第19話 暴力が全てを解決するって本当ですか

「次はヴィオラね。

 今度こそきっちり話してちょうだい」

 アイラは言った。



 ヴィオラの話はかなり長かったので、一部俺が記す。


 ヴィオラは吸血鬼ヴァンパイアであり、約半世紀ぶりに目を覚ました。

 何しろ半世紀も寝ていたのでお腹が空いていた。

 ヴィオラは善性の吸血鬼ヴァンパイアであり、同意の上でしか血を吸わない、というかもらわない。


 しかし長く寝ていたので、血をくれそうな知り合いはおらず難儀していた。



「魔術師組合に来れば良いのに」

 俺は言った。

 多分なんとかなると思う。


「あそこは嫌いなんですゥ」


 あーうー、気持ちは分かる。


 うまい具合にヒトの血を吸った蚊を食ったり、ポーションで魔力を補給したりしたが、やはりお腹は空いていた。

 季節は秋だ。

 そのうち蚊もいなくなってしまう。


 ヴィオラはダンジョンに潜って、魔物の血を吸うことを考えた。

 ヒト型魔物の血なら力になるし、単なる魔物でも魔力の補給はできる。



 冒険者組合には半世紀前にヴィオラが冒険者だった時の記録が残っていた。

(記録管理係は代々エルフが担ってるそうだ)

 組合からデニスとボボンを紹介してもらい、ジルも加わっていざダンジョンとなった。

 ジルはあまり好きなタイプではなかったが、冒険者組合のヒトに一緒に連れて行ってくれと頼まれたそうだ。


「ダンジョンに潜りました。

 でも、魔物がぜんぜんいないんですゥ。

 スライムとスケルトンしかいない。

 スライムもスケルトンも血がありません」


 さらに真っ昼間に動き回ったので消耗が激しかった。

 夜にコソコソ動き回るのとは負担が違う。


「半月の浅層に魔物モンスターがいないのは仕方がないです。

 でももう少し深く潜れば魔物モンスターも出るはずなんです。

 私は何としてもまともな魔物を狩りたかったんです」


「ところが、ジルがもう帰りたいとか言い出しやがって。

 付いてきただけで、ろくに魔物モンスターも狩ってないのに。

 こっちは遊びじゃないんです!

 本気で狩りをしてるんです!」

 語るヴィオラの目はいささかすわっている。



「昼ご飯になりました。

 こっちはお腹を空かせているのにみんなパクパク食べて」


「……そこでその、、血の匂いがしてきて」

 ヴィオラは口ごもりながらジルを見た。


 血の匂い?ジルが?なんで?


「あ!月経か」

 俺は閃いた。

 エルフ族の月経と吸血鬼ヴァンパイアがぶつかるとは運が悪い。


「エドモン、だまんなさいよ!」

 アイラにピシャリと言われる。


 なんだよ!

 言っておくが、俺は治癒術師で医学生である。

 当然の知識である。



「突然、ジルが帰るとか言って立ち上がりました。

 私のことを強姦魔みたいに見やがって。

 言っておきますが、私は同意なく血を吸ったことはありませんから!」


「ジルなんて無視すべきだったんですが、ついそのまま追いかけてしまいました。

 言っておきますが私はジルには興味ありません。

 でもッお腹空いてたし、ジルは血の匂いがするし、『血の一滴でも置いて行ってくれればいいのに』って思ってたんですけど、つい口にだしてしまって、ジルと目が合って、気がついたらグサッと胸を刺されてました」


 ヴィオラも相当追い詰められていたんだな。



「ヴィオラはジルの体に手を触ったりはしてないんだよな」

 俺は確認する。


「ハイ」


「目が合っただけでナイフで刺されるのは俺は不当だと思う」


 俺の意見だ。

 さっきヴィオラの味方をするって言ったけど、これは本当にそう思う。


 ヴィオラはポロポロと涙を流しはじめた。

 俺はうろたえる。



「そうなんですエド様私はかわいそうです。

 すごくかわいそうだったんです。

 胸を刺された後、同じパーティーの仲間にダンジョンの中に置いていかれたんです。

 かわいそうです。うんとかわいそうです。

 そりゃジルはショックで泣いてたけど、デニスもボボンも、みなジルにばっか構って、私のことは放り出して。

 私だって泣きたかったんです。

 でも力尽きて泣けなかったんです」


「刺したジルにが一番に腹立ちますけど、ボボンもデニスもダンジョンの中に私を見捨てたんですよ」

 ヴィオラは涙を流しながら切々と語った。



 仮に俺が。

 ダンジョンで、動けなくなって、仲間に見捨てられたら、それはもう心細いだろう。

 俺は心の底からヴィオラに同情した。

 ジルもデニスもボボンも何も言わなかった。



「うるさい!」

 沈黙を破ったのはアイラである。


「でもでもこいつら、悪いことしたと思ってないんですよ!

 それが腹立つんです!」


「文句があるなら、地上に出たあとぶん殴ればいいでしょ?」

 アイラが言う。


 ヴィオラは誓約で縛られてる。

 ダンジョンにいる間は冒険者に暴力は振るえないはずだ。


「私が思いっきり殴ったら死んじゃうじゃないですか!

 私は無駄な人殺しをしたいわけじゃないんです!」


「そんなの殴り方次第でしょ。

 とっ捕まえて、人前で尻でも叩いてやったらいいわよ。

 多分死なないんじゃない?

 だいぶスッキリするわよ」

 アイラは妖しく笑いながら言った。


 しばらくの沈黙があった。


「さすがアイラさん!素晴らしいワンダフルです!」

 ヴィオラの顔が花が咲くように明るくなった。

 そりゃもうパァァっと。


 ヴィオラはアイラを名前で呼ぶのは初めてではないだろうか。




 さて、一方でデニスとボボンの顔は目に見えて青くなった。

 ボボンは黒い毛皮で青くなるはずないんだが、なんか分かるんだよ。

 気配ってヤツ?

 気持ちは分かるよ。

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