第六章 2-1 直撃

       * 2 *


 ――思っていた以上にキツいですわね。


 マガツヒ艦艇に接近を続けるミヤウケヒメは、通信に乗せずにそう思っていた。

 愚痴のひとつでも言いたくなるほどの局面であるが、それを言う相手は司令室にいないことはわかっていた。


 主砲の砲身の先端までを含む全長三〇メートルの戦闘体、艤装を操り、最大加速によってどうにかマガツヒ艦隊との距離を中距離戦域まで近づけることができていた。

 一〇〇万キロを切った程度では、おそらく一番大きなものでも一キロもないであろうマガツヒ艦艇は、艤装の光学センサーでは捕らえられていない。しかしレーダー波による探査は、先ほどよりも鮮明に個別の敵の防御領域を捕らえつつあった。


 それにより味方艦艇の命中精度はかなり上がってきていたが、代わりにミヤウケヒメの加速に追いつけないイザナミたちとは相当距離が離れてしまって、支援を受けることはできなくなっていた。


 ミヤウケヒメ自身も、先ほどから砲撃を再開していた。


 二門の副砲を使った照準射撃に続いての主砲攻撃は、ミヤウケヒメが最も得意とする砲撃戦法だった。距離が遠いとは言え、連携した観測情報があり、自分が中距離まで接近しているとなれば命中精度は充分に高い。


 小型艦艇一隻を大破か撃沈させた反応は観測できていたし、中型、大型艦への命中判定も出ている。しかし同時に、それまでほぼ無視を決め込んでいたマガツヒ艦艇が反撃を開始していた。


『エネルギープール四二パーセントに低下。出力安定。S〇〇三二との距離、推定九〇万二三〇〇。速度約プラス三〇.二』

「了解」

 ヌナカワヒメからの音声通信が入る。


 データとして状況はもちろん把握しているし、危険に近い状況に陥っているのもわかっていた。アドバイスも指示もないヌナカワヒメの言葉が現状報告だけではないことを、ミヤウケヒメは理解していた。


 EU第三艦隊は主に近距離および格闘戦距離を得意とする艦隊で、中距離にも近づけていない現状では充分な戦果は期待できない。アジア第二艦隊は中距離戦を得意とする艦隊であったが、前回の遊撃艦隊戦で旗艦が中破していて復帰しておらず、主力を欠いた状態ではやはり戦果は厳しかった。


 もう少ししたら中距離戦域に入るミヤウケヒメ以外の防宙隊第一艦隊も、比較的近距離戦寄りではあるが、中距離戦を得意とする艦隊であり、いまは現役艦では最も古いイザナミが率いている。EU第一艦隊の攻撃が開始されるまでは、それが一番有力な戦力と言えた。


 ――もう少しワタクシが粘らなければなりませんわね。


 反撃してきたことで敵マガツヒ艦隊のおおよその艦種傾向がわかってきている。

 高速であること。攻撃力が高いこと。防御力が比較的低いこと。

 ミヤウケヒメの主砲を直撃させてもAAランクのコア出力を持つ最大艦の撃破はできないが、直撃させ続けられれば、撃沈も可能だと予測されていた。


 ただしそれは、自分が撃破されなければの話だ。


 すでに中型艦の主砲直撃を数発受けているミヤウケヒメは、大型艦の主砲に耐えるのは一発が限界といったところだった。しばらくすればエネルギーは回復するが、回復するまでに二発目を食らうと防御を抜かれてしまう。


「くっ」


 そんなことを考えている刹那、主砲の衝撃を受けた。

 エネルギーを散乱させて拡散する空間散乱防御は正しく機能し、ミヤウケヒメを守ったが、おそらく最大艦の主砲と思われるエネルギーは、完全に防ぎきることができない。


『主砲延長砲身パージ。前面サブバーニアも……、パージ。メインスラスター二、三、出力低下?! まずいですわ!』


 三基あるメインスラスターのうち、二基が被弾により出力が低下していた。可動式である二基の破損は回避運動の低下も意味する。


 そのとき、ほとんど同時に数発の砲撃があったことを告げる警告が入った。


 ほとんど光の速度で発射される砲撃はしかし、光よりもほんのわずかに遅い。九〇万キロ近い距離ともなると、砲撃光を捕らえてから回避運動をする一秒未満の時間があるが、いまのミヤウケヒメには機敏な機動はできなかった。


 時が止まったような錯覚が訪れた後、ミヤウケヒメは意識を失った。


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