9歳児と言う勿れ
{ 第一層『旧・巨人牢』}
「ダンジョンに風穴を開けることが出来れば、例えば心肺蘇生をされた人間がハァーッ!と高い呼吸音を鳴らして目覚めるように、このダンジョンは息を吹き返し、【蘇る】ことが出来ます。すなわちですねタンテ様。私たちはこのダンジョンの救世主、もとい救済主になることが出来るんです。救済主。」
テンション高いな~、人の気も知れずに。
「さながら冒険者(にんげん)は赤血球。マナは酸素ってところですか。」
「ねぇ。遊んで来てもいいけど、5時までには帰ってきてね。」
外は少々寒いらしい。
中級冒険者が身に着けていた上着から、
サイズを調整して仕立てられたフード付きローブを羽織り、
右手には杖一本。
肩にはキューちゃんを乗せて、
ガラスと木で出来た眼鏡をかける。
「あの、ルタルちゃん。今からドラゴン倒しに行くんですけど......」
「でも。その後、地上に出るんでしょ?」
「いや、そうなんだけどさ......」
伸びた髪はキューブの髪飾りで1つにまとめ、
瓦礫で出来た壁から、
レイヤーボスの待つ巨人牢を覗く。
ルタルちゃんは自己防衛の観点から、
こっから先には行けないらしい。
「じゃあ、5時までに」
「いや、あの――」
「さぁ、行きましょうタンテ様。さぁ。さぁ。」
「――いや」
「さぁさぁ」
「あの――」
「ねぇ、聞いてるの?5時」
「いや――」
「さぁさぁソイヤっソイヤっ」
「もちろん17時のほうの」
「――その」
「ア~ラッ祭りだ祭りだワッショ――」
「門限の重要性についてはイェー」
『今日死ぬかもしれないんだけどォオオオ!?』
「「 ・・・ 」」
『心の準備が出来てないんだけどォオオ!!?』
沈黙を破るようにルタルちゃんが口を開く。
「あんたもう9歳で――」
『出た出た!大人になるまで永遠続くやつね!!もう小学生でしょ?もう中学生でしょ?最後は、もう社会人でしょ?ハイハイハイハイ!!分かってますッて!!でーも相手ドラゴンじゃん!?レベルが違ぇじゃん??なのに人の気も知れずやれ門限だ、やれ祭り気分だ、やいのやいの、いやいやいやいや負けたら即ちに死なんですけどォ!!』
手振り身振りを加える俺に、
二人の横顔は真顔になる。
――コシュ―ッと、遠くに聞こえる荒い鼻息。
俺も移す視線のその先。
――グルルルル.....
やっべ。
起こしちゃったね。
ドラ☆ゴン。
「ま。その時は、その時です。」
「そうよ。」
ルタルちゃんは俺の腰を叩く。
なんともフランク。
なんともアバウト。
「命、軽くね?」
「命が軽かろうと、重かろうと、結果にはそれほど左右しません。それに私の計算では。普段通りのタンテ様であれば、勝率は70%を下回らず。自信を持てば、それ以上にもなります。故に作戦は”いのちだいじ”にではありません。”みんながんばれ”。」
「いや、戦うの俺だけ!!」
「じゃあ、ガンガンいけばいいんじゃないですか?うるさいマスターですね。あーあ、ザキザキ。」
「死の呪文で煙たがるな。」
「そうそうキューちゃんの言う通り大丈夫よ、99%勝てるってば。」
「1%に保険かけるなよ、気休めなら100%って言って......」
「心配性ね。というか、あの作品「土の呪文」は無いの?なんで?ダサいから?アンチなの?」
「ドノ作品カハ知ラナイケド、今それどころじゃないでしょ......」
ちなみにある。
どの作品かは言わないけど。
「見せてやりなさい。土魔法の.....真髄を!!」
「あ......はい。」
まぁ。
応援されるのは有難い。
この鼓動は落ち着かぬまま、
不意打ちの先制攻撃も出せず終いだが、
戦いのゴングは鳴ってしまったらしい。
それに、この言葉が今生の別れとも思えないし
いつまでもドキドキはしてられない。
――グルルルルル......!!
巨人牢には狂犬のような唸り声が響いている。
どうやら朝食がまだらしい。
「......じ、じゃあ、行ってくる。」
「そいやっ、そいやっ。」
段差を乗り越え{旧・巨人牢}の土俵へ上がる。
「気を付けてね。」
瓦礫の下から、
ルタルちゃんがそう声をかけた。
――気を付けてか。気を付けて、......ねぇ。
俺はルタルちゃんへ手を振り、
気を付けることが多すぎる竜に相対する。
熟睡モードはとっくに解けているだろう。
「ハァ――」
遮蔽物から身体を露出した俺へ、
竜の赤い目つきがギョッと視線を送る。
薄暗い洞窟で育つと、聴覚も敏感になる。
水とは違う、少し粘着いたヨダレの垂れる音。
僅かに流れる風向きと、
討伐対象の雰囲気が変わる。
「.....フゥ。」
よし。やろう。
呼吸は正常だ。
コンディションは、良い。
「始めて。」
『――アナリシス・スタート。』
キューちゃんの合図と共に、保存瓶と宝箱の木材で作った度の無い手製メガネが情報を映す。
発信源はダンジョンコア。
受信機器はQキューブ。
助手はキューちゃん。
『グウォォォオオオオオオオオ!!!!!!!!!』
ハイライトされたのは威嚇する竜の全貌にその情報。
残存魔力量、残存体力量、
部位ごとのダメージ量に、
合算された総ダメージ量のバー。
そして何よりも、
真っ暗闇の旧巨人牢が、
その輪郭を露わにする。
「うるせぇええええええええええ!!!!!!」
竜に負けじと腹いっぱいに声を出す。
大きさは2リザードンくらい。
ちなみに1リザードンは170cmなので意外と小さい。
≪伝説の系譜、バハムート・ルイン≫
危険度☆☆☆☆
種族:翼竜
属性:NaN(解析中.....)
