ダンジョン作りにはSayがいる!! ‐死んだ元ダンジョンマスターの叔父にビデオレターを送られたが、『ダンジョンづく※△〇✕・・・Sayがいる!!』と、音が途切れてて、結局何したら良いか分からない話‐

西井シノ

現世編

プロローグ 師匠


――2000年1月1日生まれの私には、この世界の全てが私のためにあるように思えた。


 私が1歳と9カ月と11日の時に起きたアメリカでのテロも。

 私が5歳と2カ月と14日の時に設立された動画共有サイトも。

 私が7歳と12カ月と6カ月の時に発売されたゲームも。

 私が11歳と3カ月と11日の時に起きた大震災も。

 私が20歳と1カ月と15日に確認されたウィルスも。

 

 全てが私を記す年表であり、私に解読されることを望んでいる。


 しかしながら、私は貧乏だった。

 私の類稀なる才能を世のために活かそうと、私は探偵となる道を進んだが、如何せんあまり儲からない。舞い込む依頼は、やれ浮気調査だ猫探しだオウム探しだ、私の実績を持て余す雑用ばかりだ。というか私は、金を稼ぐために働くのが苦手だった。というかというか、その情熱がもう消えたように思える。いまある依頼が滞り、スランプに感じるからだろうか。あぁ出来るなら私は、海外の大学に進みワープ航法についての研究がしたかった。あるいは量子力学や地学に興味があるのだが、当てになる投資家は見つからない。世の中、金だ。


「はぁ......」


「溜息だ。」

 

 生意気なお子様め。

 ブカブカの学ラン姿に、緩いカールの天然パーマ。

 この生意気な口を挟む高校生は、私の才能に惚れ込んだバグだ。


「呼吸だよ。呼吸の一環を悪癖の様に括るのは止め給え。」


「なら時給を上げて下さい。」


「お小遣いな。」


 青山先生のどの漫画を読んだのか知らないが、

 高校生探偵なんていうレッテルが好きらしい。

 東京都の最低賃金以下で雑用させているのは内緒。

 師弟関係は結んだが、雇用関係は結んでいないからね。


「しっかり働き給え。助手殿。」


「へーへー。」


 貧乏だ。

 だからあれほど8歳と3カ月の頃、孤児院の先生に当時ブレイクした覆面ゲイ芸人の動画をMAD化したものをアップロードし、収益化したら一儲けしようと提案したのに。

 だからあれほど10歳と6カ月の頃、|孤児院の先生(サンタクロース)にビットコインが欲しいとせがんだのに。

 だからあれほど、萌え絵に声を当てゆうなまの実況動画をあげて稼ぎ、孤児院をアイドル事務所化して仮想空間上のYouTuberグループを作ろうと進言したのに。

 全て誰かに先を越された。

 

 だからあれほどあの土地を......

 だからあれほどあの株を......

 だからあれほどトランプが勝つと......


 あぁ、なんたる始末だ。

 23歳と11カ月と17日。

 天才の私は未だ、穴の空いたソファーで寝ている。


 明日は、23歳と11カ月と18日。

 カレンダーが時計と連動して見える。

 孤児院の事務所であったこの探偵事務所は陽当たりがまま良い。日が登っては沈み、篠原探偵事務所の文字が陰りを生み、流れる。そんな固定カメラで撮られた私が倍速再生される画を想起する。忙しなく動く私と午後から部活の様に出向く助手が、資料を持って右へ左へ。しかしここ最近はソファーの周りをグルグルと歩き、考える時間が増えたようだ。差し当たっては珍しく謎が解けないままでいる。航空自衛隊、小松基地から消えた「F35A」の行方が分からないのだ。


 衛星画像は格納庫の中までは映らない。そして問題の「F35A」は燃料をフルチャージした状態で、格納庫の中からポッカリと消えた。政府はこれらの失態を極秘裏に捜査しているが、行き詰ったのか遂に私の手を借りてきた。メディアの手が掛かった警察組織で捜査規模を拡大するより、スパイが蔓延る現在の自衛隊内で解決するより、民間探偵は使い勝手が良い。何をSNSで拡散しようとオカルトの都市伝説として揉み消せる。かつ私には、気象庁から受けた依頼を起に、過去現在様々に多彩で多大な実績がある。政府はこの天下の個人探偵事務所にお力添えを頼みたい訳だ。しかし結論は確信には変わらない。


「ところで、師匠はいくつなんだ?」


 助手は呑気にも、資料を片付けながら暇そうに答える。


「いいかんじの年齢だよ。」

 

 2000年1月1日生まれの私には、この世界の全てが私のためにあるように思えた。

 強いてそこに不満があるとするならば、私が新世紀世代という輝かしいネーミングに加われないことだろう。だから助手にも年齢をはぐらかしている。そして今回の事件のことも。


「なあ助手。」


「はい?」

 

 腑抜けた声だ。


「再来月、石川に飛ぼうと思う。」


「犯人が分かったんですか?」


「早計だな。ただの正月休みだよ。」


「はぁ......w」


 助手は肩を落とし、やれやれと言った様子で笑って言った。


「なんだね?」


「師匠は貧乏なので、経費でしか旅行に行かない。つまり旅行ならば石川で何かしらの事件があり解決するついでに旅行するということです。喫緊の依頼では航空自衛隊小松基地の騒動が大きな金ヅルとして候補にあがる。そして正月は学生も休み。差し当たっては、俺も行く!!」


「さすがだ。」


 若さとは凄いものだ。私は例外だから置いておいて。一般ピーポ―の代表みたいな凡人である彼の推理力は、この事務所に来てから確かに、グングンとタケノコのように成長しているようだ。才能は有るのかも知れない。私には到底及ばないが。


「フフ......探偵、ですから。」

 

「だがそれとは別件だ。」


「ズコー!!」


「口に出てるぞ、漫画のような擬音が。」


 そうして私は助手を差し置き石川に飛んだが、結末としては呆気なく死んだ。

 最期に瞳へ飛び込んだ景色は、波打ち際で追い詰めたフード姿の戦闘機盗と、

 それから。黒い津波に呑み込まれた私の視界と、助手の姿だった。

 全くもって若さとは凄いものだ。

 私は彼の推理力というか、行動力を含めた探偵としての成長を見くびっていたし、

 当の私もこの世界の奥深さに比べたら、若いというか、まだまだ尻の青いガキである訳だった。





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