第2話 喫茶「レジーメ」の固定客

「「いただきまーす」」

結局、昼飯は水城みずきのバイト先で食べることにした。

港近くの小さな喫茶店「レジーメ」。落ち着いた洋風な雰囲気で、店長のおばぁちゃんも人がいい。俺をアルバイトとして雇ってくれもした(水城の謎のごり押しによって常雇いじゃなくて日雇い扱いだが)。水城も俺も気に入っているが、どうやらこの島の中ではあまり人気でないようだ。固定客はバイトである俺たち以外、数人しかいない。

「そういやココの代金ってどうなってるんだ? 思い返してみれば払ったことなかったけど」

「ツケ。月末に給料から天引きされるの」

オムライスを頬張る水城は興味なさげに言い捨てた。

調子に乗って頼んだ大辛のカレーライスが思いのほか辛く、取りつく島がない俺は窓の外を眺める。

窓の外にはコンクリートでできた桟橋と、その奥でキラキラ輝く瀬戸内海が見える。漁船の多くが出払ってるため、非常にすっきりしている反面、少し寂しくも感じる。


いつまでも海を眺めていても仕方がないので、俺が覚悟を決めて大辛カレーライスと格闘していた時、ドアの鈴がカランコロンと鳴る音がした。「いらっしゃい」とおばあちゃんの間の伸びた声が響く。

「おばあちゃん! 何か飲むもの頂戴! 暑くて仕方がないわ!」

白のセーラー服の胸元をバサバサとあおぎながら入ってきたのは木戸春香きどはるか。ショートボブの髪は汗で額にベッタリ張り付いている。ちなみに木戸春香は喫茶「レジーメ」の固定客の一人で、一番にぎやかな(水木いわく、やかましい)客でもある。

「春香ちゃん、今日もまた補修かい?」

おばあちゃんがメロンソーダを木戸春香の座るテーブルに置きながら言った。

「そうなんです。本当に夏休みだっていうのに多くって、嫌になっちゃいますよー!」

両手足を投げ出しながら、木戸春香が全身を使って感情を表現する。俺は木戸春香のこういうのは見ていて楽しいのだが、水城はそうでもないらしい。

「水城ちゃん、あなたも高校生よね。この島の人なら本土の高校一択だと思うけど、あなたは補習受けてないのね。なんでかしら?」

「あなたほどバカじゃないから」

「なんですと! そもそもあなた学校でも見たことないし、そもそも学校行ってるのかしら?」

かなりデリケートな部分にまで踏み込んでくるな、と俺が若干引いていると、

「あなたも! 夏休みだからってずっと休みでもないでしょ。どうしてるのよそこらへんは」

木戸春香の流れ弾を喰らった。

「俺は、そのあれだよ……」

「学年が違うんじゃない? あなた何年?」

うまく答えられずにいると水城が返してくれた。

「わたしは高三よ。あなた達は?」

「俺は一」

「私もそのくらい」

「若いわねぇ~」と驚く木戸春香。心配になるくらい自由人だ。

この島に来て一週間で学んだことだが、木戸春香のコレは決して悪意があるわけではない。100%天然だ。素直過ぎるのも困ったものだな、と俺は大辛カレーライスをつつきながら思った。

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