特徴:幼い
アドバイスQ:「地底で育つ翼竜は珍しく、飛ぶのは苦手そう.....。バハムート系であれば夜目が効かない可能性があります。但し魔力感知は得意そうです。」
――SP2000
――MP2000
――HP2000
――健康状態:良好
――損傷部位:ナシ
「来ます。」
そのお返しは竜らしい、火炎放射のロングブレス。
――ボゥフ・・・グツグツ・・・
「あぁ。」
その予備動作すら全部、解析(みえ)ている。
『――スペル・グノームス。』
【土精霊の願書魔法|(スペル・グノームス)】
系統:固有魔法系・自然魔法
等級:D~A級
属性:①土魔
②物理
詳細:(土精霊の一般魔法を叶える人間用の呪文。
修得・発動共に簡単だが、
タンテ・トシカしか修得者がいないので、
固有魔法系にも分類される。)
杖で定まったスペルをなぞった後、
目の前の地面へ向け、
横一文字に空間を薙ぐ。
――ドォン・・・
「うぉおおおおお!!」
スーパーAIが感情を剥き出して叫ぶ。
迫る火炎に、ドン・ピシャリ。
――ゴォオオオオオオオ・・・!!
生えてきた土壁が火炎を止める。
激しい音が壁の向こうで響いている。
一方、観客席に女子がいる一般男児(現・女児)はクールにキメる。
ズレてない眼鏡をカチャリと一触り。
(ふっ。その程度か......)
「怖ぇええええええええええ――!!!!」
「心と口が逆です、マスター。」
「あぁあああとアッツいし、なっがいぃいいい!!ヒィ!!」
「マスター、声が情けないです。不安です。」
目の前の土壁が壊れるのと同時に、
俺は杖を右へ一振り。
下敷きのような土壁を隙間なく
右側へ連なるよう生やしていく。
見えるだろうか、
下敷き山脈(1m)の峰々が今アナタの周りを.....
――コォオオオオオオオ・・・!!
ブレスが当たり順々に倒れていく土壁。
ちょうど火炎の柱が90度回ったところで、
天然ものの巨大な落石が遮蔽物となる。
「いつまで――」
――ガァウッ!!
間髪入れずに距離が縮まる。
右手一本。
竜の爪が赤く光ると、
3mはあろう遮蔽物を軽々ぶっ壊した。
――パァアアアアン!!
最早、
何の音か分からないような破裂音と共に、
巨人牢の壁へ向けて、弾丸のような岩が飛ぶ。
『いっ、一撃がフロム・ソフトウェア......!!』
「――いつまで持ちますかね。と、言おうとしてました。」
喰らったら死ぬタイプのラリアット。
俺達はその様子を塹壕の中から覗き見る。
場所はと言えば、
竜の視線を90度戻した最初の土壁。
崩壊と新たな壁を右側へ創造する前に、
俺達は魔法で創った落とし穴、もとい塹壕の中に潜んでいた。
「た、助けてルタルちゃん.....!!」
俺は帰路を振り返る。
――いない。
「セコンドの土精霊(グノーム)なら帰りましたよ。たしか『眩(まぶ)しい』つって。」
「引きこもりめ!!」
壊れた土壁の隙間からドラゴンを見る。
ヤツはまだキョロキョロとしている。
「はぁ……アレは相手に考える時間(スキ)を与えない攻めだった。賢いぞ、意外と。」
「大丈夫です。マスター。落ち着いてこの四年間と、ルタル様の言葉を思い出してください。――巨人牢(ここ)はもう、ダンジョンであり・・・」
特訓を始めた時、肝に銘じるよう言われた言葉だ。
四年前のルタルちゃんの顔が浮かぶ。
俺は胸元で、祈るようにグッと杖を握った。
――戦いが始まれば。巨人牢(そのち)はもう、ダンジョンであり・・・
『君(オレ)は、巨人牢(そのち)のマスターとなる。』
{ダンジョンステータス}
Qキューブ(搭載OS:Que Sera Artificial Intelligence)
研究レベル:0
DP(ダンジョンポイント) :NaN(戦闘中...)
MP(モンスターポイント) :NaN(戦闘中...)
RP(リソースポイント) :NaN(戦闘中...)
タイプ:単一層地下空洞型
構 成:全1層
状 態:元・地底湖ダンジョン
称 号:???
危険度:レベル4(D級)
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