穢祓清雨 -穢レ祓イ清ム雨-
佐倉伸哉
水端
大都会は昼夜を分かたず回り続ける。まるで、この星のように。
朝。眠りから目覚めた人々は活動を開始する。太陽が昇るのと比例し街も徐々に覚醒していく。
昼。人間が最も活発的になる時間帯はあちこちから発せられる音に満ち溢れる。それ即ち、賑わいの証でもあった。
晩。夜の
春夏秋冬四六時中
夜を徹して盛り上がった酒場や
そんな時間帯に、仕事を目的とせず活動している
ふらっと現れた老婆は、自動販売機の脇に置かれたペットボトルや建物の隙間に捨てられた酒の空き瓶・空き缶、道に落ちている煙草の吸殻やレシート等を黙々と拾っていく。飲み残しや雨水などの液体は
カラスやスズメの鳴き声がコンクリートジャングルに響く中、老婆は淡々とゴミを拾う。ゆっくりとした足取りで歩いた老婆の後は、クリーンな状態へ変わっていた。歓楽街は“清らか”とは程遠いものの、ゴミが取り除かれただけで見栄えが良くなったのは確かだ。完全なボランティアで清掃していくその様は、雑多な色が入り混じる“都市”という絵画に付着した汚れや埃を丁寧に拭っているみたいだった。
一通り片付け終えた老婆は、重たくなったリヤカーを牽いて雑居ビル群から離れていく。ゴミ収集車や早朝配達の原付バイクが車道を通り過ぎていく傍ら、人力で荷車を牽く姿は全てを受け容れる都会の一部として溶け込んでいた。
アスファルトの敷かれた道にはベンチが等間隔に設置され、都会の喧騒から離れられる憩いのスポットとして知られる。リヤカーを邪魔にならない場所へ停めた老婆は黒いゴミ袋を腰に結び、透明なゴミ袋と火鋏を持ち砂浜へ下りる。
海岸は意外とゴミが多い。漂着したブイや漁具の一部に外国語が印字されたプラスチック製品、テンション上げ上げで楽しんだと思われる花火の残骸や使い捨てライター、海を眺めながら口にしたであろう弁当容器や空き缶……。決められた管理業者が定期的に清掃する公園と異なり、海岸は
「おはよう、“コウ”さん」
幾度目かの分別をしていた時、不意に声が掛けられた。“コウ”と呼ばれた老婆が振り返ると、似たような服装の老齢男性が立っていた。
「おはようさん。今日はいつもより遅いね」
「昨日の昼にちょっと重たい物を持ち上げた時に腰を痛めちまって……痛みは
そう言い、弱った顔で腰を
「でも、偉いよ。体が痛くても日課のウォーキングを欠かさないんだから。アタシ
しみじみとした口調で語るコウに、男性は「いやいや」と謙遜するように手を振る。
「七十半ばの僕より
絶賛する男性にコウは大袈裟だと言わんばかりに否定する。
老婆はこの界隈で知る人ぞ知る有名人だった。“
「お互い、体と相談しながら程々に、ね」
「はい。では」
男性はペコリと頭を下げ、離れて行った。毎日のように顔を会わせる馴染みの人に挨拶をするのが目的で、立ち話に興じる
その後も砂浜とリヤカーの往復を幾度か重ねると、木箱はゴミで山盛りになった。通勤・通学の人達が出てくる前に、コウはリヤカーを牽いて
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