第2話 成人
「……その、今までありがとうございます、お母さま。それでは、行って参ります」
「ええ、行ってらっしゃい
「はい、ありがとうございます!」
それから、およそ二年半が経過して。
開いた扉の外にいる私に、玄関から穏やかに微笑み鼓舞の言葉をくれる母。そして、そんな母に再び深く頭を下げ感謝を告げる私。本日は、4月20日――私の誕生日だ。
とは言え、一般的には記念すべきとされているであろう
だって、今日を以て私は18歳――心底、本当に心底待ちに待った成人をようやく迎えたのだから。
「……ふんふ〜ん」
自分でも相当珍しいと自覚しつつ、鼻歌を奏でつつ目的地へと向かう私。目的地とは、不動産店――18になった私の、新たな居住を探すためだ。
そして、これが成人を迎えた昂揚感の理由で。成人になったということは即ち、少なくとも表面上においては責任ある社会の一員と見做されるということ。それが幸か不幸かは、人により見解が異なるのだろうけど――少なくとも、私にとって幸であることに疑いの余地などない。だって、もう私は立派な社会の一員――親の承諾などなくとも、自分の名義で賃貸契約できるようになったのだから。
ところで、自立するにあたり最も重要な経済面に関してだけど――もちろん、抜かりはない。高校入学からほどなくして始めたアルバイトで稼いだ貯蓄が十分にあるし、今後も勉強に支障のない程度で続けていくから。生活費は可能な限り切り詰めるし、娯楽費もほとんど必要ない私なら、それだけの収入で十分に事足りる。
むしろ、大変だったのはアルバイトを承認してもらう過程の方だった。でも、いくら難易度が高くてもここは絶対に引くわけにはいかなかった。なので、若い頃からアルバイトを経験しておくことのメリットを科学的に証明したデータをいくつも引用し粘り強く説得を重ねた。
そして、そんならしからぬ私の姿勢に対し、流石にこれ以上の反対は意味を成さないと悟ったのだろう。決して、学業を疎かにしない――具体的には、全ての定期試験において学年首位を維持し続けるという条件の下、最終的にはアルバイトを認めてくれた。思えば、あの母が妥協を示してくれたのは、後にも先にもあれ一度きりだったように思う。
ともかく、母の提示した厳しい条件を誇張でなく決死の覚悟で乗り越えた私――もう、乗り越えられない
――だけど、そんな楽観的な考えが如何に浅はかだったかを、ほどなくして痛感することとなる。
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