第2章 鬼バズり散らかして登録者100万人

第8話 妹ちゃん登場


「ふあああぁぁぁ……。けっきょく夜更かししちゃった」



 池袋ダンジョンの下層から戻ってきた翌日。

 マサトはあくびを噛み殺しながら寝室を出た。

 昨日は夜遅くまで動画を編集して、あまり眠れなかったのだ。



(これでネクロオーガ対策はバッチリのはず)



 マサトは善意からモンスターの対策動画をアップロードしていた。

 これまでまともに戦えなかったため『ゆっくり妖怪解説動画』で終わっていたが、昨日は実戦動画を撮影できた。



(父さんから教わった妖怪知識が誰かの役に立てばいいな)



 葛乃葉くずのは家に伝わる妖怪退治のノウハウは、1000年以上経った今も引き継がれている。他の親族は別の仕事に就いたが、マサトだけは家業である退魔師の道を志した。その理由は……。



「あ…………」



 ふとマサトの顔が窓に映る。

 窓にはキツネ耳を生やした寝ぼけた少年の顔が浮かんでいた。



「気を抜くと未だに生えてくるんだよなぁ……」



 マサトは頭をポンポンと叩いてキツネ耳を引っ込める。

 いきなり覚醒した影響で霊力が漏れてるんだろう。


 人間社会で暮らすには狐の耳は目立ちすぎる。

 この耳のせいで生まれ故郷の村で苛められた。

 退魔師を志したのも、霊力を整えてキツネ耳を抑えるためだった。



(霊力が漏れるのはいい傾向だ。それだけ信仰力が集まってる証拠だからね)



 最後の方はバタバタしてきちんとした挨拶ができなかった。

 今朝も起きたばかりでチャンネルをまだチェックしていない。



「コメントでお礼も書きたいし、登校前に確認しておくか……」



 何てことを考えながら廊下を進み、突き当たりのドアを開けると――



「あ…………っ!」

「あ…………っ!」



 シャワーから出てばかりの黒髪美少女と目が合った。



「早くドアを閉めろ、このバカにぃぃッ!!!!」



 ***



「ミコト。お兄ちゃんが悪かった。この通りだ、すまん」


「お兄ちゃんってばデリカシーがないよね」



 リビングにて土下座するマサト。

 ミコトと呼ばれた小柄な少女は腕を組み、背のわりに大きな胸を揺らしてフンと鼻を鳴らす。顔こそマサトと似ているが、意志の強そうな目つきがマイペースな兄とは対照的だった。



「年頃の女の子と同居してるんだからドアを開ける前にノック。これ常識だよ」


「だから悪かったって。朝食を作ったから機嫌直してよ」



 テーブルにはマサトが作った朝食が並べられていた。

 今朝のメニューは、ベーコンとホウレンソウのバターソテーと目玉焼き。

 味噌汁はインスタントだが、細かく刻んだ油揚げを入れるのが葛乃葉流だった。



「母さんが送ってくれたお米だよ。ミコトが東京に来てから二週間経つでしょ。そろそろ実家の味が恋しくなった頃じゃない?」


「朝は駅前のオシャンティなカフェでベーグルを食べるって決めてるの」


「それなら仕方ない。駅前のカフェはいつも長蛇の列だ。並んでる間に授業が始まるだろうから朝食は抜きだね」


「ぐっ……! 配信と違ってベラベラと。いいもん! ダイエット中だもん!」



 プイっとそっぽを向くミコト。

 だが、そのお腹がぐぅ~と鳴った。



「……けどまあ、残すとお米の神様に悪いから」


「あはは。召し上がれ」



 ミコトは頬を赤く染めると渋々と食卓に着いた。

 マサトは実家にいた頃から1歳年下の妹に手を焼いていた。


 彼女の名前は【葛乃葉ミコト】。

 この春にマサトと同じ高校に進学した妹だ。

 親の言いつけで、2LDKのアパートにマサトと一緒に暮らしている。


 家賃も生活費も親持ちで、お小遣いも仕送り頼みだ。

 バイト代わりにスパチャで稼ぐ計画も頓挫してる。

 妹を迎え入れる以外、マサトに選択肢はなかった。



「その制服似合ってるね。ウチの高校には慣れた?」


「おだてても許しませ~ん。高校は……。はぁ…………」


「何か問題でも?」


「問題大ありだよ。気づいてないの? 昨日の配信、鬼バズってたじゃん」


「大げさだなぁ。同接は増えたけど、そこまでじゃないって」



 マサトはスマホを操作して、D-tubeのマイチャンネルを開く。

 すると――



……!? たったの一晩で!?」

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