第六章 2-2 到着

          *


「どう見てもこっちの方がテロリストだな」


 見ていたのと実際に乗るのとでは違うバイクに、ミコトはずいぶん手間取ったらしい。

 合流のために寄り道をしていたにも関わらず、草薙たちは発信器の反応が停止してから数分と経たずに目標となる場所に到着していた。


 目標となる何かの作業場のような建物から少し離れたところに車を停めて下りてきたメイドたちの手には、どう見ても殺傷力が高いようにしか見えない銃器が握られていた。


 非殺傷武器はゴムやプラスティックの弾丸を撃ち出すため、弾体重量は軽くても巨大とも言える弾丸を撃ち出す。そのためどうしても銃自体も大型になる傾向があるが、連射が効きそうな小銃型や、殺傷銃なら戦車の装甲も打ち抜けそうな大型ライフル型の非殺傷銃器は、月明かりの下で剣呑なツヤを見せていた。


 澄礼の指示でメイドたちは建物の方々に散っており、罠や警戒装置の有無について次々と報告が入っている。


「オレから離れるなよ」

 ウカに手を差し出して言う草薙は、その言葉だけならば彼女を守るための発言のようだが、違った。


 戦女艦艇ウカノミタマノカミである少女は、例え戦闘レベルにコア出力を上げなくても、空間散乱防御により個人が携帯可能な武器では傷ひとつつけることができない。こちらからも攻撃が制限されてしまうが、ウカの側にいれば格段に怪我をする可能性が減る。


 じろりと草薙の方を見上げたウカだったが、何も言わずに草薙の手を握った。


「作戦目標はただひとつ。雨宮武の奪還だ」

 澄礼はマイクに向かってそう告げた。


「おいちょっと待て。ミコトは助けないつもりか?」

 噛みついてきた草薙のことを冷たい目で見、澄礼は言う。


「ミコトってのは武と一緒にいた女の子だろ? ワタシが受けたのは武の奪還で、これは継続中のあいつの家を守る仕事とも合致する。ミコトって女の子のことは可能なら救出するが、最優先事項じゃない。これは今回の依頼主である戸塚氏も了承済みだ」


 ミコトと武にどんな因縁があるのかは、草薙は知っていた。

 ここのところ一緒に暮らしていたとは言え、十日やそこらでどうにかなる因縁とは思えなかった。

 そして北条政子がミコトを拉致していくならば、いまの彼女では自力で逃げることは困難だろうと思われた。


「もし武が、あの子のことを自分の家族だと言うなら、別だがな」


 建物に向かって歩き出しながら、後ろ姿の澄礼がそう呟く声は、草薙の耳には入ってきていなかった。


 彼女の後ろに着いて、草薙とウカも目標の建物に接近していく。

 一階二階をぶち抜いたかのような構造の建物は、二階部分の灯り取りの窓を巡るように、建物の外にキャットウォークが取りつけられている。


 腐りかけの階段を足音を立てないように気をつけながら登り、見つからないよう覗き込むと、いままさにミコトと武が対面しているところだった。

 救出を急ぐよう言おうとしたとき、ウカが手招きしていることに気がついて、彼女の顔に耳を寄せた。


 一瞬出そうになった声を飲み込んでから、草薙は重厚なライフルを開け放ったままの窓から構えている澄礼を急かした。


「速くしてくれ。急いで戻らねぇといけない用事ができた」

「静かにしろ。これからが大事なところなんだ」


 言われてふたりの様子を覗き込むと、武がミコトに向けて拳銃を構えているのが見えた。

 草薙はもう一度、出そうになった声を飲み込んだ。


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