第11話 ヴィオラ 

「はァー、ご主人様の生き血はたいへん美味しいですゥ」

 死体から回復した吸血鬼ヴァンパイアヴィオラはコップの血液を飲み干した。


 血液の提供者としては光栄というべきか。


 薄い金髪プラチナブロンドヴァイオレットの瞳が映える。

 死体から復活した動くヴィオラはちょっと見ないレベルの美少女だ。



「背中は大丈夫ですか?俺が落ちてぶつかった時にできた傷です」

 俺は言葉がていねいになった。


「大丈夫です。

 ご主人様のおかげで良くなりました。

 治癒術師の血はよく効きます」

 ヴィオラは花がほころぶ(本当にそんな感じだった)ように微笑んだ。


 背中を見たがヴィオラの凹みは消えている。

 良かった。

 俺は心の底から思う。



「ちょっと吸血鬼ヴァンパイアさん、話を聞きたいんだけど」

 アイラ脇から口を突っ込んできた。



吸血鬼しゅぞくめいじゃなくてヴィオラって呼んで欲しいです。

 ご主人様の名を教えていただけませんか」

 ヴィオラは俺の方を見ながら言った。


「エドモンだ。

 治癒術師ヒーラーのエドモン。

 先程はヴィオラの上に落っこちて申し訳なかった。

 おかげで俺は無傷だった」


「私は死体同然で何も感じなかったので大丈夫です。

 わざとではないのも分かっています。

 あの、エド様と呼んでいいですか」


「エドでいいよ。俺もヴィオラって呼んでいいかな」

 マッドハウス解決のためにもヴィオラとのコミュニケーションは大事だよな。うん。


「私のことはヴィオラで構いません。

 でも、ご主人様を呼び捨てにするのは気が引けます。

 ご主人様と私を会わせてくれたダンジョンにら感謝しかありません。

 ご主人様が素敵な人で良かったです。

 ご主人様の青い目はとてもきれいです、あ、黒い髪もステキです」

 ヴィオラは立石に水の如く話す。

 満面の笑顔だ。 

 少し顔が近い。


 なお、ヴィオラの素敵の評価はお世辞であろう。

 俺の容姿については姉と妹曰く「平均より少しは上だけど何かが足りない」とのことで、正しいのはこっちだと思う。



吸血鬼ヴァンパイアヴィオラさん、今は親睦を深める時じゃないの」

 再度アイラが脇から主張してきた。


「なんですか赤毛ノッポ女、私は今、エド様と話をしてるんです」

 ヴィオラはツンと言う。


 アイラのこめかみが一瞬ヒクつき、すぐに真顔に戻る。


「今ダンジョンではマッドハウスが発生してるの。解決のために協力をお願いできないかしら?

 誰があなたの心臓にナイフを刺したの?」


 ヴィオラは横目でアイラの方を見た。

 分かりやすく見るからに不愉快そうな表情だ。

 まあ、アイラはヴィオラに聖水かけようとしていたから。



「ヴィオラ、マッドハウスを解除してダンジョンを出るのが俺たちの目的なんだ。

 話してくれるかな?

 君をナイフで刺したのはどんなヤツなんだ?」


 言っておくが、目的は美少女吸血鬼ヴァンパイアと仲良くなることではないぞ。


 目的はマッドハウスを解除し、ダンジョンを出ることだ。

 うん。


「わかりました。エド様の頼みなら話します。

 そこの赤毛ノッポ女は関係ありませんからね」

 ヴィオラは俺にだけ笑顔を向ける。


 この組み合わせ、大丈夫だろうか。

 喧嘩してる時の姉と妹より仲が悪い。

 前途多難である。

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