19:30 魔法特訓続き

21:00 就寝


 ⇩  ⇩


(ゴーレム革命後)

06:00 ゴーレムを操作する特訓(農作業)

07:00 朝食

07:30 ゴーレムを操作する特訓続き(農作業)

13:00 昼食

17:00 魔法特訓

19:00 夕食

19:30 魔法特訓続き

21:00 就寝


ゴーレム革命の日は、

別段喜ばしい日という訳ではない。

何故なら肉体疲労と魔力疲労は別物であるから。

肉体疲労の後に魔力疲労が溜まる以前のスケジュールに比べ、魔力疲労だけが一日を占めるようになったゴーレム革命後のスケジュールは、割とストレスフルな毎日であった。


しかし住めば都、慣れればマジ楽。

次第にゴーレムによる農作業が、

意識外の行動として出来るようになる。

その頃にはもう、筋力減退、魔力ムキムキ。


「本番はアシスタントにキューちゃんが付くわ。戦場の巨人牢をダンジョンの延長として捉え、空間を侵食しながら戦ってもらう。そうすればドラゴンが吐き出したマナをダンジョンポイントとして利用できる。つまり、――戦いが始まれば、巨人牢(そのち)はもうダンジョンであり、君は巨人牢(そのち)のマスターとなる。」


「ダンジョンポイント使ったこと無いんだけど。」


「魔力が枯渇したらオートで使えます。コツは要りますが、土に根を張る植物の要領です。」


「なるほど。」


ルタルちゃんは腕を組んで顔を逸らす。

勝手に使われそうだから、

教えたくなかったんだろうなぁ.....

残念でしたぁ。

お陰でスタミナは付いたけどね。


「どちらにせよ、|土精霊の願書魔法(スペル・グノームス)だけで勝てればワケ無いわ。その時点で100点満点。切り札を使ったら60点ね。ちょっとガッカリだわ。」


「手厳しい。」


「でも、死んじゃったら0点だから。」


4年間ずっと鍛えていた。

長いと言えばとても長いが、

ある意味それは命日で、

ある意味それは余命であったから。

どうにも毎日、充実していた。









――――――――――――――


{第1層・旧、巨人牢}


『グァオォオオオオオオオオオォォオ・・・・!!!!』


俺達を探す、雄叫びが響く。

怒っているのか、楽しんでいるのか。


「完全に、見失っているようです。」


「うん。.....なぁ、キューちゃん。俺、昔から思ってたんだ。どうしてヒーローは初めから必殺技を使わないんだろうって。必殺技を使って勝てるなら、最初から使えばいいじゃん。って。追い込まれてから使うなんてリスキーじゃんかって。」


「それは具体的に言えば、悟空が.....」


「――具体的には!!言わなくていいんだけど.....伝わってればいいんですけど。まあそういうこと。ゲームとかではバンバン使ってた。ハナから必殺技を撃ってさ、余裕を持って勝利。わざわざ追い込まれる展開なんて作らない。もっとも効率的なワンサイドゲーム。.....でも実際に、いま自分が相対すると、なんというか.....分かる気がする。」


胸に構えた杖が震える。

想像よりも、幼竜(ルイン)は遥かに圧がある。


「俺の場合は、恐怖だ。命を賭けた勝負だからこそ、もし外したら、逃げる体力が無くなりそうなこの技を必ず倒せるか分からない相手に使うのが怖い。だからこそ様子を見たいし、だからこそ奥手に出てしまう.....」


「怖いのですか。」


「怖い。」


俺は即答する。

しかし続けざまにキューちゃんは問う。


「何が怖いのですか?」


「死ぬのが。」


「相手(ルイン)の何処が怖いのですか?」


「賢い所。」


「他には?」


「強い所。」


「他には?」


「デカい所。」


「他には?」


「よく分からない所。」


「他には?」


「ねぇ。これって何の意味が」


「――竜(あいて)も同じじゃないですか?」


「え?」


キューちゃんは浮遊し、

俺の両の頬を触って、

目を合わせる。


「竜(あいて)も、タンテ様を怖がっていると思います。というかタンテ様以上に、ルインは敵を知りません。加えてルインは逃げ方を知りません。勝ち方を知りません。友達もいません。あ、それはタンテ様もか…」


「ちょっと待とうぜ、仲良くしようぜ。」


「とかく、それが今まさに。明確に敵対してきたナゾの影を見失い、脂汗タラタラ、必死こいて探している。命を脅かすかも知れない相手を。」


巨人牢の中央で、

右へ左へ、赤い目が回る。

グルルと唸り、

じれったそうに。


「タンテ様。私にはあの竜が、『ビビッている』ように見えますよ。だってアイツは、賢いのだから。」


「ビビッてる.....」


「えぇ。それに、例えそうでなくとも。どうですか?.....追い詰めてるように、感じてきませんか?」


――追い詰めている.....俺が.....?



『グァオォオオオオオオオオオォォオ・・・・!!!!』



――いや。


「感じる。」


俺はじっと竜を見つめながら、

杖でスペルをなぞる。

その三秒後には、

身体をのり出して走っていた。














{ダンジョンステータス}

Qキューブ(搭載OS:Que Sera Artificial Intelligence)

研究レベル:0

DP(ダンジョンポイント) :NaN(戦闘中..)

MP(モンスターポイント) :NaN(戦闘中…)

RP(リソースポイント) :NaN(戦闘中…)

タイプ:単一層地下空洞型

構 成:全1層

状 態:元・地底湖ダンジョン

称 号:???

危険度:レベル4(D級)

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