第五章 スサノオストライク

第五章 1-1 情報

       * 1 *


 焼きそばパンの最後のひと欠片を口の中に放り込んだとき、ポケットの中で携帯端末が震えた。


 ――緊急メッセージ?


 バイブレーションの震え方から、それが重大なメッセージを着信したときのものだと冬弥は気づいた。


「どうかしたの?」


 目の前でのろのろと小さな弁当箱をつついていた菊理が顔を上げる。

 昼休み、何となく空席となってる武の席で昼食を食べてるところに、何故か菊理も友達ひとり引き連れずにやってきていた。


「武には連絡ついた?」

「うぅん。たぶんバイクで行ってると思うから通話は入れたくないし、メールも返事ないから、たぶん電波が入らないとこにいるんだと思う」

「そう」


 ただでさえ少ない弁当を半分ほど残して、深くため息を吐いた菊理は、弁当箱の蓋を閉じた。


「それはちょっとマズいかな」

 着信した緊急メッセージの内容を確認して、冬弥は眉根にシワを寄せる。


「何があったの?」

「午後の授業はたぶんなくなる」

 端末の画面を菊理に向けると、難しい表情をしながら顔を近づけてきた。


「これ、何語?」

「ロシア語」

「なんでそんなとこのページ? 読めるわけないじゃん」


 いまのところオープンネットに不確定な情報が出て来たばかりで、日本のJネットには掲載されている様子はなかった。仕方なく冬弥は口頭でいま起こってるらしいことを説明する。


「マガツヒの艦隊が発見されたんだ。たぶん地球に接近してきてる」

「マズいの?」

「けっこうね」


 動画の再生にも使っていたタブレット端末を取り出して、いくつかの情報サイトを探っていく。入ってきたばかりの情報に反応して、いろんなところで更新が行われているため、情報が錯綜している様子が見て取れた。

 マスメディアによる情報提示も、IDEAや各国宇宙軍による発表もまだされていないが、それも時間の問題だろうと思われた。

 そして何より問題なのが、現在予測されている防衛網の状況だった。


「いまはいつにも増して、防衛網に展開されてる艦隊数が少ないんだ。先月の遊撃艦隊戦でけっこう被害が出たみたいでね、巡回に当たってる艦隊にも欠員が出てるような状況みたい。マガツヒの艦隊規模の情報はまだ出てないけど、それ次第ではかなり厳しくなるかも」


 現在地球の現役艦隊は、登録されている常設の艦隊で十三。

 ナンバーストライク発生時には各国所属の戦女艦艇を寄り合わせて十六か十七の艦隊が組まれるはずだという話だが、巡回任務に出ている艦隊数は六。そのうち二艦隊は前回の戦いで修理が必要となって、登録されている艦隊構成が揃っていないらしい。


 それらの情報は正式発表によるものではなかったが、ドイツ語で書かれたそのページには、IDEA辺りからリークされたのか、それとも不正な手段で手に入れたものなのかまではわからないものの、戦女艦隊に関してはいつも概ね正しい情報が掲載されていることで有名だった。


「あ、本当にマズいな」

 そのとき着信した新しい情報に、冬弥は思わず言葉を漏らしていた。


「今度はどうしたの?」

 いつの間にか菊理だけでなく、教室中の男女が側に寄ってきて、冬弥の言葉を待っていた。


「マガツヒ艦隊の規模が意外と大きいっぽい。これはあんまり正確な情報じゃないけど、それよりどうもかなり高速で地球に接近してきてるみたい。もしかしたら第三防衛ラインを突破されるかも知れない」


 集まってきているみんなは、一様に表情を暗くする。


 この教室にいる生徒たちは、ファーストストライク後に生まれて、セカンドストライクのときにはまだ物心がついたかどうかの世代。

 四年前のフォースストライクは、地上被害をほぼゼロにすることに成功していたから、マガツヒと戦っていた印象は薄いが、小学校の頃にあったサードストライクでは日本にも少なからず被害があったから、マガツヒの脅威は身を以て感じたことがある。


「第三防衛ライン突破って、全市民避難だっけ?」

「うん。フォースストライク終結直後の、まだ大戦の影響が会った頃には二度あったけど、この三年くらいでは初めての全員避難になるかも知れない」


 第三防衛ラインを割られて地球に直接攻撃を受ける可能性が高まり、避難施設に逃げたとしても、もし砲撃が直撃すれば聞きの懲る手段はほとんどない。そうだとしても、ファーストストライク、セカンドストライクのときにあったような、配給の機能不全を防ぐ効果はある。

 全市民避難は日本中で発令される上、マガツヒ艦隊の撃退が確認されるまで継続されるため、その影響は恐ろしく大きい。


「武、大丈夫かな……」

 席から立ち上がった菊理は、窓の外を眺める。

「何事もないことを、祈るしかないね」


 メールで連絡がつかないのであれば、やれることなどほとんどない。

 菊理とともに外を眺めながら、冬弥は武の無事をただ祈ることしかできなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る