09 吉見蒼正5


「クソッ! 朝か!!」


 夢から覚めた蒼正は、いきどおりながらスマホを握ってアラームを止めた。


「結局、夢の中のキャラに言いくるめられたみたいでムカつく……」


 昨夜の夢は、最初はキスの感触を楽しむ内容だったのだが、最後の方は姫っぽいキャラと口喧嘩となった。これから殴り合いの大喧嘩に発展しそうになった所でスマホのアラーム音で現実に引き戻されたから、消化不良で怒りは収まらない。

 その顔のまま蒼正がリビングに顔を出すと、驚く有紀の顔が目に入った。


「怒ってるみたいだけど、どうしたの? 何かあった??」

「いや……酷い夢を見ただけ」

「そう……最近、寝付きが悪いんじゃない? 大丈夫??」

「よく寝たから大丈夫。手も足も痛く無くなったから、学校行くよ」

「あ、うん……」


 心配症な有紀に元気な姿を見せた蒼正は、朝食を運んで先に食べ始める。そうして顔を洗う際には、念入りに顔を確認。怒りは収めて、足取り重く登校して行くのであった。



 放課後……今日は消しゴムや丸めた紙が飛んで来た以外は平和だったと思いながら帰宅した蒼正は、自室のベッドで横になると昨夜の夢の事を考えていた。


「やっぱり、どう考えても可笑しいよな? 夢の中のキャラが自分の夢なんて言うなんて……どんだけ入り組んだ夢を見てんだ」


 蒼正は自分が病んでいるのでは無いかと少し心配。さらに唯一安心して自分を出せる世界が不安定になっているのは、心の平穏の為には悪影響を受けるのでは無いかと不安になる。

 ただ、そんな顔をしていては有紀がまた心配して来るので普通の顔に戻し、寝る時間になると一番好きなシチュエーションを思い浮かべて眠るのであった。



「さあ! 冒険の始まりだ!!」

「「「「おお~!」」」」


 今日の夢は、異世界勇者ハーレム物。最初から好きな女性キャラをはべらせて、魔王を倒す為に城から旅立った。

 ザコモンスターを剣で斬り裂き、仲間に褒め称えられたりチヤホヤされたり。宿ではワッキャウフフの展開で楽しみ、少し巻き気味で魔王城を目指す。


 そうして魔王城手前の森の中では、強いけど蒼正に取ってはザコのモンスターを皆で協力して倒せば、焚き火を囲んで愛の告白を全て受け入れる。

 ここまではいつもの設定通りなので、やはり昨夜がたまたまの失敗作だったのだと蒼正は安心する。


 だがしかし、次の魔王城を目の前にするシーンでは、呆気に取られていた。


「な、なんで……城がハーフ&ハーフ!?」


 そう。見た目はおどろおどろしいのだが、魔王城の右側は西洋風の作りで左側はメルヘンチックな作りをしていたのだ。


「やっと着いたね。アレが魔王城……はい??」


 そこに、蒼正とは真逆の見目美しい男ばかりの逆ハーレムパーティが森から出て来たが、真ん中にいた聖女っぽい女性は魔王城を見て固まった。

 

「なんだお前達は!!」

「へ……??」


 その異常な展開に、先に復活したのは蒼正。仲間の女性達より前に出て剣を構えた。


「なんで勇者パーティがもう一組居るの!?」

「はあ? 勇者パーティは僕達だけだ!!」

「いやいや、この格好いい勇者見て分から無いの!?」

「どこがだ! てか、お前は聖女のつもりか? うちの聖女の方が断然美人で巨乳だぞ!!」

「はあ~~~? 誰の胸が無いのよ! このチビ勇者!!」

「はあ~~~? 平均身長はあります~! このまな板聖女!!」


 せっかくの異世界物なのに、邪魔されたのだから蒼正は激怒。昨夜と同じように、口喧嘩に突入するのであった。



「もういい……俺自ら消してやる!」


 ここは蒼正の夢の中。本来ならば想像するだけで必要の無いキャラは消せるのだが、怒りのせいで忘れてる。

 なので剣を振り上げて逆ハーレムパーティに突っ込んで行った。


「消してやるのはこっち台詞よ! 賢者! 撃て~~~!!」


 それを迎え撃たんとする聖女の命令。イケメン賢者は杖を向けると、そこから巨大な炎の玉が飛び出した。


「んなの喰らうか! アトミックブレイド!!」


 その攻撃に、蒼正は必殺技で対応。炎の玉を飛ぶ斬撃で斬り裂き真っ二つにする。


「どうだ! え? あつっ!? あつあつあつあつあつっ!?」


 しかし、炎の玉が分かれたまでは良かったが、地面に着弾した後、炎を辺りに撒き散らしたので蒼正のマントに着火。熱さに驚いて走り回る事に。


「へ? うちの勇者と聖騎士が真っ二つになってる……なにこれ!?」


 聖女も聖女で大混乱。こんなにアッサリと言うか主人公の部類に入るキャラが魔王到達前に死んでしまったからだ。



 しばし蒼正達は驚きのせいでワーキャーやっていたけど、我に返ってからは戦争再開。攻撃魔法が飛び交っていたが……


「あつっ!? ちょっと待って!!」

「痺れた~! 待って待って!?」


 お互いの炎魔法と電撃魔法がかすって涙目。痛みに驚いてすぐに停戦を呼び掛けるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る